第74話:星落としの重力と、深淵への扉
俺たちは巨大なサンドワームの感知範囲から一旦大きく離れ、安全な砂丘の上へと避難して作戦会議を開いていた。
「……あのサンドワームからダンジョンの気配がしたって、どう言うことだ?」
「気配を感じただけで、内部がどうなっているかまでは分かりませんわ」
リコも腕組みをして首を傾げている。
「つまり、倒して調べてみないと分からないってことか。でも、どうやって倒すんだよあれ……」
異常な再生能力と、規格外のサイズ。物理的な攻撃は通りにくく、イザナミの千の斬撃すら決定打にはならなかった。
「ハク、あなたの魔法で丸ごと凍らせるのはどうですか?」
リコの提案に、ハクは静かに首を横に振った。
「あの巨大さでは、全体を凍らせるのは難しいだろう。部分的に凍らせて破壊しても、おそらくすぐに再生してしまうはずだ」
手詰まりかと思われたその時。
タンクが、頼もしく鼻息を鳴らした。
「ガハハ! 今回は俺に任せておけ! とっておきの魔法を見せてやるぜ!」
「とっておきの魔法って?」
「まぁ、楽しみにしとけって! 兄ちゃんたちは、俺の準備が終わるまで、サンドワームがその場から移動しないように時間を稼いでくれればいい!」
自信満々なタンクの言葉に、俺はリコと顔を見合わせた。
「……リコ、どう思う?」
「他に作戦もありませんし、今回はタンクを信じてみましょう!」
◆ ◆ ◆
作戦が決まり、俺たちは再びサンドワームの元へと向かった。
ベヒーモスの姿のまま、タンクが力強く前足で地面を叩き、強烈な振動を砂漠に響かせる。
すると、振動を感知したサンドワームが、大口を開けて地中から勢いよく飛び出してきた。
「よし、ハク! なるべく同じ場所を攻撃して、再生を遅らせよう!」
「承知した!」
ハクが駆け出す。
一つ目の封印が解けたことで、ハクのステータスは爆発的に上がっていた。
【神速】と【神隠し】のスキルが完全に合わさり、ハクの姿は全く見えなくなる。目に見えない敵からの超高速の攻撃に、サンドワームは激しく怯え、恐怖しているようだった。
「すげぇ……。出会った時は鬼ごっこでなんとか捕まえられたけど、今は絶対無理だな笑」
ハクの圧倒的な無双ぶりに感心していると、リコが肩から飛び立った。
「こちらもいきますわよ!」
「おう! 【完全融合】!!」
俺とリコが光に包まれ、互いの力が同化する。
光が晴れると、俺の髪は白銀に輝き、膨大な魔力が全身から立ち昇っていた。
俺は高位の光魔法とイザナミの斬撃を絶え間なく放ち、ハクと共に少しずつサンドワームの巨体にダメージを与え、足止めを続ける。
一方その頃。
砂丘に立つタンクは、ベヒーモスの姿から、筋骨隆々の厳つい『人型』の姿へと変化し、両手に莫大な魔力を込めていた。
「いくぜ! 重力魔法……『冥王の引力』!!」
タンクが空に向かって両手を突き出す。
すると、凄まじい引力を持った漆黒の重力球が、超高速で遥か上空へと飛んでいった。
「おい、あいつどこに放ってんだよ!」
見当違いの方向へ飛んでいく魔法を見て俺が叫ぶと、リコがピンと耳を立てた。
「……なるほど! おもしろいですわ!」
「おもしろい? 何するか分かったのか?」
「ええ! このまま攻撃を続けます! ハクは『極氷世界』で、サンドワームの動きを封じてください!」
「任せろ! 『極氷世界』!」
ハクが姿を現し、周囲一帯を絶対零度へと変える大魔法を放つ。
パキパキパキッ! と音を立ててサンドワームの表面が凍りつき、その巨体の動きと再生能力が著しく落ちた。
「――来たぜ兄ちゃん! そこから離れな! 『星落とし(メテオ・ストライク)』!!」
タンクの合図で、俺たちは一斉にその場から離脱した。
空が、真っ赤に染まっていた。
上空に放たれた『冥王の引力』が引き寄せたもの。それは、大気圏で燃え盛る巨大な『隕石』だった。
ゴオォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!
空を焼き尽くしながら落ちてきた隕石が、サンドワームに向かって一直線に衝突する。
圧倒的な質量の前にサンドワームは砕け散り、その衝撃で砂漠に巨大なクレーターができたのだった。
ズドドドォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!
「バッカヤロー……」
凄まじい衝撃波によって、俺の体はあっさりと弾き飛ばされ、声が遠のいていく。
「ガハハ! やりすぎたな!」
自分の起こした天変地異を見て、タンクが豪快に笑っていた。
◆ ◆ ◆
「ペッ、口の中が砂まみれだ……」
文句を言いながら戻ってきた俺は、仲間たちと共に、クレーターの中心にあるサンドワームの死骸を調べることにした。
「地中に残された体内の方に気配を感じますわ。これは……入るしかなさそうですね」
リコの言葉に、俺たちは全員、無言で固まった。
「まじかよ……。ドロドロしてるし、ニオイもなかなかだぞ……」
「……ダンジョンに着いたら教えてくれ」
言うが早いか、ハクがスーッと俺の影の中に溶け込んでしまった。
「ハク! お前だけずるいぞ!」
「どうなっているか興味深いですが……これは勇気がいりますわね」
リコでさえ、ドロドロの肉壁には少し引いているようだ。
「僕もちょっと苦手だよー。臭いだけでも、なんとかならないかなぁ……」
耳を垂らして嫌がるルーに、タンクが鼻を鳴らした。
「いつもの『クリーン』でキレイにしたらいいじゃねーか」
「「「それだ!!」」」
俺たちは即座に採用した。
ルーが周囲に『クリーン』を展開しながら進むことになり、俺が光魔法で中を照らしながら、巨大な体内トンネルを進んでいく。
尾の方へ向かって深く潜っていくにつれ、徐々に肉のトンネルの幅が狭くなっていく。
そして、その最奥に辿り着くと。
そこには、不自然なほど大きな『扉』が立ち塞がっていた。
「色々ありすぎて、あんまり驚かなくなって来たな……」
「これはダンジョンに繋がる扉ですね。おそらく、入り口をサンドワームが飲み込んだことで突然変異したのかと」
「よし……開けるぞ」
俺は力を込め、重厚な扉を押し開いた。
扉の先には、暗い洞窟の景色……ではなく、目を疑うような光景が広がっていた。
「な、なんだこれ……」
果てしなく広がる青い空。切り立った雄大な緑の山々と深い谷、そしてそれらをぐるりと囲むように広がる透き通った海。
まるで、どこか南の島の広大な大自然そのものが、ダンジョンの空間拡張によってすっぽりと収まっているかのようだ。
「こ、これは……」
リコが、かつてないほどに緊張した声で呟いた。
「『竜の楽園』ですわ……」




