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16.立烏帽子

 私の名はギュンター。先日家督を息子に譲り、悠々自適な隠居生活に入った。長年に渡る領地経営と社交界での腹の探り合いに疲れ果て、残りの人生は趣味に費やすつもりだ。

 私の、いや、我が家の代々の趣味はアイテム収集である。

 面白い効能のアイテム、美しく希少なアイテム、果ては呪いのアイテムまで、実際に使用するかどうかは問題ではなく、ただただ集めたいのだ。

 その収集資金のために領地経営に精を出し、様々な事業に投資をし、代々我がサメールディエンス伯爵家は莫大な富を築いている。これより上の爵位は必要ない。爵位が上がると面倒事も増えるからな。代々の当主が似たような気質のため、我が家は常に中立を保ち、面倒な政争を回避してきた。

 

 領地の城には代々収集してきた数多くのアイテムが飾られている。王都の屋敷には限られたものしかなかったから、これからは死ぬまでたくさんのアイテムに囲まれ、新しいアイテムを収集し暮らしていくのだ、と思うと少年の頃のように胸が高鳴る。

 ただ問題は、代々アイテム収集を趣味としてきただけに、新しいアイテムと出会うことが滅多になくなってきたことだ。

 個人用のアイテムでも使用方法がわからずに手放す者も多い。私のように珍しいアイテムに金を惜しまぬコレクターは多いからな。浅層で個人用として手に入れたアイテムと同じものが深層の宝箱から出ることもある。エリクサーやパナケアがよくある例だな。身近な者を救いたいと願いアイテムを求める者が多い証拠だ。

 

 新しいアイテムにはなかなか出会えないが、代々収集してきたアイテムの使用方法を探るという楽しみもある。アイテム名と効能は神殿で簡単にわかるが、使用方法がわからないままのアイテムというのは非常に多い。ひとつでも多くのアイテムの使用方法を見つけ出すのも代々の当主の楽しみだ。私も若い頃は祖父がうきうきと冒険者からアイテムを買い取ったり、考察屋に通うのを羨ましく眺めていたものだが、自分がその年になったのだと思うと感慨深いものがある。


 王都に暮らしていた時に、凄腕の考察屋の噂を聞いた。リヴィエール公爵領に店を構える考察屋で、若い女性がやっているという。うちの領地に引き抜きたいところだったが、貴族や騎士団にも顧客が多く、リヴィエール公爵家が後ろ盾として庇護しているらしいので諦めた。うちは代々中立だから、リヴィエール公爵家と敵対しているわけでもないので、ただの隠居爺として店を訪ねるつもりだ。ふらふらと思い立ってアイテム買取屋や考察屋に行ける立場になったことがただただ嬉しい。アイテム買取屋はガラクタが多いが、極稀に見たことのないアイテムが転がっていることがあり、それを探すのも醍醐味だ。


 初めての考察屋に持っていくアイテムを吟味する。

 数多くの使用方法不明アイテムが所せましと鎮座している中から、ひとつの黒い縦長の袋状のものを手に取った。

 5代前の当主が買い付けたアイテムで、名称は“タテエボシ”効能は“貴族や神職の格式高い正装。男性が装備すると品位が2倍になるが、それがなければ人前に出られない呪い状態になる。女性が装備すると体力・腕力が2倍になりオーガ特攻効果あり”となっている。

 これがアイテム収集の醍醐味だ。男女で効能に差があり、しかも片方は呪いもあるという面白さ!

 私は“タテエボシ”を箱に入れ、いそいそと旅支度を始めた。




 リヴィエール公爵領に着き、従者に宿を取るのを任せ、アイテム買取屋を冷やかす。当主時代はまず領主城に挨拶に行って、と面倒だったが、隠居爺の今はそんな面倒からは解放されたので1人で街歩きを楽しむ。

 アイテム買取屋で考察屋のことを聞くと、すぐに場所を教えてくれた。噂に違わず評判が良いらしい。


 店の扉を開けると、チリンチリンと扉の上部に取り付けられたベルが鳴る。ふむ、聖属性か光属性のアイテムだな。おそらく、害意のある者を弾くような効能だ。


「いらっしゃいませ。異世界アイテム取り扱い考察店へようこそ。店主のルナ・イザヨイと申します」


 長い黒髪を綺麗に結い上げた、眼鏡をかけた細身の女性が座っている。髪飾りはカンザシの類だな、“~ノカンザシ”というアイテムはいくつか存在している。真珠の付いた美しいカンザシは店主の艶やかな黒髪によく似合っている。


「汎用アイテムの使用方法を考察していただきたいのだが」

「ご存じかと思いますが、必ずしも使用方法が判明するとは限りません。判明しなかった場合も考察料の3万ギルの返金はありません。よろしいですか?」

「もちろんだ」


 私は3万ギルを支払い、店主の前のテーブルにアイテムを載せる。


「名称は“タテエボシ”効能は“貴族や神職の格式高い正装。男性が装備すると品位が2倍になるが、それがなければ人前に出られない呪い状態になる。女性が装備すると体力・腕力が2倍になりオーガ特攻効果あり”だ。我が家に昔からあるアイテムなのだが、使用方法がわからなくてね。実際に使用するかどうかは別として、わからないままにしておきたくないのだよ」


「立烏帽子ですか。人前に出られない呪いって平安時代か・・・それに女性が装備するとオーガ特攻・・・?なるほど、鈴鹿御前か」


 店主は“タテエボシ”を手に取ってぶつぶつと呟いているが、どうやら既に使用方法がわかったらしい。評判に偽りなしだ、素晴らしい!


「どうかな?」

「呪いのアイテムはお断りすることが多いのですが、これは周囲に害のある呪いではありませんしね。女性騎士の役には立つでしょうから、1000万ギルでいかがでしょう?」


 ほう、良心的だな。女性限定とはいえ、体力・腕力が倍になりオーガ特攻のついたアイテムを1000万ギルとは。男性限定で呪いも発動するようだから、そこから割り引いてくれたのかな。店によってはもっと高額になるはずだ。


「今ここで現金で支払うのと、後日振り込むのとどちらが良いだろうか?現金なら100万ギル硬貨10枚での支払いとなるのだが」


 考察屋の成功報酬は高額になることが多いから、手持ちはそれなりに準備してきているが、少額硬貨は先に冷やかして歩いたアイテム買取店で使ってしまったからな。


「では振込でお願いします。商業ギルドと冒険者ギルドの両方に口座がありますので、どちらでも振り込みやすい方で結構です」


 商談成立だ。私はわくわくと店主の持つ”タテエボシ”へ身を乗り出す。


「これは帽子です」

「・・・帽子?」

「そうです。このように頭に被ります」


 そう言って店主が頭に“タテエボシ”を被った。実に珍妙な姿だ。


「・・・これで品位が上がるのか?」


 これを頭に被って王都の社交界に出席する姿を想像してみる。

 非常に珍妙だ。品位が上がるどころか、逆に指さして笑われそうなのだが、アイテムの効能として品位が上がるのなら実際に上がるのだろうが、しかし。


「この立烏帽子が実際に被られていた国と時代では、成人男性が人前で髻・・・髪を頭上で集めて束ねたものを晒す行為は非礼とされており、裸同然の恥ずかしいことと考えられていました。そのため、寝るときや入浴時以外は常に被っているのが貴族のたしなみとされていたのです。それが男性限定の呪いとして効能に現れたのでしょうね。本来、女性の被るものではないのですが、これを被って騎士の姿をした鈴鹿御前という女騎士の話がありまして、そこから女性が被るとオーガ特攻の効果がついたのだと考察します」


 素晴らしい!なんと博識な店主だ!

 これこそがアイテム収集と使用方法を探る楽しみというものだ。


「我が家には代々収集してきた使用方法が不明のアイテムが山ほどあってね。是非1度出張考察に来てほしいものだ」

「山ほどあっては、考察料金がとんでもないことになりますよ」


 店主がくすりと笑う。

 とんでもないことになると言えるほど自信があるというわけだ、ますます素晴らしい。


「そのために代々稼いでいるのでね。だがまあ、考察してほしいアイテムをいくつか吟味しておくことにしよう」


 全てのアイテムの使用方法が判明してしまっては子孫の楽しみを奪うようなものだからな。とりあえずは一部屋分くらいを選別して、いや、他所の領地のアイテム買取店を冷やかして歩くのは楽しいから、やはり都度通うべきか。


 私は余生を全力で楽しむべく、使用方法の判明した”タテエボシ“を持って帰路についた。

 しかし、呪いがかかるのでなければ、1度くらい被ってみたいものだが、この珍妙な帽子を被らないと人前に出られなくなるというのは、地味に嫌な呪いだな。


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― 新着の感想 ―
花魁のかんざしの時にも思ったけど、直衣とか狩衣とかもどこかにあるんじゃないですかね。 頭だけだと珍妙だけど、セットでつけたら隠し効果なんかもありそう。
エピソード付きはこの世界の人には無理だしこれはお得 しかし神様もチョイスが渋いてすね
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