後悔はしてないわよ
「遊びに来ちゃった」
珍しい客人はそう言って明るく笑った。
突然の来訪に驚きはしたものの、ローザも予定が空いているので彼女を部屋に招き入れた。
「どうぞ、ジェシカさん」
「お邪魔しまーす」
普段パーティーなどで会うことはあるがこうしてゆっくりと話すのは久しぶりで、何を話すか少し悩んでしまう。
まぁ、ジェシカの方が次々と話題を提供してくれるので悩むこともないのだが。
「フィンから聞いたわよ。シエルとメーアに勉強教えてるんですって?」
「はい。一度機会があってそれからはよく」
溜めていた宿題を終わらせないとおやつ抜きにされると言うシエルに勉強を教えて以来、双子がちょくちょく勉強を教わりに来るようになった。
「双子がやる気なったのはいいことだわ。やっぱり、なりたい人がやるべきだもの」
シエルが王になりたいと言っていることを指しているのだろう。フィンは王太子と呼び声高いが本人は至ってやる気がない。
「ところで久しぶりの実家はどうだった?」
「ホッとしました。妹はまた会えなくなるからか甘えてきて、できる限り一緒に遊んだりしていました」
「いいことね。白い目で見られることもないっていうのはありがたいわよね」
ローザの婚約破棄のことかと思えば、ジェシカは自分が出戻りであることを告げる。
「貴族なんかの出戻りって平民の人たちよりも、よく思われないじゃない?」
「そう、ですね」
自分にそういう可能性があったことで、ローザは躊躇うように同意をする。
「政略結婚だったし戻ったら何を言われるかなんて思ってたんだけど、さすがこの国よね。大笑いして受け入れてくれたわ」
「大笑い、ですか」
なんでもジェシカが嫁いだ国は男尊女卑が激しい国だったらしく、それに耐えきれなくなったジェシカは離縁をして実家に帰ることにしたという。
夫をバラの花で引っ叩き、フリーズ様仕込みの武術で対峙してくる人たちをなぎ倒し、けっこう派手に暴れたらしい。
「その時に協力してくれた人の1人が今の旦那様なわけ」
「……壮絶ですね」
政略結婚だったというのに大笑いだけすませるこの国にローザも、後ろで話を聞いていたエリシャたちも言葉が出ない。
「そうかもしれないわね」
ジェシカはカップに口をつけるとお茶を飲んで喉を潤わせると、静かに言った。
「だけど、後悔はしてないのよ。おかげで私はやりたいことができたんだもの」
「やりたいことですか」
頷いたジェシカはそうよと笑う。なんの躊躇いもなく、口にできると。
「今は似たような立場にいる人たちのサポートをしてるの。あんなことがなければ、やることのなかったことだとは思うけど」
自分のように馬鹿なほど真っ向勝負できる人たちは少ないものとジェシカはいう。力でも負けてしまう女性は特にと――。
「同じ境遇から抜け出したからこそ相談にくる子も多くて、少しでも力になりたいって思って仕事にしたのよね」
意外と面倒見がよかったみたいだと、その時に知ったとジェシカは笑う。
「変な話聞かせてごめんなさいね」
「いえ、勉強になりました。私の国も同じような話はありますから、また聞かせてください」
「もちろんよ」
誰かの助けになるのならとジェシカは言って、そろそろお暇するわと帰って行く。
ローザはジェシカの強さに圧倒されるばかりだった。
ありがとうございました。




