たとえ嘘でも
一時帰国で実家に帰ったローザはゆっくりと出来るわけでもなく、慌ただしい日々を送っていた。
国王夫妻に顔を見せに行くために、ドレスに着替え兄リアムとともに城に向かう。
バートンもルナも、家族と同じようにローザの帰りを待っていたようで、どこか落ち着きがなく専属の使用人たちは苦笑いをしていた。
場所は落ち着いて話せるようにとサロンである。
「ここにいた時よりも元気そう。良かった」
王妃であるルナは安心したと微笑んだ。
いくら国同士で連絡を取り合っていたとしても、実際に姿を見た方が不安も消え去るというものだ。
バートンはルナとローザが楽しそうに談笑しているのは見守っていて、その表情にはどこか憂いも見て取れる。
決して訪れることのなくなった未来を想像したのだろう。
息子がやったことがどれだけ愚かなことで許されないことかと悔いてはいるが、それと同時にローザにとって幸せになれる道ならば良かったとバートンはカップに口をつけた。
部屋が蜂蜜色に染まり始め、リアムがローザを迎えにきた。
すでにバートンは席を外している。
アルバートが気を使ってリアムの仕事を早めに切り上げてくれたらしい。
少しだけむくれたルナは穏やかに微笑んでローザに優しく声をかける。
「またいつでも来て。誰にも何も言わせないから」
「フフ、はい」
以前のローザなら、笑うことせずに堅苦しく返事をしただけだったはずで、今のローザはおかしそうに声を出して笑った。
ルナがむくれるのがおかしくて、ルナの優しさが嬉しくて。
本心からのルナの言葉だからこそ、正式な場でないこの場所でならローザも同じように返せるのだ。
もう少しだけ前にこんな風に出来ていたらという考えもよぎる。
でもきっと、卒業パーティーでの出来事がなければこんな風には出来なかったとは思う。
ローザは堅苦しすぎた礼をわずかにだけ崩して一礼をすると、リアムと一緒に馬車のある場所まで向かう。
途中、クロードが向かいからやってきて一瞬だけ驚き控えめに挨拶のために微笑んだ。
「帰ってきていたんだな」
「ええ」
謝罪の言葉を言いかけたクロードは口を噤んだ。きっとローザはそういうことを嫌うから。
クロードも変わったのだと短いやり取りでも感じ取れた。
代わりの言葉が見つからず、静かになった空間にローザは声を落とした。
素直な気持ちを込めて。
「クロード様、婚約おめでとうございます」
「あ、ああ。ありがとう、ローザ」
そして、ローザはドレスの裾を掴むと優雅な礼をして綺麗に微笑んで見せた。
「お慕いしておりましたわ。クロード様」
たとえ、嘘でも――。
ローザはその言葉を口をした。
もう決して訪れることのない未来にしっかりと決別するために。
ありがとうございました。




