楽しそうね
シエルの爆弾発言の翌日――。
エリシャによってローザは自室から出るのを禁止され、来客は要件を聞いた後ですぐにエリシャが追い返していた。
「そこまでしなくてもいいのよ、エリシャ」
「いいえ、異国の地でローザ様を任されたのですから、万一もあってはなりませんから」
気が緩んでいたと、気を引き締めるエリシャにマシューは苦笑をして、その後ろにいるレンは感心したような声をあげた。
「それくらい厳格の方がいいんですかね?」
「なんで、あなたが……」
「マシューさんに入れていただきました」
驚き険しい顔をするエリシャをよそにのほほんとレンは答えて、手に持った大きなカゴと小さなカゴをエリシャの前に差し出す。
「昨日のお詫びになります。シエル様がお考えになったので気に入っていただけるか分かりませんが」
受け取る気のなさそうなエリシャに、ローザは立ち上がるとレンからカゴを受け取ると礼を言った。
カゴからは甘い香りがふわりと鼻をくすぐる。
「ありがとうございます」
王子からのお詫びの品ということになるだろうとローザは断ることはしなかった。
レンはひとまず受け取ってもらえたことに安堵をする。
「シエル様については、ご理解に少々時間がかかりそうなのでもう少しお待ち下さい」
「わかったわ」
「ありがとうございます」
相変わらず険しい顔のままのエリシャにレンは苦笑をして、口を開いた。
「そう警戒しないでください。俺もフィン様の全てをわかるわけではないのですが」
「ええ」
マシューが相槌をうって続きを促す。
レンはこれだけは確かなことだと話し始める。
「両国間の交流を庶民にまで広げたいとフィン様は常々おっしゃっていましたから、言葉は悪いですがローザ様を利用したのは確かです」
元々、フィンが留学をしていたのはローザの母国であるドットーレ王国を知るためだったと付け足し、レンはもう一度だけ謝罪の言葉を口にして帰っていった。
「アルバート様もフィン様もきっと同じことを考えていらっしゃるのね」
「笑い事ではないですよ」
ローザはクスクスと笑ってエリシャは笑い事ではないと複雑な顔をしていた。
まるで二つの国の手のひらで転がされているようなものなのだ。
「そうなのだけど、なんだか楽しくって。今まではクロード様をお支えするために奔走していたから、周りを見る余裕なんてなかったもの」
「ローザ様……」
大臣の一人に洗脳されていたとも言えるような、クロードは自分の世界を盲信したせいもあり、ローザは円滑になるように尻拭いばかりをしていた。
そのおかげか、周囲からの評価は高かったのだがローザ本人にとっては余裕のない日々だった。
沈んだ声を出すエリシャにローザは優しく笑いかけた。
「そう考えるとフィン様に感謝ね。変わらない暮らしまでさせてもらっているんだもの」
フィンが何を考えてるのかは読めないけれどとローザは付け足し、それでもここまで自由にさせてもらえているのはこの国だからねと笑っている。
「ええ、他国ではそうは行かなかったでしょう。すぐに結婚ということもあったかもしれません」
「そうなのよね。だから、両国のためになることなら私は協力するつもりよ。もちろん、できる範囲で」
それが今の私に出来ることだとローザは言って、エリシャはため息をついてそれがローザのやりたいことならと笑い返した。
「それで、レンさんが持って来たものは何かしら。シエル君が考えたといったていたけれど」
「確認いたします」
エリシャはレンの持ってきたカゴにかかった布を取って、マシューとともに中身を確認する。
「……クッキーのようですね」
ローザの前にカゴを運び、エリシャは中身を見せる。ローザはエリシャとマシューと目を合わせて驚いた顔をする。
「可愛いクッキーね」
「ええ、そうですね」
様々な形のクッキーの中に、小さいカゴにはエリシャの似顔絵の、大きなカゴにはローザの似顔絵がクッキーで作られていた。
ローザの方には申し訳程度の大きさでマシューらしき人物のクッキーも入れられていた。
クスリと笑って、ローザはクッキーを一枚手に取ると口に運んだ。
ありがとうございました。




