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2 女神な金城コミンとは?

 なにより、クラス分けテストで学年2位の俺の名前の上に「金城コミン」がいた。


 俺は移動教室のため廊下に出る。


「――ふんっ! これはチャンスだ……!」

「何さ、先生?そのニヤケ顔。……もしかして金城が隣になって実は内心喜んで――」

「なわけないだろ! 朝のお前とのフォークダンスの文句をぶつけてやる! 頭の中ファンタジーな生徒会長が俺の隣に座ったら最後、いかにあの学級目標もフォークダンスも無意味であるかをわからせてやる!」

「そ、そうさね……でも、追加で罰をもらわないように。内申点がボロボロさ……」

「それに担任の体育教官もおかしい。隣の金城さんに配られたプリントをどうするかって聞けば答えをにごすんだ。生徒会長だからって授業にも出られないほど忙しいわけがない。……考えれば、何もかも不自然すぎないか?」

詮索せんさくしないほうがいいさ、首を突っ込めば先生も呪われちゃうさー」


 突然、廊下で女子生徒の悲鳴が聞こえる。


「誰よ! 人体模型にあたしの体操服を着せたの! セクハラよ! ちょっと男子でしょッ!?」

「知らねーよ! 体育着泥棒の犯人見つかったじゃん、人体模型だ! 七不思議だ、ぎゃははは!」


 こんなやり取りが聞えてきた。俺は雄太に言う。


「ほら聞いただろ雄太。単なる偶然や、生徒の悪ふざけを七不思議に仕立て上げているんだ。実際は、中身のないホラ話だ」

「でも、火のないところに煙はたたないさ……」

「あのな、雄太! お化けなんてのは存在――」

「……こほん」


 それは見知らぬ顔だった。


挿絵(By みてみん)


 さわやかな笑顔から放たれたその言葉が鼻についた。

 俺より少し背丈が高い、いかにも女子に人気がありそうな男子生徒だ。

 雄太を見るが、こんなやつ知らないという仕草をする。


「いきなりなんだ、関わるなって」

「つまり、そういうことです」

「――ほう」


 背後の雄太が俺の背中をつつく。


「(なんさあいつ、金城に気があるんさ?)」

「(知るか)」


 女子生徒たちが教室の扉から顔を出し、その男に熱いまなざしを送っている。俺は無視してそいつの横を通り過ぎた。


「……ふふふ」


挿絵(By みてみん)


「さもなくば、常識的な学園生活を保障しかねますよ」


「な、何さそこの優男やさおとこ! ちまたで有名なチンピラ先生を脅す気さ!?何の用さ!?」


 俺はそいつに突っかかろうとする雄太を制止する。


「あんたも金城コミンに呪われるって言いたいのか? で、生徒会長と同じ生徒会のお前はどう呪われてるんだ?」

「呪いだなんてとんでもない、ふふふ」


 呪いを鼻で笑ったこいつは、学園の中でこいつは少しまともな部類なのかと期待したが、全然違った。


「もっと恐ろしい恐怖が待っていますよ。フォークダンスの比じゃありません」

「ああ、それだよ! 生徒会のボスのフォークダンス命令で毎日朝から大迷惑だ! 人の内申点を盾にとりやがって……」

「あれ見て、例の勉強できる不良の1年よ!」

「やだ大変! 生徒会の佐藤さとうくんが不良に絡まれてる! 誰か体育教官を呼んで!」


 廊下の隅で俺たちの様子を伺っていた女子生徒たちが集団をつくり、一人が教官を呼びに走りだして行った。


「うっせ! おなごは黙ってるさ!」


 俺は女子に向かって怒鳴る雄太を制止して、その男を見る。


「説明しろよ、生徒会の佐藤くんとやら。女子を泣かしただけでなんでこんな罰を受けなきゃいけない?」

「金城さんがかかげる愛を育むための学園七か条です。実践すれば必ず幸せになれる、学園生活の基本理念ですよ」

「幸せ!?フォークダンスがか!?」

「ええ、幸せを呼ぶ哲学です。疑いの心を捨て、日々の生活に取り入れれば、必ず望んだ未来と幸福が向こうからやってくるという――」

「ああ黙れ、ストップ、もういい! バカバカしくて聞いてられない!」


 立ち去ろうとする俺に佐藤が付け加える。


「もしフォークダンス練習にご不満なら、その女子に許してもらえば開放される規約でしょう?」


 佐藤の指先が廊下の掲示板に掲げてある『なお、女子生徒が許してくれるまでこの期間は終了しない』という但し書きに添えられる。そしてまた笑顔を見せてきた。

 俺がどう反論しようか考えていると雄太が驚きの声を上げる。


「あ、見るさ! 先生が泣かした隣のクラスの女子さ!」


 俺が罰を受けるきっかけとなった”その三つ編みの女子生徒”は、俺の顔を見ると小さくうつむいて小走りに去ろうとする。


挿絵(By みてみん)


 その女子生徒が抱えていたノートが廊下に落ちた。女子生徒は落としたノートに気が付かない。

 佐藤は女子生徒が落としたノートに目をやり、俺に笑顔で言った。


「朝練フォークダンスを完了して、男をあげるチャンスですよ」


 佐藤はさあどうぞと顔で合図を出す。


「な!? ちょっ、先生! 馬鹿にされてますぜ!」


 そう揚げ足を取った雄太は、俺がノートを拾うかどうかかたずをのんで見守っている。

 しかし三つ編みを揺らす女子生徒の姿が少しずつ小さくなる。


「……あの件は俺は悪くない! そんなの納得できるか!」


 溜息ためいきをついた佐藤が、たまらず歩き出しその三つ編みの女子生徒を呼び止めた。


「お待ちください、落としましたよ」


 佐藤はノートを拾うとほこりを取り払う仕草を見せて、駆け寄ってきた女子生徒に丁寧な言葉を添えて渡した。女子生徒は佐藤に感謝の言葉を投げかけ、俺には冷たい視線を投げつけた。

 そして1限が始まるチャイムが鳴る。廊下の生徒たちが教室に入り始める。


「明日の朝は雨の予報です。フォークダンス練習の際は雨具を忘れずに――あ、それと……」


 そして立ち去ろうとする佐藤は思い出したように振り返り、付け加えた。


「お忘れにならぬよう、金城さんに関わらないことを」


 最後まで笑顔の佐藤は去って行った。


「あの野郎ッ! 先生、あれはさすがにダサいっすよ! せっかくおいらも巻き添えの罰を終えることができたのに!」

「黙れ」

「うん」


 俺は窓の外の生徒会室を睨む。


「呪われた美人生徒会長――、金城コミンに近づく者は不幸になる……そういう仕掛けか」

「――……どゆこと?」

「金城さんを色眼鏡で見ようものなら、ああいう嫉妬深い連中が体育館裏とかに連れ込んで痛めつける。さっきのはその忠告だろうよ」

「ま、まさか! 生徒会がボコるって? それはさすがに……」

「もしくは、あの佐藤って野郎が金城さんに気があるから、あえて悪い噂をいているんだ! 間違いない、たぶん!」


 この会話を聞いていただろう教室の女子生徒たちが廊下の俺たちをにらんでいた。


 ●


 昼休み、俺は生徒会室の扉をたたく。

 しかし、中から返事はない。周囲を見渡しても、生徒会らしき生徒はいない。

 俺は扉に向かい言う。


「おい! 金城コミンさんはいるか! あんたの机に入りきらないプリントを持ってきたぞ! なあ、学年1位の金城さん!?」


 何の応答もない。


「授業にも出ずに、生徒会にどっぷりつかって、中間テストは大丈夫なのかー?」


 扉に耳をあてて、中の反応を待つ。しかし、何も返ってこない。


「――毎朝そこの窓から俺たちのフォークダンスを監視して、男同士のステップも1週間も見れば飽きないか!?あの罰は理不尽すぎや――ぐあっ!」


 突然扉があけ放たれ、俺は鼻先を強打した。俺は鼻をおさえながら、その様子だとわざと勢いよく扉を開けただろう女子生徒たちをみる。


「あっ、やっぱり! 例の勉強できるチンピラよ!」

「今、金城コミン生徒会長はいないわ! 乱暴者は会長に近寄らないで!」

「……なわけない! 話し合いをしにきたんだ!」

「プリント届けることを口実に生徒会長に近づこうだなんて! 私たちが会長のお世話するから引っ込んでなさい!」

「学園の女神さまに近寄る男は、みんな呪われちゃえばいいのよ! きゃははは!」


 女子生徒たちは俺を非難すると、嬉しそうに階段を駆け下りていった。



◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇


【作者つぶやき】女子高生って、コワナイ?


挿絵(By みてみん)

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