15 強すぎた金城コミン
佐藤に案内され、階段下の地下道への扉をくぐる。そこは用具入れだったが、倉庫の隅に隠し扉のようなものがある。狭い入り口を通り、暗い地下道に開けた。
佐藤が歩みを止めた横には大きな扉がある。
そこには、俺ののどにナイフを突きつけた執事の化け物が立ちふさがっている。俺はその執事へ近寄る。
「お待ちしておりました。ようこそ、ヴァーサー卿の花園へ」
「ヴァーサー・クーラーって魔女に会いにきた――だから……そこをどけッ!」
俺は不意を突き、制服の袖から封殺札を取り出し執事の顔面にたたきつける。執事の仮面に電撃が入り、大きな図体から煙が昇る。
そして図体が蒸発して、仮面とマントだけが地べたに残った。
「……ふん! 魔女の手下が思い知ったか!」
俺はマントを踏み、執事が守っていたドアに手をかける。
「せ、先生ッ! 後ろッ!」
俺が振り向くと、蒸発したはずの執事が俺を見下ろしている。そして仮面の封殺札を剥がすと、握りつぶして灰にした。
「……札が、き、効いてない!?」
「懲りない小僧よ、扉の向こうではその身の程知らずな口と、手作りおもちゃ自慢は謹んでもらう……。ワタクシを含め、フィシス教徒はみな卿の批判に敏感だ……」
しゃがれ声の執事の化け物は俺の顔に顔を近づけ、耳元でそうささやいた。そして執事はマントの中に手を滑らせる。
「ちッ!」
俺はナイフが飛び出すかのと身構えて、執事から一歩退く。
その執事は、俺に白いカップを差し出す。すると紅茶といちごのよい香りが漂う。
「馬鹿にしてるのか……」
俺がカップをにらみつけていると横からルアの手が伸び、カップに口をつける。ルアに対して扉は開けられた。
「クーラーさんの粋な計らいです。客人として認められた者に対してです」
「……え!? せ、先生、これ、うっま……! お、おかわりは!?」
俺は話が進まないことにいら立ち、鼻をつまんでカップの中身を飲み干した。
その後、案内された薄暗い扉の前で止められる。
「ヴァーサー卿は別の来賓の接客中です。ここでお待ちください」
丁寧口調でそう案内した執事は仮面を光らせながら闇に隠れた。
扉越しに部屋の中の会話がもれてくる。その声を聞くと怒りと痛みが思い出され、胸が熱くなる。
「――そう言って謝れば、また許してもらえると踏んでるんでしょ?」
魔女の怒りに燃えた声が聞こえる。俺は扉の小窓から、部屋の中の様子をのぞく。
「証拠もないのに見出しと推論だけ躍らせて、いつの間にアタシは世界のお茶の間で大悪党になってるわけ!?」
「許してください、ここから出してください! あ、あなたは真の女神でしょ、ヴァーサー卿!? ……そう、親愛なる倫神! そして最強の哲神! 絶対倫理の最高指導者! オーウェイ!」
その声の主は、部屋の真ん中で魔女にひれ伏し、震え声でそう叫んでいた。
部屋の壁にもたれかかる魔女によく似た別の魔女2人は、無言で成り行きを見届けている。
「アタシが女神?それはおかしいわね?」
「……お、おかしくなど!?」
「ほらみて、昨日のオタクの団体が書いた記事にはこうあるわ!」
魔女はデスクに新聞のような誌面をたたきつける。
「『世界を狂わす悪魔ヴァーサー・クーラーこそ危険宗教の神祖、魔女のフィシス教派こそ世界の共通の敵』って?それに、この写真はアタシ!? ひどい扱いじゃない?」
「ち、違います! 私は反対したのですが、きょ、教会の老人たちの圧力で仕方なく……」
「いいえ、見過ごせないわ! 良い関係が築けそうだった教会や関係先とに取り返しのつかない亀裂がはいったわ! せっかく分かり合えるところだったのに!」
魔女は怒りをこめてデスクをバシバシと叩き叫ぶ。
「襟を正してやり直します! どうか女神さま! もう一度、お慈悲を……! どうか……!」
「あなたを同じ要件でここに連れて来たのはこれで6回目、その紅茶も6杯目、もういい加減に失望しそう――」
「いえ、待ってください、まだ5回目ですって!」
「そうね、たった今失望したわ。堕して出直しなさい」
「……そ、そんな! 今一度お慈悲を! ……うそだ、そんな物騒な! や、やめてくださいッ!」
ただならぬ雰囲気の中で魔女の側近らしき2人の魔女が、ひざまずくそいつの首根っこを掴み地面に押しつけて、ヤリをあてがう。
「ここから先は見ないほうがよい……」
ふと横に現れた執事は俺にそう言うと、中の様子がうかがえる小窓を閉じ、扉の前に立ちふさぐ。
俺は執事に見えない佐藤の背中の死角で、靴べらの下に仕込んで手荷物検査をかいくぐった封殺札を取り出す。それを見た佐藤が顔をしかめる。
「何をするおつもりです?」
「決まってるだろ……あの魔女を追い出すんだ!」
「……それはどうでしょうか」
「今なら隙をつける! そこのでくの坊の執事を吹き飛ばして、中の魔女たちにも一発食らわせるんだよ! あの密室ならトウガラシ爆弾の火力が上がる! またとないチャンスだ!」
不意に魔女たちの部屋の扉が開け放たれる。
「うぐぐぐ――! だ、だすけでッ! だでがだずげでッ!!」
緑の液体を撒き散らしながら、何かが扉を突き破って飛び出してきた。
悲鳴を上げる人の形をした何かが俺の体にまとわりつく。さっきまで魔女に詰問されていた奴だ。
「なんだこいつ!? やめろ! 離せッ! 触るな、どけッ!」
ソイツの背中には光る紫色のヤリが何本もつき刺さっている。
「だ、頼む、女神さまに言っでぐれ! 魔が差しだだけだんだ! ごれ抜いでぐれ!」
「おや、教会の記者の方ですね」
「ああ、佐藤くん! 同士よ、助けてくれ! 一生の頼みだ!」
無残な姿のそいつは悲鳴交じりに、やけに落ち着き払った佐藤に助けを求めた。
「いえ、フィシスの皆さんからの忠告は何度もあったはずですが」
佐藤は無残な姿に目もくれず、全く他人事を決め込んでいる。
「同業者の不運を見て見ぬふりするのか!? 貴様ッ!」
「だからと言って、捏造はいけませんよ」
そいつは佐藤を諦めて、また俺に抱き着いてきた。
「救世主、助けてくれ! あの魔女を論破してやっつけてくれッ! 頼むッ!」
「救世主!? 人違いだ! あっちいけ!」
「――ッぐぱぁッ!」
さらに二本の槍が貫通して倒れこみ動かなくなったそいつを別の魔女が踏みつけた。
「フィシス教祖に舐めた口きくとこうなるって来世までしっかり覚えておくのーん」
「役職者を冒涜するなんて、大罪……ごくり」
「くくく、小僧には良い見せしめだ……」
動かなくなったソイツを執事が引きずって部屋から運び出す。すると魔女がいる扉が開いた。
「……ヴァーサー・クーラーめッ!」
「せ、先生! やっぱり行っちゃダメさ! あいつみたいにやられちゃう!」
「ここでやらなきゃ、ずっと昨日みたいなひどい目にあわされ続ける……!」




