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次郎三郎の計画

時代背景長いなぁ。

まぁ実際豊臣政権から徳川政権に代わる間に事件が多すぎるんですよね。

というか事件が全然ない政権交代はないのか。

物語的には序章中の序章的な感じです。

本多正信は次郎三郎の駿河入りを聞くなり駿府へと参じた。


次郎三郎に今回の江戸への訪問の理由を問いただすためだ。


「次郎三郎、そなた何を考えておる?」


正信は次郎三郎に尋ねる。


「弥八郎、わしはな、駿府に隠居所を構えようと思っておるのだ、ここなら江戸から近いし、周りは徳川譜代の大名だらけだ、秀忠殿も安心して政務に就くことが出来よう?」


正信は次郎三郎の言う事はもっともで悪い話でもないと思っていた。


しかし次郎三郎が一人でこれを決めたのかが正信にはわからなかった。


「そなた、誰かと結託し徳川家の為にならぬ事を考えているのではあるまいな?」


正信は次郎三郎の目を見て問いただす。


次郎三郎は少し寂し気に


「弥八郎、何を疑っておる?わしは殿の最期を看取って、未来を託されたのだぞ?その事は正純にも聞いておろう?」


正信はそんな事は百も承知だ、しかし次郎三郎一人で考えたにしては随分と理にかないすぎていて、腑に落ちないのだ。


次郎三郎は観念するように正信に言う。


「確かにわしには相談役がおる。」


正信は顔を赤くして


「誰だ!!」


と次郎三郎を問い詰める。


「弥八郎、そなたも知っている御方だよ」


正信はわしも知っている?誰だ?まず徳川家譜代の大名ではない、平八郎は剛の者ではあるが策士ではない、豊臣家子飼いの大名でもあるまい?お梶の方や阿茶の局でもあるまい、正信は頭の中でぐるぐると模索しながら、誰も思いつく人物がいない自分に苛立ちを覚え始める。


「いったい誰なんだ!」


正信が声を荒げていうと、次郎三郎は落ち着いた声で


「誰も何も、殿だよ」


正信はきょとんとした、殿とは誰だ?誰をさして殿と言っているのだ?いや次郎三郎が忠義を尽くす殿と言うのは家康ただ一人のはず。


「家康様とでも言うのであるまいな?」


正信の問いに次郎三郎は


「正にその通りだ、弥八郎、わしが何年殿の影をやっていたと思う?何年殿と二人共に過ごしたと思う?頭の中でな、殿がわしに指示を出すんだよ、次郎三郎、ここはなぁ、こうするのだ!おぉ、こっちはこうせい!とな」


いつの間にか家康の声になっている次郎三郎に対し正信は涙を流していた。


疑った自分が浅はかであった、次郎三郎と家康様は共にあったのだ。


次郎三郎はこの演技で左近と風魔計画、駿府要塞計画を正信に悟らせず駿府を隠居所にすることが出来るのだ。


「弥八郎、駿河だけでも殿の夢をかなえたい、貿易の自由許可を秀忠殿からもぎ取ってくれ、それから征夷大将軍にはあと2年ならないぞ。」


弥八郎は2年とは何故だ?と問う。


次郎三郎は2年の理由を正信には告げた。


「金銀を蓄える為だ。」


正信は次郎三郎が甲州金山と石見銀山の権利を持っている事を思い出し、金銀など何に使う?と問う。


「わしの個人的な家臣を作る、秀忠殿に命を狙われる恐れがある中で殿の夢を半ばで死んでしまったら冥土で殿に顔向けが出来ん。」


正信は家康の名前を出されれば弱くなる。


「島津との交渉を引き延ばす、それで何とかしてくれ秀忠殿の我慢もそうそう持つまい。」


次郎三郎は正信との交渉に満足ししばし駿府に逗留し、江戸城へ向かう。


今回の次郎三郎の江戸訪問の目的は秀忠にとっては重大事件であった。


正信には既に話していたのだが、伏見に置いて来たお万の方が懐妊したのである。


そう、お万の方は次郎三郎の子を腹に宿したのだ。


懐妊を知った時、次郎三郎は喜びが半分、お梶への申し訳なさが半分という微妙な心持であったが、お梶が


「誰が産もうが愛おしい殿の子は殿の子に変わりはありません、これから生まれる子の為にも喜んでください、私も嬉しいです、次は私にも殿のお子を授かりたいものです」


などと言い次郎三郎は聞いてて恥ずかしくなり顔を赤くし、伏見は祝いの色一辺倒であったが、江戸においてはそうは行かない。


秀忠は徳川という名に誇りを持っている。


たかが影武者の子を自分の弟として認めるのは到底我慢がならない。


しかし、次郎三郎も一歩も引かない。


これから生まれる命に罪は無いと、秀忠と真っ向対立をするのである。


次郎三郎の要求は簡単なものであった。


「自分の子を家康の十番目の子として扱い、命を狙わざる事、その事、誓紙血判にて頂戴したい。」


これだけである。


しかし自尊心の塊のような秀忠は


「そちの子を徳川の子として扱えだと?馬鹿も休み休みに言え!それに一介の影武者風情が主人に対し誓紙血判を求めるとは筋違いも甚だしい!!」


と怒鳴りつけるのである。


次郎三郎は


「それならば致し方ない、秀忠殿が大坂相手にどれだけ戦えるか草葉の陰から殿と見守りましょうぞ。」


と言い、場を後にしようとする。


秀忠はしまった、短慮が過ぎたと一瞬で肝を冷やし頭の中で次郎三郎を留め置く最善の答えを探す。


徳川秀忠の天下が盤石になるまで、結城秀康、松平忠吉、同忠輝、五郎太丸では無く、自分がれっきとした徳川の後継ぎとして認められるまで、そして豊臣を滅ぼすまでは次郎三郎に生きていてもらわねば困るのは自分なのだ。


その為に朝廷工作をし将軍宣下の勅を家康に対し下されるまでに至ったのだ。


秀忠は急ににこやかになり。


「あわてるな次郎三郎、短慮はならぬぞ、何も認めぬとは申しておらぬではないか?」


と、立ち去ろうとする次郎三郎を止める。


「では、認めて頂けるのですか?」


秀忠は答える


「無論認める、弥八郎に聞いたがそちは駿府に隠居所を構えるとか?」


次郎三郎は「はい、その心づもりです」と答える。


「駿府ならば江戸からも近い、うむ、よかろう、認めよう」


次郎三郎は「ありがたき幸せ」と礼を言う


「下がってよいぞ、大義であった。」


秀忠は次郎三郎を下がらせたのちにこやかな顔を豹変させ、大暴れするのである。


「次郎三郎!!!殺してやる!!!何が十男だ!!ふざけるな!!徳川家の血すら引いてない何処の馬の骨とも知らぬ餓鬼がわしの弟だと思うと吐き気がするわッ!!駿府に来次第、柳生に殺させてやる、わしに指図した事、地獄で後悔させてやる、おぉそうだ、次郎三郎の最愛のお梶も一緒に地獄へ送ってやろう、次郎三郎のその時の顔が目に浮かぶわい。」


今度は笑い始める秀忠。


そんな秀忠を見て正信は


「この御方は懲りるという事を知らぬのか?次郎三郎とでは役者が違うというのに」


と冷めた目で見るのであった。


秀忠は将軍宣下の勅を次郎三郎が二年の仮病を使い断り続ける事をこの時はまだ知る由もない。


正信もこの時、秀忠に敢えて伝えていなかった。


次郎三郎の子供の話と将軍宣下を二年延ばすと言い出したらその場で二人は決裂、徳川は滅亡に向かうと判断した為である。


次郎三郎には江戸にもう一つ大仕事が残っていた。


次郎三郎にとっては秀忠に頭を下げるよりも違う意味で嫌な仕事であった。


於大おだいの方との面会である。


於大の方とは徳川家康の生母である。


その昔、家康の父・松平広忠まつだいらひろただに離縁され貧しい生活を送り、於大の兄である水野信元の都合で久松俊勝ひさまつとしかつと再婚させられるという波乱万丈な前半生を送っていたが、その間も家康との音信は密かにとっていた。


桶狭間で今川家から独立した家康により岡崎へ引き取られ、それ以降、家康は死ぬまで母親孝行をしていた。


無論死ぬまでというのは関ヶ原へ出陣する前までである。


そんな家康の生母である於大を騙す事が果たして出来るのか、家康の側室達を侍らせる次郎三郎はもはや全国の諸大名や家康の息子たちを欺く自信のあるのだが於大だけは別儀であった。


於大との対面は細心の注意を払い江戸城の奥の間、立会は家康の側室衆とその侍女達のみで行われた。


於大の方はこの時73歳、老人と言っても過言ではないし、少々痴呆の気もあった。


しかし次郎三郎と対面した時は目を見開き、阿茶の局に「あのものは誰じゃ?」と聞いていた。


場が凍り付いた。


於大の方は痴呆の気があっても次郎三郎が家康でない事をきちんと認識しているのだ。


次郎三郎は正信と相談し、於大を伏見に連れて帰る事にする。


江戸で万が一家康の事を騒ぎ立てられ、またそれが秀忠正室のお江の方の耳に入ればすぐに大坂にいる女狐に伝わる事を恐れたためである。


その夜、次郎三郎はしとねを共にしたお梶に言う。


「母の力というものは計り知れないな。」


お梶は「はい」と返事をする。


「体を合わせているそなたら側室はわしと体を合わせればわしが殿ではないという事が即座にわかるであろう。弥八郎はじめ徳川の忠臣もよくよく見れば見分けはつくのかもしれん、殿はお子達を近くに置かなかった、唯一秀忠殿は関ケ原の直前まで薫陶を与える為、傍に置かれたが故、殿の首を見ただけでわしとの違いを見つけたのだろう。しかしもはや全国の諸大名たちは、わしと殿の違いなど爪の先ほども判らないであろう。」


お梶は黙って聞く。


「梶よ、母親の力というのは計り知れないなぁ、御母堂はわしが奥の間に入った刹那、わしが殿では無いと感じ取ったように思えてならんのだよ。」


お梶は次郎三郎にいう


「そうですよ、母とは深い愛情を持ち子を産み育てるのです、お万殿もそう、私も早く母親にしてください」


次郎三郎は呆れたように。


「わしは今、母親の偉大さを感じていた話をしていたのだぞ、わしにもそういった母親なる者はおったのかなぁ」


お梶はそんな次郎三郎の話を聞いていない風に


「話をそらさないで下さい、殿、殿のお子を最初に孕むはお梶と思うて精進しておりましたのに、しばらくは梶が殿を独り占めしたく思います。」


次郎三郎は「わしの母親の偉大さの話はどこへ行った」と言いつつもお梶を抱くのであった。

ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。

誤字脱字等ありましたらご指摘頂ければ幸いです。

今後も『闇に咲く「徳川葵」』をよろしくお願いいたします。

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