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②新しい家族

 ヒグラシの鳴き声で目を覚ますとすっかり夕方になっていた。頭のクラクラは引いたがそこそこ長い時間眠っていたようで、今日は昼から色々と進めたい予定もあったので少し損をした気分になった。

 リビングの方から母とビッグフットさんが談笑しているらしき声が聞こえたので顔を出すと、ビッグフットさんはまだ着ぐるみの姿で母とイチャイチャしていた。

 夕方になって少し涼しくなったとは言え、着ぐるみ姿で過ごして平気なのだろうか?と若干心配になった。恐らく着ぐるみの中は汗ダクダクで蒸れ蒸れ状態の筈なのだが、ビッグフットさんは辛そうな素振りを見せる所か物凄く元気そうに見える。異常な程にタフなのか、単なる瘦せ我慢なのか、空調性が抜群なのかは知らないが嬉しそうにビッグフットさんと談笑する母を見て、「まぁ……本人達が楽しければ良いか……」と思った。流石に熱中症でビッグフットさんに倒れられるのは勘弁して欲しいが。

「あっ、起きた?じゃあ私達はそろそろ帰るからね。熱中症には気を付けなさいね」

 本日二回目の「いやいや、それはコッチの台詞だよ」を言いかけたが、

「あっ、うん……気を付けるよ」

 と無難に返しておいた。

「明日市役所行くんだよな?まぁその、くれぐれも気を付けて……な?」

 また勢い任せに色々ゴチャゴチャ言って頭がクラクラしないよう今度は冷静を保ちながら二人に注意を促した。

「有難うね、じゃあアンタも気を付けてね」

 ビッグフットさんと手を繋ぎ嬉しそうに笑う母を見て少し安堵すると同時に、明日の事を考えると物凄く不安になって来た。

 もうこの時間だと市役所は閉まっていて電話をしても対応してくれないと思うので、明日の朝にでも一言電話を入れておく事にしよう。まさか流石に着ぐるみ姿で市役所に行かないだろうとは思うが、昼間の二人の態度を見た限りでは不安が完全に払拭されずにいる。取り越し苦労で終わればそれで良いが念の為市役所に連絡は入れておこうと思う。


 ビッグフット姿の着ぐるみが来ても警察には通報しないでくれ、と……


「あ、そうそう、来年はアンタ、お兄ちゃんになってるかもね」

 嬉しそうに照れくさそうに言いながらビッグフットさんと共に帰って行く母の姿を見て、「そうか、俺にハーフの弟か妹が出来る可能性があるのか」と衝撃を受けた後様々な妄想が膨らんで来た。

 二十歳以上年の離れた弟か妹でしかもハーフ。きっと金髪で蒼眼で美男美女に育つに違いない。妹はもしかしたらグラビアアイドル顔負けの物凄い巨乳に育つかも知れない。手を繋いで一緒に街を歩けば周囲の男共は妹に釘付けになる事間違いなしだろう。近所でも俺達は評判の仲良し兄妹になる事間違いなしだろう。いつしかそれは兄と妹の枠を越えて……まぁ流石に俺は実の妹に手を出す程タガの外れた非道な男では無いと自負しているが、誘惑に負けてしまう可能性も勿論ある。禁断の関係に手を染めてしまう可能性も残念ながら否定は出来無いのが悲しい所である。神様、どうか妹が生まれても巨乳に育てないで下さい。丁度良い塩梅に育ててあげて下さい。

 馬鹿馬鹿しい妄想は一先ず切り上げ夕飯に何を食べるか考える事にした。丁度挽肉を買っておいたのでキーマカレーを作って食べる事にした。普通のカレーと違って少ない具材で手軽に出来るし美味いから好きだ。

 そうだ、弟か妹が出来る可能性があるのならもっと様々な料理を覚えておくのも悪く無いと思えて来た。

 年の離れた弟妹に兄貴が美味い料理を振舞い、美味そうに頬張る姿を見て満悦した表情になるのも悪く無い。

 どうせならキーマカレーも市販のルーから作るのでは無く自分でスパイスを調合して作るのも悪く無いと思えて来た。ああ、ヤバイな……何だかかなり未来が楽しみになって来た。カナダ料理もこれから色々調べて作ってみようと言う気になって来た。

 少し前までビッグフットの着ぐるみ姿の事で頭が混乱状態だったがなんかもう、そんな些細な事は気にする事すら馬鹿馬鹿しくなって来た。取り敢えず明日時間があれば書店にでも寄ってカナダ料理のレシピ本を探してみようと思えて来た。

 そう言えば小学生の頃、兄弟の多い友人達の楽しそうな姿を見て一人っ子の俺はとても羨ましいと思っていた事を思い出した。兄弟が多い故の悩みも勿論あったとは思うが、兄弟喧嘩と言う物を一度は経験してみたいと思っていた俺は本当に羨ましいと何度も思った。

 それ故に年が離れるとは言え俺にも弟妹が出来る可能性が出て来たのは大いに喜ばしい事だと思えた。

 父には申し訳無いと思うが、母が再婚してくれて本当に良かったと思った。

 そうかぁ……俺もお兄ちゃんになれるのかぁ……

 そう考えるとまた顔がニヤけて来てしまった。

 そうだ、弟妹が出来たらあのビッグフットの着ぐるみを借りてワイワイ遊ぶのも楽しそうだ。夏場は非常に蒸れるだろうが、冬場なら丁度良い塩梅なのではないだろうか?雪が積もればそれこそリアルなビッグフット像の出来上がりって訳だ。きっと大いに盛り上がるに違いない。

 父には申し訳無いと思うが、母の再婚相手がユニークな人で本当に良かったと思った。

 そう言えば本場のビッグフットの正体は人間が着ぐるみを被って歩いているだけだと言う噂も聞いた。案外母の再婚相手がビッグフットの正体だったりして?まぁそれは流石に話が飛躍し過ぎか。

 最初に見た時は何が起こっているのか理解不能だったが、今ではその理解不能さえひっくるめて楽しくなって来た。

 もう別に市役所に注意の電話入れなくても良いのでは無いかとすら思えて来たが、やはりいきなりビッグフットの着ぐるみが現れたら職員はパニックになると思うので一応朝になったら連絡だけは入れておこう。

 ビッグフットの中の人は一体どんな感じなのだろう?アメリカンジョーク、じゃないかカナディアンジョーク大好きなナイスガイなのだろうか?ビッグフットさん、今回は素顔見れなかったけれども今度会う時は素顔を見せてくれよな?

 それともアレか?着ぐるみで無いと人前に出れない程にシャイな性格なのか?流石にその線は低いか?まぁでも素顔の貴方と話し合える日を楽しみにしているよ。婚姻届を出し終えたらまた俺の家に寄ってくれよ。一緒に酒でも飲もうぜ?ツマミなら俺が作るからさ。俺達は家族になるんだし遠慮する事は無いんだぜ?


 そうだ、ビッグフットさんは俺の新しい父親と言う事でもある訳だ。ならばビッグフットの父さんって訳だ。『ビッグフッ父さん』って言う事か。


 適当に思い付いたが中々語感が良くて気に入ったかも知れない。今度会ったら呼んで見るか、『ビッグフッ父さん』と。どんな顔をするか見物だな。

 それはそうと、ヤパパ……って結局どう言った意味があるのだろうか?今度会ったらそれも含めて色々と聞いてみたい。深い意味など無いのかも知れないが少しだけ気にはなる。



「兄を宜しく頼みます」



……空耳だろうか?

 一瞬耳元でそう聞こえた気がした。恐らく昼間の体調不良が完全には治まっていなかったのかも知れない。幻聴がまだ続いているのかも知れないので、今日は夕飯を食べた後早めに寝て体力回復に努めようと思った。


(続)



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