第42話 イニッツィオ会戦4
ミミティの擬態を用いたゴーレム軍団と共にゆっくりとイニッツィオ要塞に向けて前進する。
直ぐ隣をマリアの意識が移った彼女に瓜二つのゴーレムが歩く。
『なんで貴方だけこんな目に遭わなきゃいけないのかしらね』
そう不満気に声を響かせるのはルナ様と共に憑依して付いて来ているミミティである。
「他の奴等を納得させる為だ、仕方ない」
『なんでそんな簡単に言えるのよ』
「そうよ、普通もっと怒るわよ」
ミミティの言葉に同意するマリアの声が響く。
「ゴーレムって喋れるのか」
「特別製のゴーレムでね、意思の疎通が出来ないと困るだろうからってアリシア様が喋れる様にしてくれたのよ」
それは有難いな。
何から何までま至れり尽くせりだ。
「それよりも、不満は無いわけ?」
「不満が無いわけでは無いさ、だが今此処で揉めるよりも要塞攻略の為に足並みを揃えて欲しいだけだ」
此処での被害の多さが今後の大規模作戦に影響を与えてくる。
ならば出来る限り息を合わせ、被害を最小限に抑えたいと誰もが思う事だろう。
まぁ俺の今の1番の目標はルナ様の汚名返上であるが。
「セレスティナより連絡、魔族の戦士達に動きがあったそうよ」
「それって丘の上の魔族?」
マリアがセレスティナから受け取った連絡を報告、俺は気になった事を聞き返した。
「そうね、丘の上のようね……まさかっ!昇っ!」
「ちょっ落ち着け━━━」
俺の言葉に何かを察したマリアによって俺はその場に押し倒される。
「っ…………あれ?」
「落ち着け、判断は悪くないけどまだ早い」
マリアが察したのは魔術による攻撃である。
俺達が丘の防衛戦で行った様に魔族もそれを行う可能性が極めて高い。
丘の上の魔族に動きがあったと言うしほぼ間違いなく撃ち込んでくるだろう。
だからマリアは俺を守る為に覆い被さった訳だがまだそのタイミングでは無いようで魔術の攻撃は無かった。
マリアに起こして貰い再び進軍を再開。
魔術の攻撃を警戒して更に慎重に進む。
それにしてもミミティの擬態は凄いな……さっきマリアに覆い被さられた時、ゴーレムの岩でゴツゴツの感じが一切なかった。
感触はマリア本体のあの肉体の柔らかさそのもの。
「シャルルの手伝いだけの筈が、がっつり関わっちまったなぁ」
「……嫌だったかしら?」
「本音を言えば死に急ぐような事はしたく無かったな。でも誰だって死にたくない、そんな中で俺だけ我儘言っても仕方ないだろう。そうも言ってられない状況だ、今は俺が動く事でシャルル達が少しでも楽になれば良いと思ってるよ、それに巡り巡ってルナ様の為になるしな」
2度目の人生、出来れば長く生きる為に平穏に過ごしたいがそうも言ってられない。
アリシア様達の手助けをしないと世界がどうなるか分かったもんじゃ無いし。
それにまだまだ子供で未来のあるシャルル達を放っておく訳にもいかない。
「……攻撃ってまだ来なさそうか?」
「丘の上で動いてはいるそうよ、恐らくだけれど私達の時同様ギリギリまで引き付けるんじゃないかしら?」
あの丘の防衛戦の時で俺達がやった様に行うと言うことか、なら今のうちに小休憩を挟むか。
「今のうちに腹拵えしとくわ」
「分かったわ」
ゴーレムの進軍を停止し様子見をしている様に見せかけ俺はマリアや他のゴーレムの影に隠れて食事を摂る事にした。
マリアから預けておいたリュックを受け取る。
「……ん?」
開けたリュックの奥底に紛れ込んでいる銀色の何か。
少し動いた事から生きている事が分かる。
アイツだ。
「てめぇ……何してやがる……」
「は、離すのじゃ〜!」
俺はリュックに手を突っ込み小さな竜の姿のリーゼロッテの首根っこを掴んで引っ張り出す。
「え、お前喋れたの?」
「いつも喋っとろうが!?」
初めて会った時は唸り声しか発して無かったから竜の姿じゃ人の言葉を発せないと思っていたんだがそんな事は無かった。
「あ、貴女!待ってなさいって言ったわよね!?」
「だって暇なんじゃもん……」
「暇だからってこんな死地に子供が来るな阿呆」
リーゼロッテの頭を軽く叩く。
さてどうしたものか、今からリーゼロッテだけでも引き返させるか……。
と言うか忍び込んでる奴が素直に1人で帰るわけないよな。
ゴーレムを1体使って送り返す方法もあるが今マリアやセレスティナのやっている事が普段と違う事で慣れてないだろうから余り労力を使わせたくないし。
予想外の出来事に頭を悩ませつつ握り飯を頬張る。
「……リーゼロッテ」
「なんじゃ、言われても帰らんぞ」
「お前、その姿なら飛べるか?」
「む?そりゃ主の手厚い手当のお陰で飛べる様になったが……はっ!?もしや飛んで帰れと言う気かえ!?嫌じゃぞ!妾は絶対に帰らんっ!!!」
ぶんぶんと音が鳴りそうな勢いで首を降るリーゼロッテ。
どんだけ本陣に帰りたくないんだよ。
「分かった」
「『昇!?』」
「ほ、本当に良いのじゃな!?嘘はダメじゃぞ!」
「嘘じゃない、ただ一つだけ約束してくれ。本当に危険になったら飛んででも此処から離脱してくれ。それが約束できるなら今は帰らなくても良い」
「むぅ……分かったのじゃ……」
良し、これでリーゼロッテは危なくなったら本陣に帰らせればいい。
「取り敢えずリーゼロッテも今のうちに飯食っとけ」
「うむ!あむっ」
……確かに食っとけとは言ったが俺の手に持つ食いかけ食えとは言ってねぇんだが……?
・
・
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それから進軍を再開して少し。
「もうじき撃ち込んできそうだな」
「そうね……」
イニッツィオ要塞の前方に魔族の兵が守備を固めた。
恐らくもうじき丘の上から攻撃をして混乱した所を突撃してくるんじゃないかな。
「と言うことで穴を掘ります」
「いつもの事ね」
持ってきていたスコップをマリアから受け取り地面を掘る。
丘の上はどうしようもないが、目の前の兵達は塹壕で多少は持ち堪え易くなる……はず。
〔魔力反応っ!攻撃来ますっ!〕
「━━━昇っ!」
突如響くセレスティナの声に慌ててマリアが俺に声を掛けた。
そんな中で俺とリーゼロッテはと言うと。
「おぉ〜沢山降ってきたのじゃ〜」
「いやはや……自分の用いた戦術を自分の身で味わう事になるとは……」
と呑気に空を眺めていた。
俺にあれらの攻撃魔術を防ぐ術は無い。
どうしよう……。
「言ってる場合じゃないでしょ?!早く伏せなさいっ!」
そうこうしていたらマリアが前のように覆い被さる。
瞬間。
攻撃魔術の着弾と共に轟音が鳴り、地面が揺れる、その数瞬後に降り注ぐ土の雨が地面を叩く音がした。
「昇!大丈夫!?」
「マリアのお陰で無事だよ、助かった」
マリアと共に身体を起こして周囲を見渡す。
魔術着弾の直ぐ後だからか周囲には土埃が立ち込めていた。
他のゴーレム達は魔術で迎撃した為被害は無かったらしいが何時まで持つかな。
「無事でなりよりじゃ」
「そっちこそ無事で良かった」
傷1つ無い姿でそこに佇むリーゼロッテの無事を確認しホッと一安心。
〔昇!返事してっ!昇っ!!〕
周囲にシャルルの声が響く。
「なんとか生きてるよ……」
隣のマリアを通してシャルル達に生存を報告する。
「ご覧の通り……イニッツィオ要塞の正面突破は厳しいのが分かるだろう?だから変わりに横の丘を制圧するんだ……」
あんな魔術攻撃を毎回受けてたら要塞攻略に支障をきたすわ。
〔昇!私達第1軍は第3軍と共に急いで丘を制圧しに向かうから!だから━━━〕
「此処で奴等の注意を引く」
〔━━っ待って━━━〕
恐らく思っていた返答と違う言葉にシャルルが待ったを掛ける。
それを遮るように俺は言葉を紡いだ。
「これが最善だ、今此処で引き下がれば丘の攻略が厳しくなる。俺が此処で注意を引けば多少丘の攻略がしやすくなるだろう。幸いまだゴーレムも全滅してないしな」
全滅してたらこんな風にマリアのゴーレムを通じて会話も出来ん訳だし。
〔……分かった〕
〔シャルルっ!?〕
渋々ながら了承したシャルルにクロエの慌てる声が聞こえた。
〔直ぐにあの丘を占拠してくるから、それまで持ち堪えてっ!〕
「任せろ」
シャルル達との通信を終えて俺は直ぐに作業に入る。
「このまま此処で魔族の注意を引きつつ要塞攻略の足掛かりの為に空堀を作る」
此処で敵の注意を引き続ければ丘の制圧が楽になる。
丘さえ取れれば先程のように上から要塞内部を直接攻撃出来る筈だ。
また塹壕を掘っておけば此処まで魔族の攻撃を避けながら進みやすくなる。
幸いにも要塞前に布陣する魔族軍が此方に突撃してくる事は無かった。
流石にほぼ無傷の此方を相手に突撃すると言う考えは無いようだ。
〔攻撃魔術第二波来ますっ!〕
〔私達の方からも迎撃魔術をっ!〕
敵魔族の攻撃魔術の第二波を観測したセレスティナから連絡が入ればそれを迎撃するとクロエの声が聞こえた。
「妾も防壁を━━━」
「止めとけ、目立つ事で却って的にされるだけだぞ。やるなら他の場所のゴーレム達に迎撃させた方が良いだろう」
人の姿になったリーゼロッテが俺の作業中に盾役を申し出たが防壁を張るとそこに居るのが上からだとバレバレになり却って的になる為却下した。
魔族の攻撃魔術の迎撃はクロエ達第2軍と複数のゴーレム達に任せ俺はマリアと残りのゴーレム達と共にひたすら空堀を掘り進める。
今居るラインから左右に伸ばし、全線を繋げる。
太陽の位置から昼位だと思われるが先程腹拵えは済ませておいたのでそのまま作業を続ける。
この間にも何度も魔族による魔術攻撃を受けているが黙々と作業を進める。
横に繋げた後は自分達の本陣の方へと掘り進める。
こうする事で味方は比較的安全に要塞手前まで近付ける筈だ。
ちなみにリーゼロッテは仕方ないにしろルナ様とミミティは危ないので憑依を解かないように言ってある。
ルナ様とは魂の同化をしており死ぬ確率が上がると言うのもあるが単純にルナ様には痛い思いをして欲しくないから。
夜は明かりを灯すと狙い撃ちされるので真っ暗闇の中で一晩を過ごす。
幸いな事夜間に攻撃こそ無かったもののそれでも中々に怖かった。
そんな中で傍にマリアやリーゼロッテが居てくれるのは心強かった。
そうして俺は真っ暗闇の塹壕の中で翌朝を迎えた。




