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嫌われ者の自分が、HP5000の美少女に転生した。  作者: 御狐
第三章 試練と聖戦
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第65話 試練の時…(挿絵アリ)

7000字あります。

 マリア達が試練の怪物と戦闘を繰り広げている所を遠目で眺めていると、どこからか声を掛けられた。


『どうやら、あの狐娘こむすめがコアを討ち取ったようだ。第一波は終わり第二波に移行するぞ。』


どうやって知ったのか、アドリーは状況を報告してくれた。

私の中でのんびりしているのに、一体どのようにして外の状況を察知しているのだろうか。


「マリアさん…第二波に行くみたい…です」


「そうですか。はぁ…早いですね。これなら、長期戦にならなくて済みそうですね。」


重そうな大剣を地面に突き刺して、聖水を一口飲んで一息ついたマリアは私の伝言に頷いて言葉を返した。

この意外でも無さそうな反応を察するに、試練は何ウェーブも有るモノのようだ。


「うう、まだあるのか…」


こんな大軍の襲撃が一回の試練で何回も起こるという事実が、私を疲労感とストレスでウンザリとさせる。


『試練は一度に3周訪れる。一回ごとにその難題と戒律も変化する。』


ご丁寧に思考を読んだアドリーが説明をする。

聞いても無いのに話し出されると、昔の私の痛々しい振る舞いを思い出して嫌悪感を抱く。


『さっきは暴食と色欲だった。だが次は傲慢と憤怒のようだな?』


それでもアドリーの説明を聞いていると、ふとあることに気が付いた。


暴食と色欲、傲慢と憤怒…これって、七つの大罪?


前世でも聞いたことはある七つの大罪、しかしなぜそれを試練に当て嵌められているのだろうか?

単純な疑問として思い付いた。


『…砂時計に封じられた悪意と欲望が具現化するからだ。最後に残った想いや願望は時間が進むにつれて歪められていき、やがて根源的な欲となる。』


「根源的な…欲望…?」


『純粋な愛情は腐った根のような嫉妬になり、生存の願いは意地汚い色欲となり、発展する文明の夢は冷たい鉄の傲慢となる。着飾った言葉や気取った理由で隠しても、本性は薄汚い欲と言う事だ。』


「………。」


『実に愉快だな?お前の抱く仲間への思いもどうせこんなモノなのだろう。ハハハ。』


気分が悪くなり、私は自分の胸を押さえ付けた。

中にいるアドリーの失言を非難する意図でこのような行為を起こしたけど、きっと私の真意は本人に届かなかっただろう。


「そろそろ第二波が来ます!ミカ様、準備してください。」


マリアの緊張を含んだ声を聞いても私の心はモヤついていた。

けれど、今は戦いの最中だ。

気持ちを切り替えて、私は杖を握り締めた。

これは【巡礼者の祈り杖】と言う名称の木製の長柄杖。

上の部分に銀のランタンが架けられていて、暖かな銀の光を淡く放っている。

この杖はついさっきマリアから貰った物で、私が扱える唯一の武器だった。

これで物理的な攻撃はやはり出来なかったけど、魔法を使うためのデバイスとしては扱えた。


「…はい。精一杯…頑張り…ます。」


息をゆっくりと落ち着かせて待ち構えていると、新たな怪物達が進軍してきた。


「ギギギッ ギッ ギギギ」


「グググ ググッ ググ」


それらは人の形をしていた。

けれどその存在が人ではない事は誰から見ても明白だった。

それらは木もしくは鉄で出来た人形だった。

のっぺりとした個性も表情も無い顔は固まっていて沈黙を貫いていたが、反対に身体の方は堅そうな音を立てる関節をぎこちなく動かしていた。

そして筋肉のない腕と手には、槍のような長柄の武器や片手剣のような鋭い武器を持っていた。


「カチカチカチ」


それは時計のような機械だった。

大きな長針と短針は鋏のように交互に回っていて、時間を刻む役割を果たしていなかった。

けれど数字は確かに記録されているようで、時計の中央の下辺りに小さなモニターが埋め込まれていて電子の数字で一秒一秒数えて記録していた。

それに何の意味があり、この機械にどのような目的が合って造られたのかは判らない。

けれど確かなのは、この時計はとても恨めしそうに時間を計り数字を示していた事だろう。


「ギャヤァァァ」


それは空から降臨する神の使徒のようであったが、その外見は醜悪その物であり、悪魔と言う表現が最も適切だ。

前世でも見た、猿のような身体にコウモリの羽を付けトカゲのような恐ろしい顔をした怪物、ガーゴイル。

グレイブのような槍を持ち、ニタニタと笑うその風貌はまさに魔物であった。


『以下の効果が≪傲慢の眷属≫全てに無作為に付与されました。』

【感情表現】

攻撃にランダムな属性を一つ付与、付与された属性が元の属性と同じであった場合威力+200%

【自我確立】

ランダムな(属性無効)効果を一つ取得。



「≪ドールウォリアー≫に≪ドールガード≫、≪クロックシャフトシーカー≫と≪クロックシャフトレコーダー≫、そして≪ガーゴイルパトローラー≫ですか。…さらに憤怒の戒律による属性付与と属性耐性…厄介ですね。」


大剣の柄に手を添えたマリアは、鋭い桃色の目を敵の軍勢に向けた。


「はぁっ…ふぅ…!」


気を張ったマリアは深呼吸をしてから、大剣の柄を両手で握り締めて軽快に走り出した。


「魔の雷よ、今一度わたくしの為に具現化し、敵を倒す力をこの物に宿せ!(ライトニングウェポン)!」


電気を纏わせた大剣を引きずらせながら、桃色の淑女は無機質な軍勢に突撃した。


「ギギギッギッ グググッググッ」

「ギギッ グッグググググッッ」


人形が集団で武器を振り上げ、力任せに叩き降ろす。

知性こそ感じない攻撃だが、接近する敵を排除しようとする意思が込められているのが分かる。


「防御します。…っ!」


マリアは大剣の腹でその斬撃を受け止めて、振り終わった人形の胴に回し蹴りを入れた。


「ガガッ」


重い大剣を軸にして遠心力を利用した軽やかな飛び蹴りは、人形を吹き飛ばした。

大剣を振り回し敵を豪快に切断するが小さな身体だからか、身体が剣の重さに引っ張られていた。

剣を振るたび、彼女の身体は遠心力に引っ張られている。


けれど彼女はそれに乗って軌道を制している。


重量によって掛かる負荷を軽減する為に、ワザと抵抗する事無く、身体ごと大剣を振り回している。


挿絵(By みてみん)


『いつまで惚けいているんだ?さっさと戦えクソニート。』


空気の読めないアドリーに水を差され、私はぶちくさ文句を呟きながら詠唱に入った。


「内なる力よ…今一度私の為に具現化し…敵を貫く槍となれ…!(マジックスピア)!」


蒼白の太い塊が推進して、迫り来る人形の胴体を吹き飛ばした。


「ガゴッ ギ…ギギ…」


しかし、流石に一撃では倒せなかった。

実を言うと、さっきの試練でも殆どの敵を倒すことが出来なかったのだ。

魔法攻撃力のステータスが低く、敵のHPも高いから私の力では歯が立たない。


自分は役に立っていないと言う事実が心を蝕む。


羞恥心が心の底から溢れ出て、戦果を上げる仲間への見当違いな嫉妬心が湧き上がった。


最低だ。本当に最低だ。


こんな醜悪な自分に嫌気がさす。

けれどこんな自己嫌悪に陥った今でも、心の奥底では自分の事を正当化しようとしているのだ。

そうして焦燥感と嫌悪感で感情がかき乱されて、いつの間にか前が見えなくなっていた。


「カチカチカチカチ ジリリリリリリリリリッッ」


目の前まで六本足の時計がにじり寄って来ていた。

クロックシャフトレコーダーはけたたましい騒音を立てながら、その鋭い刃のような足で斬り付けてきた。


「っぁあっ!?」


反応に遅れた私はお腹を切り裂かれてしまった。

ギリギリ後ろに転んだお陰で、中身が撒き散らされる事は無かった。

けれど、あの鉤爪には鋭利な風が纏われていたようで、傷口が思っていた以上に酷かった。

灼熱の痛みがジンワリとお腹を中心に広がってきた。


「…っはっ…ひゅっ…はぁぅ…!いたい……!ぃだい…!」


剔られる苦痛は何度味わっても慣れない。

意識外からの受傷は想像以上の激痛を感じさせた。

あまりの痛みに混乱して、情け無く泣いてしまった。


恥ずかしい。痛い。どうして私だけがこんな目に遭うのだろうか?こんなの理不尽だよぉ…!


そんな言葉ばかりが口から溢れそうになった。

けれど、それを必死に呑み込んで、その時計を睨み付けた。

時計は無機質に歯車の音を立てていて、それがまるで私への侮辱のように聞こえた。

そんな事無いのは分かっていたけど、危害を加えられた事への憎悪によって、私の思考は完全に怒りに染まっていた。

怒りで力がこみ上げて、杖を大振りに振って時計を殴り付けた。


「カチカチ」


けれど私の打撃は不思議な力で外れて、杖が地面に埋もれて刺さってしまった。

動揺と憎悪によって、間違った行動走ってしまった事に今更気が付いた。


「あ……。…ぃゃ…っ…」


時計が鋭い鉤爪を大きく振りかぶった。

それは避けられない間合いだった。

助けを求めようと視線を周囲に送った。

けれど、マリアは前線で戦って囲まれているから助けに来れない。

コロロは気付いているけどガーゴイルを相手しているのと、距離が少し遠いからこちらに構う余裕は無い。

シフとアンリはちょうどさっき、みぃ達の所に向かって行ったばかりだった。


…誰も助けられない。


このまま死ぬんだと、自然と力が抜けてきた。

鉄の鉤爪が目の前まで迫ってきた次の瞬間。


「(マジックスティンガー)~!」


クリスタルの細い刃が高速で撃ち出され、時計の鉤爪部分を弾いたのだ。


一瞬だけ私は理解が遅れた。


コロロがたった一言の呪文で魔法を放ち、瞬時にその鉤爪を撃ち抜いたと言う事実を私は遅れて気が付いたのだ。

かなりの距離からの一瞬の狙撃、しかも魔法は銃と違って狙いを付けるのにかなりの集中力を求められる。

私も魔法を使って戦っているから、その難しさがよく分かっている。


「助けに入ってあげるね~!内なる力よ~今一度アタイの為に具現化し~敵を葬る流星となれ~!(マジックスター)~!」


コロロが詠唱を終えたと同時に、蒼白の流星が一つ、時計にめがけて墜落した。

激しい破裂音を響かせ金属が歪む音を吐き出しながら、クロックシャフトレコーダーは針の動きを止めた。

更に蒼白の流星は破裂したと同時に、鋭い破片が飛び散り、それらがまるで意思を持ったかのように近くの敵に向かっていく。


「(マジックアロー)~!」


コロロは私に飛び込むように駆け抜け、走り抜けながらも器用に魔法を撃ち、空を飛来するクロックシャフトシーカーを破壊した。


「危なかったね~…大丈夫~?」


駆け寄って来たコロロは優しく私を起こしてくれた。

その後ろで、墜落したクロックシャフトシーカーが煙を上げて漏電していた。


「あぅ…ご…ごめん…なさい…集中…出来なくて……役に立たないと…いけないのに…役立たずでごめん…」


こみ上げる感情で私は熱い水滴を両目からボタボタ溢しながら、弱音の混じった声を絞り出した。


助けられたと言うのに、私はお礼の言葉が出なかった。


それどころか、一瞬ではあったけど…私はコロロの技量に嫉妬してしまったんだ。

自分よりも上手く立ち回れるその洗練された動きに、私は醜い羨望を抱いてしまったんだ。


「ごめん…ごめんなさい…ごめん…頑張らないといけないのに…戦わなければいけないのに…!」


言葉だけの謝罪と安い涙だけが溢れてきて、肝心のお礼を言えていない。

戦闘中でありながら、泣いてばかりで何も出来ていない。

本当に自分が役立たずで、嫌になってくる。

自己嫌悪とストレスで過呼吸を起こして震えていると、コロロが私に手を伸ばした。


「…そんなに焦らなくても大丈夫だよ~。」


ふわりと、小さくて健康的な少女の手が優しく頭を撫でてくれた。


「……っ!」


「ミカたんには~ミカたんにしか出来ない事があるから。だから…役立たずなんて言葉を使っちゃダメだよ~?」


そう優しく悟らせようと甘く囁いたコロロは、その小さな手で私を引っ張る。


「アタイに付いてきて。」


私は手を引かれるままに彼女に付いていった。

彼女は敵の大群に私を引いて飛び込んだ。

攻撃が雨風のように降り注いで来たが、彼女はそれを踊り舞うように紙一重で躱していった。

そして同時に私を引っ張って、その攻撃を躱させてくれている。

かなりの技量が求められるはずなのに、いとも簡単にやってのけた。

その技術に心から感心した私は、もう嫉妬の感情が無くなっていた。


「ここを~こう!今の感覚を覚えて~!」


その一言で、私を導く彼女の意図がわかった。

コロロは私を鍛えてくれているんだ。

私のことが心配だから、私が戦えるように成りたいと願っている事に気がついてくれたから、彼女は私に力を貸してくれている。


「コツを掴めば~きっと戦えるから。だから~そんなに落ち込まなくて良いんだよ~♡」


彼女はまるで先生のようだった。

前世で腐るほど見た外見だけの教師ではない、誠実で優しくて面倒見が良い、本当の先生だった。

そのありがたい存在に私は心を奪われていた。


『…≪墓守≫。…一体、何を企んでいる?』


そんな中で、アドリーが小さく言葉を彼女に投げかける。

けれど、私は彼の言葉が耳に入ってなかった。

そして、彼は幽霊だから彼女には聞こえていない。


「そうそう~いいね~!ミカたんは頑張れば強くなれるから~…だからね、安心して~。アタイが~ミカたんを正しく導いてあげるから♡」


彼女は優しく微笑みながら、天に向かって手を掲げた。


「内なる力よ~今一度アタイのために具現化し~敵を滅する流星群となれ~(マジックスコール)!」


青白い弾が空に昇って、青い結晶の流星群が地上に降り注いで、人形や機械の軍勢を掃討していった。


「すごい…」


息を呑むような光景に圧倒されて、つい立ち止まって眺めていた。

コロロはそんなすっとろい私に合わせて一緒に立ち止まってくれた。

そして額をくっ付けて、少し先の方に指を指し示した。


「あれが第二波の標的だよ~。マリア君がちょうど近くにいるから~一緒に合流して協力しちゃおっか!」


褐色色の指先を目で追うと、遠くに巨大な影があった。

それは人型で見ているだけで息が詰まりそうになる程に、威圧的な冷たい鉄の肉体を持っていた。

重機のような指のない拳に、戦車すら圧倒する重厚な鋼鉄の身体、そして中心には人の頭くらいの大きさの宝玉のような物が埋め込まれていた。


それの名は、≪アイアンゴーレム≫だ。


アイアンゴーレムはただ静かに拳を振り上げて、マリアに叩き下ろした。

マリアはその重機のような拳を大剣で受け止めて、衝撃を外へ受け流した。

それでも完全には衝撃を躱す事は出来ず、マリアは強力な振動により肉体を損傷してしまった。


「がはっ…!……くっ…!流石に…耐えられませんね…。」


「マリア~アタイ達も協力するよ~!」


大声を出して意思を伝えたコロロは、大剣を持ち直したマリアに私を引き連れながら近付いた。


「コロロ様…それにミカ様まで!」


ちょうど良いタイミングの増援で、少し余裕が出来たのだろうか、マリアの目に感激の光が灯った。


「何とかして~その拳を振り上げさせないで~!隙を見てアタイが足止めして、ミカたんが止めを刺すから~!」


「え…?ええ?!」


私が止めを刺す?

そんなことを出来るわけが無い。

けれど、コロロが私に向けた目はまるで、「信頼しているよ」と語りかけているようだった。


「分かりました!」


そしてあろう事か、それをマリアは承諾してしまった。

私ではどう考えても実力不足なのに、一体どうしてコロロは私に強敵と戦わせようとするのだろうか。

絶対に失望させるのに、私なんかがあんな化け物相手に勝てるわけが無い。

不安感と恐怖で呼吸が荒くなってきた。

喉が乾いてヒリヒリする。

ガタガタ震えて固まっていると、コロロが私の前に立って…そして…いきなり私を抱き締めた。


「ふぐぅっ!?」


小さな胸に私の顔を押し付けて、柔らかい指で頭を丁寧に撫でてくれた。

空いた手で背中をポンポンと叩いて、甘い声で私の耳元で囁いた。


「落ち着いて~深呼吸しようか。いぃ~…ぃち♡にぃ~…ぃい♡さぁ~…っん♡」


言われるがまま数える掛け声に合わせて、深く息を吸って吐き出した。

ただ息を整えるだけなのに、心の乱れが落ち着いた。

まるで魔法にでもかけられたかのようだった。


「はい♡よく出来ました~♡」


コロロはクスッと笑いながら私を開放した。

少し名残惜しい気分になったけど、気持ちはだいぶ落ち着いた。


「ありがとう……。…勝てる…か、わからないけど…頑張るよ…!」


でも彼女のお陰で、覚悟が決まった。

恐怖が無くなった訳では無いけれど、身を蝕む不安感は無くなった。

助けてくれる仲間がいると気付けたから、私は恐怖を押し殺して戦える。


「…行くよ。」


杖を強く抱き寄せて、私はまだ恐怖心の消えない目で、沈黙するアイアンゴーレムを睨み付けた。

そして…意識を集中させて、私はようやく外野から抜け出して、戦いの渦に自ら飛び込んだ。

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