第64話 試練の刻
ハローさんの特訓から少し時間が経って、私達はついに試練に挑む事になった。
シルミアちゃんが準備してくれた教会の武装をそれぞれ配備して、ハローさんから教わった戦闘術を確認しあって、コロロちゃんが考案した配置場所で待機して、最後に皆で覚悟を決め合った。
今はもうこれ以上の準備が出来ないと言うところまで行って、私達はそれぞれの担当場所で待機している。
私とシルミアさんとハローさんはお屋敷の正面側。
ミカちゃんとマリアとコロロちゃんはお屋敷の反対側。
アンリちゃんとシフちゃんは回りを巡回して、状況を観測する役目を務める。
これはコロロちゃんが考えてくれた陣形で、ついさっき私達が確認した。
私はステータスを確認して、装備品を見定めた。
【みぃ レベル30】
HP 810+450
MP 350+50
器用値 20+110
速度 70+43
攻撃力 370+14
魔法攻撃力 125+30
魔法回復力 65
【防御力 185】
頭【神聖戦士のホーリーバイザー】
【獣戦士のイヤーガード】
上着【聖戦乙女のホーリープロテクター】
【高級メイド服】【女給のエプロン】
【聖戦騎士のシルバーガントレット(左)】
【下級騎士のレザーガントレット(右)】
【獣戦士のテイルガード】
下着【紫色のスポーツブラ】【紫色のスポーツパンツ】
脚【銀刺繍のニーソックス】【冒険者の革靴】
装飾品【理解の賢眼】【足に付けるナイフホルダー】
武器【ドゥームソード】【審問の中鎚】
【神聖戦士のホーリーバイザー】
(防御力+20)(HP+100)
(《斬撃抵抗》この装備で斬撃属性ダメージを受けた時、受けた斬撃ダメージ50%軽減。)
(《打撃耐性》この装備で打撃属性ダメージを受けた時、受けた打撃ダメージ30%軽減。)
(《雷電脆弱》この装備で雷電属性ダメージを受けた時、受けた雷電ダメージ50%増加。)
【獣戦士のイヤーガード】
(防御力+6)(攻撃力+2)
【聖戦乙女のホーリープロテクター】
(防御力+80)(HP+100)
(《斬撃抵抗》この装備で斬撃属性ダメージを受けた時、受けた斬撃ダメージ50%軽減。)
(《打撃耐性》この装備で打撃属性ダメージを受けた時、受けた打撃ダメージ30%軽減。)
(《雷電脆弱》この装備で雷電属性ダメージを受けた時、受けた雷電ダメージ50%増加。)
【高級メイド服】
(防御力+10)(器用値+100)(速度+15)
【女給用エプロン】
(防御力+6)(速度+3)
【聖戦騎士のシルバーガントレット】
(防御力+10)(守備値+100)(HP+50)
(《斬撃抵抗》この装備で斬撃属性ダメージを受けた時、受けた斬撃ダメージ50%軽減。)
(《打撃耐性》この装備で打撃属性ダメージを受けた時、受けた打撃ダメージ30%軽減。)
(《雷電脆弱》この装備で雷電属性ダメージを受けた時、受けた雷電ダメージ50%増加。)
【下級騎士のレザーガントレット】
(防御力+10)(守備値+20)(攻撃力+10)
(《打撃耐性》この装備で打撃攻撃を受けた時、受けた打撃ダメージ30%軽減。)
(《斬撃緩和》この装備で斬撃攻撃を受けた時、受けた斬撃ダメージ10%軽減。)
(《貫通弱点》この装備で貫通攻撃を受けた時、受けた貫通ダメージ10%増加。)
【獣戦士のテイルガード】
(防御力+6)(攻撃力+2)
【紫色のスポーツブラ】
(防御力+3)(速度+5)(魔法攻撃力+10)
【紫色のスポーツパンツ】
(防御力+3)(速度+5)(魔法攻撃力+10)
【銀刺繍のニーソックス】
(防御力+10)(MP+50)
(《魔法低級循環》魔法を使用した時、10%の確率でMPを消費しない。ただし魔法以外の術は適応されない。)
【冒険者の革靴】
(防御力+15)
【理解の賢眼】
(防御力+3)(魔法攻撃力+10)
(《裁定の眼》察知能力がわずかに上昇。)
【脚に付けるナイフホルダー】
(防御力+3)(器用値+10)
【ドゥームソード】
(攻撃威力 500)(速度+15)
(《遠吠え一閃》相手との間合いを一気に縮め、剣で斬りつける技。使うと疲労する。技名を口にすれば発動する。)
【審問の中鎚】
(攻撃威力 250)(HP+200)
(《神聖なる武器》この武装による物理攻撃属性が神聖属性になる。)
私はもう一度覚悟を決めて、頭の髪飾りに触れた。
ご主人様も恐れた試練に、私なんかがどうにか出来るのかな…。
これだけ準備をした今でもそんなことが頭によぎった。
けど、私は一人じゃない。
皆を信じて、最後まで戦い抜くしかない!
「ご主人様、見守っていて!みぃは…皆で頑張るから!試練に勝ってみせるから!」
心構えをして気持ちを昂らせていると、どこからかラッパを吹いたような音と鐘を鳴らす音が聞こえてきた。
それはとても歪んでいて不協和音になっており、聞いているだけで頭痛がした。
『そして、無垢なる子供達は深き眠りに就き、母と父は子守歌を歌いながら、安らかに朝日を待つ。』
耳元に囁かれたその言葉はとても無機質だった。
けれど、その言葉には幾つもの悪意と憎悪が込められているように感じられて、全身が恐怖で震えた。
『ただ与えられた物資を食べ続けていたい。』
空気が一変して、嫌な気配が漂った。
それから少し間を置いて、周囲に何かが現れた。
まるでいきなりその場所で産み落とされたかのように、突然現れたのだ。
『種の繁栄のために生き続けていたい。』
さらに、何か嫌な雰囲気が一気に充満した。
そして私の視界に文字が表記されて、何が起こったのかを機械的に教えられた。
『以下の効果が≪暴食の眷属≫全てに無作為に付与されました。』
【愛をください】
攻撃を受けた時、HP最大値の10%分の回復量で回復する。
【繁栄する肉体】
HPが2倍になる。自然回復力も増加。
こみ上げる吐き気と嫌悪感を押さえ付けた。
不快感を敵意に転換させた私は、右手で剣を抜いて左手で銀の鎚を握り締めた。
「来い!モンスター達め!一人残らず、私が相手してあげるから!」
私は声を張り上げて、森から現れた怪物達を睨み付けた。
『闇夜の試練は暴食の難題と色欲の戒律です。嗚呼、黒い星が空に昇ります。勇敢なる大人達は剣を研ぎ、弓を弾きましょう。無垢なる子供達は扉に鍵を掛けて、祈りの歌を歌いましょう。岩を削り壁を作り、石を積んで城を建てて、皆で一緒にここは私達の家だと大きな声で宣言しましょう。』
現れた怪物達の種類は多種多様だった。
ハエとゴキブリが混ざったような姿の≪ファットコックローチ≫の大群。
尻尾が二つに割れた猫のような獣の≪ツインテイルキャット≫の集団。
ヨダレをダラダラと垂らしながらこちらを狙っている野犬のような獣の≪ハングリードッグ≫の群れ。
それ以外にも、多くの魔物がこちらに押し寄せて来た。
「皆!頑張るよ!」
「はいです!精一杯頑張ります!」
「…努力しよう。」
私は雄叫びを上げながら、敵の軍勢に飛び込んだ。
ファットコックローチがその鋭い鎌のような前足で斬り付けてきたけど、私はそれを剣で受け止めて力ずくで斬り刎ねた。
不潔な血を噴き出しながら仰け反ったファットコックローチの脳天に、私は左手に握った銀の鎚を振り落とした。
ボシャッッ
そのまま体を捻って、近くにいた別のゴキブリの顔面に鎚を叩き込んだ。
槌がめり込み、ゴキブリが不潔な吐瀉物を吐き出した。
「キシィ!?」
ただ、流石にそれだけでは倒しきれなかった。
けれど、私は流れるように鎚を往復させて、その醜悪な顔を叩き潰した。
「シャァァア!!」
数体のツインテイルキャットがこちらを威嚇して、尻尾に力を貯めていく。
この魔物は魔法を使う事が出来て、その属性は尻尾の先の灯の色を見れば解る。
散けているけど、大体が雷電属性みたいだ。
金属製の装備をしているこの私に、その属性で攻撃されれば致命傷になる。
私は魔法を詠唱中のツインテイルキャットの首を躊躇無く跳ね飛ばしていく。
「シャア!」
けれど数が多すぎたのと、相手がすばしっこくて、全ては倒しきれなかった。
雷の矢が何本も私の方に向かってきて、肉体を穿とうとする。
何本かは剣で切り落として防いで見せたけど、一発だけ直撃してしまった。
「あばばばっ!!?」
感電して頭をクラクラさせてしまい、大きなスキを晒してしまった。
飢えた野犬が一斉に飛びついてきて、私を食い散らかそうとした。
刹那、私と野犬の間に鋭い風が吹いた。
そして、野犬が牙を剥くちょうどその瞬間に、文字通り細切れになったのだ。
「小娘よ、気を付けるのじゃ。あと一歩遅ければ犬の餌になっておったぞ?」
ハローさんが間一髪の所を助けてくれたみたいだ。
剣流の速度はあまりにも速すぎて、私でも殆ど見えなかった。
感心しながら私は感謝を伝えて復帰する。
「いくよ!」
止まない進軍を崩壊させるために私は正面からぶつかり、敵を蹴散らしていく。
敵は奇妙な加護が掛かっているからか、とてもしぶとくて頭を潰すか心臓を穿た無ければ死ななかった。
それでも、私は止まらないからね!
正面から突撃してくるゴキブリには槌の打撃を…嚙みついてくる野犬の怪物には鋭利な斬撃を…横から魔法攻撃を入れてくる猫の魔物には炎の槍をお見舞いした。
「ぎゃあああん!!?!」
燃え上がりながら暴れる事で周囲の草に引火していき、他の魔物の進軍を多少足止めした。
けれども数が多く、その火は踏み消されてしまう。
魔物達は恐怖に怯えることも悲しみを嘆くこともなく、ただただ餌を求めるかのように前に進んでいく。
「このままだと数で押される!短期決戦に持ち込むから、私はボスを狙うね!みんなは他の魔物の足止めをお願い!」
意識を目に集約させて、敵の大群の中に紛れる標的を探し出す。
鋭い剣のような角を生やした鹿のような小柄な獣の≪ソードヘッドビースト≫を取り巻きにして、ここを席捲する巨体の獣≪アーマードベアー≫…奴こそがこの試練の大ボスだ。
あの熊を討てば、第一波は終了して第二波に移行する。
倒さなければ怪物は次から次へと出現し続けて、こちらに大群を成して進軍してくる。
「覚悟して。この剣がアナタの生命の糸を断ち切ってやるから!」
宣言通りに大熊の命を絶つために私は駆け抜けた。
「グルルルルエラアアアア!!!」
大熊がそのかぎ爪を大振りで振りかぶり、私の顔面を破壊しようと叩き付けてきた。
けれど、その大振りな攻撃では私を捉えるには至らずだった。
腰を深く落として、体勢を低くしてその破壊的な一撃を回避する。
「(蛇口裂き)!」
敵の腰に深々と斬撃を叩き込み、下半身を大きく切り裂いた。
私によって下半身を裂かれた事で、立っていられなくなった大熊が膝から崩れ落ちる。
グラリと崩れ落ちた大熊の胸に、私は刃を突き立てようと剣を両手で握り締めた。
「…っ!来た!」
すると遠目で様子見していた鹿の魔物が、前脚で地面を力強く蹴り上げてこちらに突っ込んできた。
ソードヘッドビーストがレイピアのような角を突き立てて、私に突撃して貫こうとする。
迎撃として私は横一文字に剣を振り払い、その鹿の首を刎ねんとする。
けれど、剣の斬撃はその研がれた剣角によって弾き返されてしまった。
しまった!
まさか、獣に私の攻撃をいなされるとは思ってもいなかった。
不覚にも私は体勢を崩してしまった。
その隙を突いて、もう一匹の鹿がその鋭利な角で私のお腹を穿とうと飛び出してきた。
「愛憎に狂える私が命ずる。私の身体に流れる赤き鮮血を供物として捧げる。私を拒むあの者を捕らえる代行者の手を召喚せよ。そして、あの者を拘束せよ!…(ホラーハンド)。」
聞いたことも無い不気味な内容の呪文が聞こえたかと思った直後、信じられないような光景が目の前で起こった。
鹿の足元から血の気のない手が伸びてきて、鹿の突進を拘束して阻んだのだ。
まるで地獄に引きずり込もうと、亡者が手を伸ばしているようだ。
「フフっ。死霊の抱擁です。」
その青白い手を召喚した者は、まさかのシルミアちゃんだった。
かなり不気味で身の毛がよだつ光景だけど、シルミアちゃんが術を使って私を助けてくれたようだ。
「…ありがとう!助かったよ!」
「礼には及びません。フフっ。…サポートをしますので、頑張ってくださいです!」
「うん!ありがとう!じゃあ、とどめだよ!」
私は身動きを抑えられた鹿を真っ二つに叩き割り、続けて連続で斬撃をもう一体の鹿にぶつけた。
「(八重斬り)!」
鹿はこの連撃を捌ききれず圧されてしまい、ついには刃が鹿の胸に到達した。
胸肉を袈裟に切り裂かれた鹿の魔物は、甲高い断末魔を上げて地面に倒れた。
残った大熊は誰にも守られていない完全に無防備な状態であった。
このスキを逃さない。
「(一点突き)!うやあああ!!」
鋭く研ぎ澄まされた刺突は大熊の胸を覆う装甲を穿ち、堅牢な筋肉と骨を貫いてから、奥に根付いた心臓を打ち抜いた。
これにより、私は大熊の魔物を撃破したのだ。
『限りある資源を食べ尽くしてでも、飢えを忘れたかった。』
ボスを討った事で魔物は統率を失い、これ以上産み落とされる事は無かった。
『他の種を絶えさせてでも、死から逃れたかった。』
そして残った魔物もさっきよりもずっと倒しやすかった。
意地汚い生命力もしぶとい再生力も失った魔物を私達は一切の容赦も無く殲滅した。
これにより、第一波はしのぐことができた。
けれど安心してはいけない。
何故なら直ぐに第二波が訪れたから。
『この偉大なる文明で栄え続けていたい。』
『色とりどりな感情を表し続けていたい。』
試練はまだこれからだ。




