第63話 聖化の秘儀と人格同期…です?(挿絵アリ)
約5000字あります。
みぃさんとミカさんが席を外した事で、修行は一旦終わりました。
心配に成りましたが、ニイュさんは『大丈夫だと思う』と言っていましたので、私もその意見に同調する事にしました。
「あ、皆さん、もし銀の武器を持っていましたら、私に預けてくれませんか?教会の祝福を施すことができますので、お願いします。」
私はそう伝えた後、大量の銀製の武装を受け取ってから、自室に戻りました。
この前拾ったこのどーむすてっき?がとても便利でして、なんと武器や物を多く収納できるみたいです。
ただ、使うたびに吐き気と目眩がして、それが今でもずっと続いているのです。
『うげ…気持ち悪い…。こういう時は…素数を数えて円周率を読んで紛らわせます…』
そしてどうやらニイュさんもその影響を受けているようで、さっきから気分を悪そうにしていました。
「ごめんなさいです…!まさか感覚まで共有されるとは…」
『気にしないで…はぅ…聖シルミアさんは気にせずやるべき事をやってください。うぅ…私は少し見てます。』
ニイュさんは時折つわりのような苦しそうな声を漏らしていました。
私もかなり辛いですが、儀式に集中して何とか吐かないように堪えました。
銀の剣と銀の槍…銀の弓に銀の盾…そして銀の鈍器が何本もありますね。
それに銀の矢もかなりの数があります。
私は他に誰も周りに居ない事を確認して、ゆっくりと服の留め具に手を掛けました。
パサリ
服を脱いで全身に清らかなオイルを塗り、私は銀の鎚を一つ手に取りました。
『ふぁぁっ!!?』
隣でニイュさんが真っ赤になった顔で目を隠していましたが、恥ずかしい私のでは気にしないようにしました。
「ーーー。ーーーーー。ーー。」
銀鎚に抱き付きながら、霊妙な聖歌を歌います。
歌いながら事前に設置した蝋燭に火を灯して、甘い匂いのする香を焚きます。
「ーー。ーーーーーー。ーーー。ー。」
そうして5分程聖歌を歌い続け、神聖な契約書に直筆でサインをしました。
契約書を優しく摘まみ上げ、オイルに塗れた銀鎚にピタリと貼り付けます。
パアァァァ
すると天からラッパのような音が聞こえ、何処からか光が差し込み私を照らしました。
銀鎚は溶けるように形を変え、新しい武器へと生まれ変わりました。
【審問の中鎚】
(攻撃威力 250)(HP+200)
(《神聖な武器》この武装による物理攻撃の属性が神聖属性になる。)
私は祝福されて新しく産み落とされた銀鎚を優しく撫でて、次の武装を手に取りました。
………。
………………。
何度も何度も武器達を生まれ変わらせて、新しい姿を祝福していると、ずっと静かに眺めていたニイュさんが声を掛けてきました。
『これが聖化の秘儀ですか。記憶の中で何度か見ましたが、実際にこの目では初めて見ました…』
感心して興味深そうにニイュさんは呟きました。
少し息抜きとして、私はニイュさんの言葉に答えました。
私も詳しい原理までは知りませんが、聖歌を歌う事で神との通信をして、銀の武装を神の力によって生まれ変わらせて、新しい武器に変えると言う物のようです。
触媒となる【聖潤オイル】と【青色信徒の体液】を塗り込み、煙と香を染み込ませる事でようやく変質の準備が整うのです。
最後に契約書を書いて武器に貼り付ける事で、神はその武器に干渉して造り出すのです。
『そうなのですか。…この聖剣もこうやって造られていたのですね?フフっ。そうやって考えると、不思議とこの武器達も子供のように見えてきました。』
ニイュさんは聖化した武装の一つである銀の剣に軽く触れて、指先で刃をなぞりました。
『…そうですね。折角なので私もやるべき事を今やっちゃいましょうか。フフっ。フフフっ。』
「…?」
独り言をしたかと思うと、ニイュさんは少し怪し気に笑い声を溢していました。
『聖シルミアさん、少しお時間を頂けますか?簡単なお願いをするだけです。』
一呼吸おいて、ニイュさんが聞きました。
簡単なお願いと言っていましたがニイュさんの声色は真剣そのもので、簡単なお願いを頼んでいるようには聞こえなかったのです。
しかし、私が特に断る理由も無さそうに感じたので、それに了承しました。
『フフっ。ありがとうございます。では…今から私の言ったとおりにしてください。…先ずは目を閉じて精神を統一してみてください。』
言われるがままに目を閉じて瞑想をします。
『聖シルミアさん、正直に答えてくださいね?フフっ。何が見えますか?』
聞かれた問いに答えます。
「人影が見えます。そして、小さくか細い…銀の紐が……伸びているように見えます。」
目の前には人が立っていました。
銀の紐が伸びていて、それを辿ってみると、私に繋がっている事に気が付きました。
私の体に纏わり付く、その銀の紐はとても優しくて軽い感触でした。
『シルバーコード…その銀の紐を手繰り寄せてください。そして、私に集中してください。』
言われるがままに、紐に指を架け、優しく引っ張り寄せました。
そして、鮮明になっていく、人影に意識を同期させたのです。
………。
………………。
すると、さっきまで小さな礼拝場にいたはずなのに、いつの間にか私は違う場所にいたのです。
そこは、のどかな小さな村でした。
野草が花を咲かせて、家が点々と建っているのです。
しかし、家の影には灰の被った死体が幾つも打ち棄てられていました。
まるで、恥部を隠すようにしてそこに放置されていたそれらは、同じ顔で同じ髪色の多種多様な死に顔の少女の死体でした。
私は何となく、それらに目を背けたくなり、急いで明るい方に目を向けました。
視線の先には、小さな井戸が有りました。
ありふれた雑草の花が咲き乱れ、井戸も蔓と苔の花によって小さなガーデンのように成っていました。
その井戸の縁に腰を掛ける小さな少女が石板を抱き抱えて花を愛でていました。
その少女はとても小柄でした。
伸長と同じくらいの桜色の髪を地面に付けていて、青い目は慈しみ溢れていて、頭に変わった癖毛が有りました。
まるで、童話の一部を切り取ったような風景でした。
少女は私の存在に気が付いて、優しくて微笑みかけました。
「フフっ。待っていました。実際に姿を見せるのは初めてでしたね?」
その声はさっきまで耳元で聞こえていたモノと全く同じでした。
それを意味するのは、つまり目の前の少女こそがニイュさんの本当の姿と言うことなのです。
「ようこそ。私の心情風景へ。フフっ。聖シルミアさん、思っていたよりも身長が高いのですね?」
ニイュさんは微笑みながら、私を手で招きました。
「ごめんなさい。私、あまり体が良く無くて…夢の中ですらあまり満足には動けないのです。」
申し訳なさそうに事情を説明されて、私は少し駆け足気味にニイュさんのいる方に近づきました。
家々の間にある道を通る度、家の影から死した少女の手が伸びてきて少し不気味でした。
アレらは一体何を表しているのでしょうか?
結局分からず、私はニイュさんの前まで辿り着きました。
「さて、聖シルミアさんにここに来て貰ったのには、ちゃんとした目的と理由が有るのです。」
ニイュさんは石板に何かを書き込みながら、私に説明を始めました。
どうやら、同期を進めることで得られる効果には種類があるみたいです。
(共鳴スキル)(同調スキル)(性格スキル)そして(感情連鎖)の4つです。
(共鳴スキル)は繋がりが有る限り、常時発動している効果でマイナスの影響は限りなく少ないらしいです。
(同調スキル)は人格を交換して肉体を支配する状態である(完全同調)の時、或いは肉体を二つの人格で共有している状態である(同調)の時にのみ発動する交換であり、強力なモノが多いみたいです。
(性格スキル)はその人の癖や性格の一部が肉体にすり込まれる現象であり、大体がマイナスの効果が多いみたいです。
そして、(感情連鎖)と呼ばれる反応は人格のその時の感情によって現れる能力であり、戦況を打開するほどの強大な力も有れば、逆に一気に不利になる効果も有るみたいで、扱いが難しく制御が効かないらしいです?
「はい。これが同期する事で得られる能力です。フフっ。」
そう微笑むニイュさんは石板の表側を私に向けて、書かれている内容を見せつけました。
【共鳴スキル】
・見習い聖女さん
(常時MP+500)
【同調スキル】
・恋人への祈り
(同調時、シルミアとニイュに『高揚』10以上ある場合、魔法回復力+50%)
(同調時、シルミアとニイュが祈祷を使用する度に『瞑想』を取得。)
・愛で買える物
(完全同調時、ニイュの『高揚』10消費して、『ニイュの呪術』の対価を減少させる。『高揚』が足りない場合、呪術の対価に『恍惚』状態が対価に追加される。)
・超短期演算処理法
(同調時、『瞑想』50『高揚』30を消費して、ニイュの思考能力を極限まで稼働させる。この時ニイュの『瞑想』と『高揚』が足りなかった場合、シルミアはニイュの代わりに『疲労』し、『瞑想』5を取得する。)
【性格スキル】
・妄想癖
(『疲労』状態の時、あられも無い幻想を抱く。)
(『妄想』状態の時、『高揚』を取得し続ける。)
・熟考
(思考する時、集中してしまい他の行動を止める。)
(思考完了後、全人格『瞑想』を取得する。)
・虚弱体質
(攻撃力-20%、速度-10%)
(ニイュもしくはシルミアが『疲労』状態の時、追加で全ステータス-10%の効果を得る。)
【感情連鎖】
・分かって欲しいです【恍惚】
(ニイュが『恍惚』状態の時、全人格の『ニイュの人格同期スキル』によって得られる『高揚』数が全て倍になる。)
・寝取られ妄想【愉悦】
(ニイュが『愉悦』状態の時、シルミアは『混乱』5を取得する。)
・合理的思考ぷろせす【聡明】
(ニイュが『聡明』状態の時、【超短期演算処理法】のコストが無くなるが、ニイュを除く全人格が『疲労』状態になる。また、ニイュの『聡明』状態が解除された時、ニイュは『眠気』10『混乱』3を取得する。)
・賢者たいむ【無心】
(ニイュが『無心』状態の時、精神に作用する状態異常の効果を一部無効化する。この時、ニイュは『混乱』10を取得する。)
ずらりと書き記された項目に目を通して、私はもう一度ニイュさんに向き合いました。
ニイュさんは微笑みかけ、石板を傍らに置きます。
「これはあくまで一段階目で得られる能力です。段階を重ねる度に能力は増えたり、効果が強くなったりします。フフっ。まるでゲームみたいですね?フフっ。フフっ。」
不敵に笑うニイュさんは小指を立て、私の方に差し出して言いました。
「古来より指切りと言うのは契約の儀式として伝わっておりますよね?これが私との同期を進めるための手順ですから、フフっ。どうか私と指切りしてください。」
少し恥ずかしそうに口元を手で隠しながら、ニイュさんは指切りをせがみました。
私は小指を出して、ニイュさんの指に掛けました。
こんな小さな子と指切りをするのが初めてで、ドキドキとして何だか不思議な気分でした。
「…!?」
突然、ニイュさんの指先を伝って銀の紐が伸びてきました。
それは少しずつ指の上で這ってきて、私の指に絡まっていきました。
不快感はそこまでしませんでしたが何だか恐ろしい事をしているような気がして、少しずつ怖くなってきました。
ニイュさんは私の頬を空いている手で撫でて、優しく微笑みかけてくれました。
未知への恐怖が消えたわけではありませんが、ニイュさんの笑顔を見て少し安心感を覚えました。
『時間だけが私の味方であり、私を守ってくれました。そして、時間は無知な私に真理を教えてくれたのです。』
一瞬、頭の中で声が聞こえた気がしました。
その声は、ニイュさんの声にとてもよく似ていました。
ですが、その声は若干異なっていて、この声が目の前の少女のモノではないと言うことは直ぐに分かったのです。
手首まで銀の紐で結ばれて、少しずつ浸透していき見えなくなったのです。
そうしてニイュさんはゆっくりと指を離しました。
「チュっ」
そして急にニイュさんが私の唇に口を付けたのです!
あまりの急過ぎる行為に私が飛び上がると、ニイュさんはクスクス笑っていました。
「フフっ。薄い甘さですね?これがキスと言うモノですか。フフっ。フフフっ。」
「な…な…!…何するですか!?」
私は動揺しながら後ろに下がっていきました。
家の影から誰かの手が伸びてきましたが、そんなことどうでも良かったです。
キスされました!初めてなのに!
改めて何が起こったのかを考えると、顔が赤く火照ってきました…。
ニイュさんは小悪魔的な笑みを浮かべうっとりとした目で私を見ていました。
「フフっ。安心してください。これは聖シルミアさんを夢から覚ますための手段ですから。フフっ。目覚めの条件は人によって違いますから、最初は少し不安でしたが、コレなら私でもデキますね♡フフフっ。フフフフっ。」
妖艶な微笑みを溢したニイュさんは、私の上に乗っかかり自分の服を脱いだのです。
そして、私の服を脱がせました!
………。
………………。
それから少し経って、私は気が付いたら自室に立ち竦んでおりました。
なんだか、何かを失った気がします…。
気を取り直してから私は、祝福された装備を皆さまに配りに向かいました。
2023/8/6 タイトルに(挿絵アリ)の表記を追加しました。忘れてた。




