第8話
金曜日の夜アイズ狩りをするため、アイズの連中がたむろするコンビニの近くでアイズのメンバーが来るのを待っていた。
おれたちの服装は、黒のニットキャップにマスク、黒のトレーニングウエアという黒ずくめの格好だ。
それに拳にはオープンフィンガーグローブを着けている。
いずれ正体はバレるにしても、遅い方がいい。
時刻は午後9時過ぎ。冬に外で長時間じっとしていたら凍えてしまう寒さだ。
「来ないですね」
「金曜の夜だ。きっとくるはずだ」
「はい...」
しばらく待っていると2人乗りの原付バイクがコンビニに止まった。
田端が目を凝らして顔を見る。
「あいつらアイズのメンバーだ」
2人がコンビニの自動ドアを入って行く。
金髪で細身のやつと短髪でピアスを耳に無数に付けたやつだ。
「おれは、ピアスをやるからリュウジは金髪だ。やれるな?」
「やってみます」
「こっちが早く片が付けば助けに行くから安心しろ」
「ありがとうございます」
2人がコンビニから出てきた。
田端さんは、空き缶をやつらが乗ってきた原付バイクに向かって投げた。
空き缶は見事に原付に命中!
アイズの2人の表情が怒りに満ち溢れた。
「おい!こっちだ」
田端さんが2人に向かって声を掛ける。
田端さんが空き缶を投げたのは、2人を防犯カメラがあるコンビニから遠ざけるためだ。
「ヤロウ!!」
そう叫びこちらに向かってくる。
「いくぞリュウジ」
「はい」
おれと田端さんはファイティングポーズをとって相手を待ち構えた。
「舐めたことしてくれんじゃねえか」
ピアスがドスの聞いた声で叫ぶ。
「おれらがアイズってのわかってやってんの?」
金髪も叫ぶ。
どうやら今のところ手には武器は持っていない。
「おいピアス野郎、おれが相手だ」
田端さんがピアスを挑発する。
「ぶっ殺してやる」
ピアスは凄むが田端さんは全く動じていない。
「じゃあ、おれの相手はお前か?」
そう言っておれの前に立つ金髪。
「そうだ。来いよ」
近くで見ると金髪もアイズのメンバーということはあって、ケンカ慣れしていそうだ。
おれは、ファイティングポーズを構えながら相手の様子を伺う。
金髪は勢い任せに右拳を振り回してきた。
全くフォームもなっていない大ぶりの力任せのパンチだ。
バックステップでかわす。
「コノオ!」
金髪はさらに拳を振り回す。
相手のパンチの軌道が手に取るように分かる。
おれは相手にパンチに合わせて右肩をピクっと動かし、カウンターのタイミングを図った。
金髪がしびれを切らし掴み掛ってくる。
それを冷静にサイドステップでかわし、左ジャブを2発金髪の顔面に入れた。
「ってえなあ!!」
パンチをもらって頭に血がのぼった金髪は力任せのパンチを放つ。
ここだ...!
思わす力が入る。
『力を抜け、カウンターはスピード、タイミングそして勇気だ』
ふいに兄の声が聞こえた。
その瞬間無意識にパンチが出た。
そのパンチは最短距離で金髪のアゴに命中した。
すると金髪は操り人形の糸が切れたように崩れ落ちた。
「お見事!」
田端さんはずっと前から見ていたのか、少し離れたところで立っていた。
もうすこし離れたところにはうずくまっているのはピアスだ。
ピアスは腹を抱えて吐しゃ物を撒き散らしている。
「おれのボディってやっぱ効いちゃうみたい」
と言ってはにかむ田端さん。
「ちょっと、緊張しました」
「デビュー戦にしちゃ上出来すぎるよ。憶えたてのカウンターで決めるなんてよ」
そう言いながら、田端さんはピアスと金髪のポケットからスマホを取り出した。
「騒がれる前に逃げるぞ」
そう言って田端さんは走り出す。
おれもその後を追った。
おれの右腕は今になって震えていた。




