第4話
浅倉さんと待ち合わせたのは午後9時
兄貴が発見された河川敷だ。
絶対に浅倉さんは何かを知っている。
そうでなければ、ここに呼び出すはずがない。
土手を降りて歩いていくと、浅倉さんが真っ暗な川に向かってなにかブツブツ言っていた。
「お待たせしました」
「こんな遅くに呼び出しちまって悪かったな」
「いえ、話ってのは?」
「ああ、もうわかっているとは思うがお前さんの兄貴のことだ」
「...はい」
「お前が感じている通り、兄貴はただの溺死で死んだわけじゃねえ」
「はい、そう思います」
「リュウジ...お前ここ最近いろいろ嗅ぎまわってるだろ?」
「...はい」
実際、兄の死後、兄に関わったであろう人物に聞き込みをしていた。
「何か手がかりは?」
「いえ、今のところは...」
「そうだろうな。誰もアイツのことなんてしゃべったりしないだろうな」
アイツとはいったいだれだろうか...?
浅倉は続けた。
「今はもう学校にはいないんだが、ボクシング部に田端って奴がいてな。こいつがかなりの悪ガキだったんだわ。ボクシング部に入ったのもケンカが強くなりたいっていう理由だったしな」
浅倉は川を見つめながら続けた。
「田端は、腕力はあるんだけど、脚の使い方がめっきりで、なかなか上達しなかった。おれも、一応田端にアドバイスはしてみたんだが、まあ聞く耳持たずって感じだった。でもリュウイチは、熱心に田端にボクシングを教えたんだ。『お前にはセンスがある!脚の使い方さえ分かればもっと強くなれるぞ!』ってな感じで毎日毎日」
「兄貴がそんなことを言ってたんですか...」
「ああ、お前の兄貴は面倒見も良かったんだな。そしたら、次第に田端のボクシングも上手くなってきたんだ。入部したての時はただ力任せにパンチを打っていた田端が、脚を使ってコンビネーションを打ったりして見違えたよ。お前の兄貴は田端によくこう言ってたな『もっと力を抜け!もっとだ!そんな力を入れてパンチを打ったら相手が死んじまうぞ!!ボクシングはスピードだ!!』ってな」
「オレにも同じようなこと言ってました」
「そうか、リュウイチのパンチは早かったなあ。調子がいいときのリュウイチのパンチは見えないくらいだったからな。田端もそのころにゃ、リュウイチのすごさに気づいたのかリュウイチさんリュウイチさんって言って慕ってたよ。それで、田端もだんだんボクシング部の他の奴らとも打ち解けてきたんだ」
「そうだったんですか...」
浅倉から聞く兄貴の話は新鮮だった。
「田端も自信がついてきたのか、大会に出てみたいとかプロになりたいとか言っていたよ」
「田端さんはそんなに強かったんですか?」
「ああ、リュウイチには到底及ばないけど、相手にパンチを当てるセンスは飛びぬけて上手かった。そういったセンスはなかなか鍛えられないもんなんだ。でも、ひとつ問題があった」
「問題...?」
「そう、田端は地元じゃ名の通った不良グループ『is』のメンバーだったんだ」
「おれも聞いたことあります。アイズってイスラム国の動画の模倣みたいなことを動画にアップしたりしていて、最近じゃメンバーも増えているって」
「そうなんだ。田端はそのアイズでは持ち前の腕っぷしからか特攻隊員として重宝されていたみたいで、メンバーから外れたいと言ってもリーダーの前田が首を縦には降らなかったんだ」
「前田...」
「おれも詳しくは知らないんだが、前田という男はかなり強いらしい。勝つためには手段を選ばない奴で何人人も病院送りにしている。それでも捕まらないのは、アイズのメンバーを犯人にしているんだろう。それで、リュウイチが動いたんだ」
「田端さんの為にグループを抜けさせてくれと頼みに行ったんですね」
「そうだ。それから先の詳しいことは田端に聞くといい」
そういって田端の電話番号と住所が書かれたメモを渡してくれた。
「わかりました。田端さんに会ってみます。でも、どうしてそんなこと教えてくれたんです?」
「おれも初めはリュウジに教えるつもりは全くなかった」
「じゃあ、なぜ」
「今日のサンドバッグ打ちだよ」
「えっ」
「お前のボクシングはまだまだ粗削りだがセンスがある。きっとリュウイチと同じ。もしかしたらもっと上の才能がある。最後に放った右ストレートは見事だった。あんなパンチはおれもボクシングやっていてもなかなか見れないほどのキレだった。あれを見たら、お前ならリュウイチの無念を晴らせるんじゃないかと思って教えようと思ったんだ」
「...ありがとうございます」
「でも、決して無茶はするな。何かあったらおれに相談しろ!わかったな?」
「わかりました。ほんとにありがとうございます」
そこで、浅倉とは別れた。
元ボクシングの田端
そしてアイズのリーダー前田
絶対に兄貴の死んだ原因を突き止めてやる。
兄貴にはいつもボクシングに力はいらない!と言われていたが
この時のおれの右こぶしは血が滲むほど力が入っていた。




