第3話
部室に入ると、兄リュウイチと仲が良かった浅倉が出迎えてくれた。
「よお!リュウジ!!久々だな」
浅倉は、おれに気を使わせないようになのか気さくに声を掛けてきた。
「お久しぶりです。浅倉さん」
「今日はどうしたんだ?」
「兄がお世話になったのでちょっとご挨拶に...」
「そうか...。ほんとリュウイチはいいやつだった」
「...はい」
一瞬、浅倉の目が泳いだ気がした。
「ボクシング部のエースがいなくなっちまって参ってんだ!リュウジ、ボクシング部に入ってくれよ〜」
おれは、兄貴がボクシングってこともあって、弟のおれが誰かに絡まれたりしたときのために、ちょっとそたボクシング技術を教えてくれていた。
「いえ、ちょっと心の整理がまだついてないんで...すいません」
「そうか〜。でも、サンドバッグは叩けるんだろ?ちょっと気晴らしに叩いていかないか」
否応なしに浅倉さんに肩を回されて、サンドバッグの方に連れていかれる。
「おい!ちょっとリュウジがサンドバッグ叩くから外してくれ」
サンドバッグを叩いていた部員が会釈しながらサンドバッグからはずれた。
「まあ、ちょっと叩いてみろよ!」
おれは、これまでサンドバッグなんて叩いたことはなかった。兄貴とボクシングの練習をするときに兄貴が腕にはめていたミットになら何度もパンチを打ち込んだことはあるのだが...。
しかし、ここで引き下がるわけにもいかないので、浅倉さんから練習用のグローブを受け取り両手にはめた。
このサンドバッグは兄貴も毎日叩いていたのかと思うと不意に目頭に熱くなるような気配があったので、おれはそれを浅倉さんに見られないようにするために、サンドバッグにグローブを叩きこんだ。
部室にばすんっという音が響き渡る。
「なかなかいい左だ。続けてみろよ」
おれは、サンドバッグを兄貴との練習で打ったようにコンビネーションを交えて叩いた。
左 左 右 左 左 右
だんだん思い出してきた。確か、腕だけじゃなくて、脚も使うんだったな。
兄貴がよく言っていた。
左を打つときに左足も突き出す。力はいらない。大事なのはスピードだ。
兄貴が練習していたときによく言っていた言葉だ。
始めは、周囲の目もあって恥ずかしがりながらだったが、次第に周囲の目が気にならなくなってきた。
左ボディ 左フック 右ストレート
サンドバッグの音がばすんという音からパンパンという乾いた音になってきたのが分かる。
力はいらない。大事なのはスピードだ。スピードで相手の意識を断ち切るんだ。
頭の中で何度も兄貴が言っていた言葉がよみがえる。
左 左 右
右ストレートを放つとこれまでなかったほどの破裂音が鳴り響いた。
「それまでだ。リュウジ。やっぱり兄弟だな、ものすげえセンスだ」
はあはあ
時間にして3分も経っていないはずだが、息が上がってしまった。
「リュウジの心の整理が来たらいつでもボクシング部に来いよ。まあ、しばらくは、サンドバッグを叩きに来るだけでもいいからさ」
「はあ、はあ、はい。ありがとうございます」
おれは、肩で息をしながら、部室を出ようとしたとき、朝倉に声を掛けられた。
「リュウジ!この後ちょっといいか?」
おれは朝倉に頷き、あとで落ち合うことにした。
浅倉さんはきっと何かを知っている。




