第二十話 同室のユアン
合格発表の日、学院の掲示板には三枚の紙が貼られた。
一枚目は一般合格者。
二枚目は給費生。
三枚目は入学手続きの説明だ。
俺は二枚目から見た。
「順番が違うんじゃないか」
隣で父さんが言う。
「一般で受かっても、給費枠に入れなかったら相談が必要だから」
「受かったか確認してから心配しろ」
上から名前を追う。
給費生は十二人。
四番目。
レオン・アステル。
三回読み直した。
「あった」
「そうか」
父さんの返事は、工房で交換部品が見つかった時と同じくらい落ち着いていた。
「給費生で、合格した」
「見れば分かる」
「もう少し驚かない?」
「受かるつもりで来たんだろ」
そう言いながら、父さんは俺の頭へ大きな手を置いた。
「よくやった」
その一言で、試験が終わったのだと実感した。
◇
一般合格者の紙には、リリア・フェルナードとアルト・ヴァレンの名前もあった。
「君も受かったのね」
声をかけられ、振り向く。
リリアが母親らしい女性と立っていた。
「給費生、おめでとう」
「ありがとう。リリアも」
「入学後に、器と水の話を確かめましょう」
試験中の会話を覚えていたらしい。
「もちろん」
「何の話だ?」
アルトも来た。
後ろには使用人が三人いる。合格を確信していたのか、もう学院指定の荷箱まで用意していた。
「小さい魔法の話」
「また小さい話か」
「あなたは制御試験でリリアに負けていたけど」
俺が言うと、アルトの顔が固まった。
「総合順位では負けていない」
「順位が出たの?」
「ヴァレン家なら分かる」
本当かもしれないし、強がりかもしれない。
リリアがため息をついた。
「入学前から競争を始めないで」
「競争はもう始まっている」
アルトは俺を見る。
「七十三。次は実戦で決める」
「レオンだ」
名前を覚えるまで、何回訂正すればいいのだろう。
◇
入学まで一か月あったため、俺と父さんはいったん村へ戻った。
母さんは合格通知を読んで泣き、ミアは「毎週帰る」という条件が守れないことを思い出して怒った。
村で過ごせる二週間は、旅の疲れを取り、工房を手伝い、寮へ持っていく荷物を作るだけで過ぎた。
そして今度は、父さんではなく王都行きの商隊と一緒に村を出た。
学院の寮は、校舎の北側にある四階建ての石造りだった。
受付で鍵を受け取り、三階の部屋へ向かう。
三一七号室。
扉を開けると、先客が床に座っていた。
茶色い髪の少年が、開いた鞄を前に途方に暮れている。
「どうしたの?」
「荷ほどきをしたら、荷造り前より入らなくなった」
「出したんだから、入らないのは普通じゃない?」
「でもこの箱、最初は鞄に入ってたんだ」
ベッドの上には衣服、菓子、木剣、教科書、謎の鍋まで広がっている。
「全部出した?」
「順番を覚えようと思って」
「覚える前に出したの?」
「そうとも言う」
少年は立ち上がり、手を差し出した。
「ユアン・ローレン。たぶん君の同室。よろしく」
「レオン・アステル。よろしく」
「荷造り、得意?」
「普通」
「じゃあ俺より得意だ」
出会って一分で手伝うことになった。
重いものを下へ。四角いものから先へ。壊れやすいものは衣服で包む。使う順番も考えて、すぐ必要なものは上にする。
「すごいな。鞄の魔法使い?」
「整理しただけ」
「同じだよ。俺には魔法に見える」
鍋以外は収まった。
鍋はユアンの頭に載せた。
「これは?」
「装備品」
「なるほど」
納得するな。
ユアンは鍋をかぶったまま、俺の荷物を見る。
「君の鞄、小さくない?」
「必要なものは入ってる」
「故郷のお菓子は?」
「ない」
「人生に必要だよ」
彼は自分の袋から焼き菓子を一つ渡してきた。
断る理由もないので受け取る。
「ありがとう」
「どういたしまして。ところでレオン、何で学院に来たんだ?」
「世界一の魔法修理師になるため」
「魔法修理師?」
「壊れた魔法を直す人」
ユアンは笑わなかった。
「じゃあ、ちょうどいい」
机の上から、ひびの入った目覚まし用魔導具を持ってくる。
「これ、今朝から鳴らないんだ。直せる?」
「入学初日から依頼?」
「友達割引はある?」
「知り合って五分だよ」
「同室なら、もう友達だろ」
距離の詰め方が早い。
でも、不思議と嫌ではなかった。
俺は魔導具を受け取り、外装のひびを確かめる。
「まず症状を聞く。落とした?」
「落としてない。ベッドから床へ移動しただけ」
「それを落としたって言うんだ」
学院生活の最初の修理は、思ったより身近なところから始まりそうだった。




