第十八話 小さすぎる灯火
二日目の制御実技には、三つの課題があった。
一つ目。指定された大きさの灯火を作る。
二つ目。その火を十秒間維持する。
三つ目。合図と同時に消す。
「威力ではなく、正確さと停止までを評価します」
試験官が説明する。
訓練場には、胸の高さの燭台が十台並んでいた。先端には透明な筒があり、内側に小、中、大の三本の線が刻まれている。
受験生は、くじで指定された線と同じ大きさの火を作る。
俺の指定は、小だった。
「運がいいな」
隣の列にいたアルトが言う。
彼の指定は大。本人にとっては、どれでも同じなのだろう。
「小さい火の方が簡単だと思う?」
「使う魔力が少ない」
「それはそうだね」
簡単かどうかは別だ。
◇
アルトの順番が先だった。
「灯火よ、我が魔力に応じて燃え上がれ」
炎が筒いっぱいに膨らむ。
大の線を越えかけたが、ぎりぎりで収まった。十秒後、停止の合図と同時に消える。
周囲から歓声が上がった。
試験官は記録板へ何かを書き込む。
次はリリア。
指定は中。
生まれた炎は、最初から線の中央へぴたりと合った。揺れも少なく、十秒後には跡形もなく消える。
派手さはない。
でも、アルトより正確だ。
「受験番号四十二番、レオン・アステル」
俺は燭台の前へ立った。
透明な筒の小の線は、親指の幅ほどしかない。
標準の灯火をそのまま使えば、大きすぎる。
mana = 10
flame_size = 3
duration = 10
練習した値へ変える。
mana = 4
flame_size = 1
duration = 10
必要な現象まで削らない。
停止処理にも触れない。
編集を確定し、息を吐く。
「灯火よ」
小さな炎が生まれた。
線の内側へ収まっている。
一秒。
二秒。
火はほとんど揺れない。
七秒目、横から風が吹いた。
別の受験生の風魔法が流れてきたらしい。炎が線の端へ傾く。
出力を増やせば耐えられる。
けれど大きさも変わる。
俺は火そのものではなく、燭台の陰へ流れを寄せた。形を保つための小さな調整。新しくコードを書き換える時間はない。二年間で覚えた魔力操作だけで支える。
九秒。
十秒。
「停止」
斧を置く。
火が消えた。
「終了です」
息を吐くと、背中に汗をかいていた。
◇
「どうして、あれほど小さくできたの?」
次の魔導具試験を待つ廊下で、リリアに聞かれた。
「魔力を減らしたから」
「それだけでは消えるでしょう。私も幼い頃に試したけれど、標準灯火は一定以下だと形を保てなかった」
よく見ている。
「流す量だけじゃなく、火の大きさも小さくした」
「二つは同じものではないの?」
「別だと思う。水の量と、入れる器の大きさみたいなものかな」
コードとは言えない。
ニナへ教えた時のように、相手が使える言葉へ変える。
「大きな器を少しの水で満たそうとするから、標準灯火は途中で崩れる。最初から器を小さくすれば、少ない水でも形になる」
リリアは考え込み、自分の指先を見た。
「術式の規模と、供給する魔力を別々に調整するということ?」
「たぶん」
「たぶん?」
「俺の感覚を、ほかの人が使える説明にするのはまだ練習中なんだ」
彼女は笑わなかった。
「では、入学できたら一緒に確かめましょう」
「もう合格したつもり?」
「あなたもでしょう?」
真顔で返される。
自信があるのか、努力することを決めているだけなのか。
たぶん両方だ。
そこへアルトが来た。
「小さな火を出して、何がすごい」
「小を指定されたから、小を出したのよ」
リリアが答える。
「魔物は小さな火では倒せない」
「試験用の燭台も、大きな火では壊れる」
俺が言うと、アルトは黙った。
昨日の測定器を壊すなという注意を思い出したらしい。
「次は魔導具だ。そこでも結果を出せるのか」
「現物を見てから答える」
「またそれか」
アルトは呆れたように先へ歩いていく。
リリアが小声で聞いた。
「いつも、ああなの?」
「昨日会ったばかりだから知らない」
「私もよ」
二人で顔を見合わせたところで、試験官が扉を開けた。
「受験番号四十一番から五十番。魔導具基礎試験を始めます」
机の上には、十台の壊れた魔導灯が並んでいた。
ようやく、俺の得意科目だ。




