第十四話 少ない魔力の受験対策
「最大魔力量、七十二」
測定水晶に浮かんだ数字を、ハンナ先生が読み上げた。
十二歳の平均は八十前後。学院を受ける子なら、百を超えていても珍しくないらしい。
「昨日は七十四でした」
「二の差を気にする前に、三回目を測りなさい」
息を整え、もう一度水晶へ手を置く。
「七十三」
平均より少ないという事実は変わらなかった。
「次、瞬間出力」
一度にどれだけ強く魔力を押し出せるか。結果は八十一。ほぼ平均。
「最後、制御精度」
細い針のような光を、水晶の中心にある小さな輪へ通す。輪へ触れないよう、一定の太さを保つ。
俺には流す魔力が数値で見える。
mana_output = 4
direction = center
けれど試験で不自然な編集は使わないと決めていた。学院が測りたいのは、普段の俺が扱える力だ。
呼吸を止めず、肩の力を抜く。二年間で体に覚え込ませた手順を繰り返す。
光は輪の中央を抜けた。
「九十七」
「昨日も九十七でした」
「そこは気にしていいわ」
先生が記録表をこちらへ向ける。
「最大量で負けても、制御で取り返せる。問題は、あなたがそれを信じ切れていないこと」
「信じてます」
「なら、朝から最大量を六回も測らない」
ばれていた。
◇
受験対策は、魔法より筆記の方が厄介だった。
火属性術式の安全距離。魔石の等級。七柱信仰と王国史。魔物に遭遇した時の合図。
前世の知識で解ける問題はほとんどない。
特に歴史の年号は、コードのような規則がない。覚えるしかなかった。
「お兄ちゃん、七柱の四番目は?」
「大地を支えるグラン」
「はずれ。生命を育てるフィナ」
「それは地方によって順番が違う」
「問題集にはフィナって書いてある」
ミアが得意そうに丸をつける。
採点役を頼んだのは失敗だったかもしれない。
「次。王都の共同給湯を管理するのは?」
「王都設備局」
「正解。つまんない」
「間違えるのを期待するな」
工房では父さんが魔導具の問題を出した。
術式板、魔石、導線を一つずつ隠し、症状だけを聞いて故障箇所の候補を挙げる。
「灯りが弱い。魔石を替えても変わらない」
「導線の劣化、術式板の出力低下、光晶の汚れ」
「一つに決めろ」
「現物を見ないと決められない」
「よし」
また、その答えだけは正解らしい。
◇
試験まで十日になった夜、俺は面接の練習で詰まった。
「学院で何を学びたいですか」
母さんが試験官役として聞く。
「高度な魔法術式と、魔導具の構造です」
「なぜ?」
「世界一の魔法修理師になるためです」
「魔法修理師とは、何ですか?」
「魔法を修理する人です」
「そのままね」
母さんが困ったように笑った。
夢は俺の中では明確だ。
でも、存在しない職業を知らない人へ説明する言葉が足りない。
ニナへ数字を見せられなかった時と同じだった。
俺は工房を見回した。
父さんが直した灯火具。母さんが使う湯沸かし器。ミアの魔導灯。村の揚水器。パン屋の窯。
「魔法は、壊れたら買い替えるか、使うのを諦めるものだと思われています」
母さんへ向き直る。
「でも原因を調べれば、術式を全部捨てなくても直せることがある。魔力を無駄にせず、安全に長く使える形にもできる。俺は、そのための知識と方法を作りたいです」
「誰のために?」
「大きな魔力を持っていない人と、高価な魔導具を簡単に買い替えられない人のために」
言葉にすると、胸の奥へ収まった。
世界一とは、誰より派手な魔法を撃つことではない。
壊れたものの前で困っている人に、もう一度使えると言えることだ。
父さんが作業の手を止めた。
「それを言えばいい」
「長すぎない?」
「格好つけて短くするよりましだ」
ミアが手を挙げる。
「最後に『壊れてるなら、直せばいい』って言えば?」
「面接で?」
「格好いいよ」
少し考えて、やめておくことにした。
その言葉は、試験官へ格好をつけるためのものではない。
いざという時、自分が立ち止まらないための言葉だ。
翌朝から、俺は最大魔力量を測る回数を一回に減らした。
七十三は急には増えない。
なら、残りの時間は変えられるものに使う。




