第054話:輝く氷彫刻と、お祭りの夜
まばゆい純白の光が天へと収束し、視界が晴れ渡ったその時、広場には静寂が満ちていた。
中央の台座には、暴走を止めて完璧な姿勢で着地した、巨大な氷のフェンリルの彫刻が鎮座していた。
だが、それは元の姿とは全く異なっていた。アキラの『クリーンアップ』によって魔力構造が最適化された氷の体は、太陽の光を通すことで虹色のプリズムを周囲に撒き散らし、広場全体を幻想的な光の海へと変えていたのだ。
「トコトコトコ……」
ユキネの足元には、ちびゴーレム二匹が大人しく戻ってきていた。
彼らの体もまた、優しく温かみのある淡い光を放ちながら、ユキネを見上げて嬉しそうに手を振っている。バグが修正され、悪戯っ子から愛らしい「お手伝いマスコット」へと生まれ変わったのだ。
「嘘……お師様のフェンリルが、壊れずに、こんなに綺麗になるなんて……! それに、この子たちも暴走してない……!」
ユキネが感動のあまり口元を押さえ、その場にへたり込んだ。
「おおお! なんという美しさだ!」
「氷の彫刻が、まるで生きているかのように輝いているぞ!」
静寂の後、広場を埋め尽くしていた観客や警備兵たちから、地鳴りのような歓声と拍手が沸き起こった。
これほど美しい氷彫刻は、帝国の歴史上でも見たことがない。主催者やギルド長までもが、奇跡の光景に涙を流して拍手を送っていた。
「アキラさん……! 本当に、本当にありがとうございました! お祭りも中止にならずに済みました!」
ユキネは立ち上がり、俺の手を両手でしっかりと握りしめて、大粒の涙を流して感謝してくれた。
「俺はきっかけを作っただけだよ。この魔石を作ったのはユキネだし、フェンリルを彫ったのは君の師匠だ。お祭りを、楽しんでくれ」
「はい! 私、もっともっと勉強して、いつかアキラさんたちを驚かせるような凄い彫刻家になります!」
そう言って、ユキネは満面の笑みを咲かせた。
その日の夜。
氷彫刻祭りは正式に開幕し、首都クリスタリアは色とりどりにライトアップされた幻想的な氷の街へと変貌していた。
俺たちは、リビングの大きな窓からその絶景を眺められる特等席にコテージを構え、いつものように『コタツ』を展開していた。
「お待たせいたしました。今夜のごちそう、ポテトグラタンです」
セシリアがオーブンから焼き上がったばかりのグラタン皿をコタツの天板へ並べる。
こんがりときつね色に焼けたチーズの下で、濃厚なホワイトソースがグツグツと音を立てていた。
「わあぁ……! チーズがトロトロで、すごく良い匂いです!」
「はふはふ! アチチッ……でも、クリーミーでジャガイモがホクホクで、すっごく美味しいです!」
エルナとリアが、スプーンでハフハフと言いながら口に運び、幸せそうに頬を抑える。
「コタツで温まりながら、熱々のグラタンを食べて、窓の外には美しい氷のライトアップ……本当に、最高の贅沢だね」
「うむ、サリアの言う通りだな。俺たちのスローライフ旅にふさわしい夜だ」
俺もスプーンでフーフーと冷ましながらグラタンを食べる。濃厚なチーズとホワイトソースのコクが、旅の疲れを一瞬で消し去ってくれた。
「アキラ様、次はどこへ向かいましょうか?」
フィリアがコタツの中で俺の足に自分の足をそっと寄せながら、嬉しそうに微笑みかけてくる。
「そうだな。結晶帝国も満喫したし、次はもう少し南へ戻って、あの気になっていた別のエリアへ向かってみるか」
「はい。アキラ様と一緒なら、どこへでもついていきます」
翌朝。
ユキネと、お祭りのマスコットとして大人気になったちびゴーレムたちに見送られながら、俺たちは再びのんびりと、お気楽な足取りで結晶帝国の首都を後にした。
ダイヤモンドダストが朝日にきらめく、澄んだ青空の下を、俺たちの旅はどこまでも続いていく。




