第3話 修羅場ピンク✕ムラサキ
朝――篠原家の前。
睨み合う二人の少女。
「恒一くん、これはどういうこと? このピンク頭はなんなの?」
「ちょっと! 待ちなさいよ! あなたの紫もどうかと思うわよ!」
(いやまて。ピンクも紫も、どっちも地雷系だ)
「恒一!あんたはどうなの?」
「 恒一くんはどっちの色が好きなの? この女にはっきり言ってやって!」
(ピンクと紫を選べってか? まてまて)
「ん……黒」
「あんた、ふざけてるの!」
(あっ、同時に言った。)
(しかもトーンまで同じ)
(……俺、今日生きて帰れるか?)
「まて、落ち着け。ピンクでも紫でもいい。このままだと遅刻だ」
「いいわ。後でゆっくり聞かせてね、恒一くん」
「そうね」
(こわぁ!)
(それより二日連続はさすがにまずいだろ……てか、これは遅刻確定か?)
学校に向かう途中。
僕の前には、カラフルな頭が二つ並んでいる。
「ピンクと紫……うん、地雷は踏んだら爆発だな……」
(ショートカットでピンクが澪さん)
(紫ロングが玲奈)
「……2人とも、黙ってれば普通に美人なのに。どうして口を開くと、こうなるんだ。」
(……うん、考えるのはやめよう)
(それより!)
「お前らのせいで、結局走ることになっただろ!」
「私のせいにしないでよ! この紫が!」
「はぁ? それはこっちのセリフよ、ピンク!」
(もう、知らん……)
結局チャイムは鳴り、遅刻は確定。
廊下を走って教室に着く。
俺とピンク……違う、澪さんは同じクラス。
でも紫――玲奈は一年B組で教室は別だ。
そして待ち受けていたのは、担任だった。
「いい度胸してるわね。恒一くんと……ピン……澪さん」
(担任も同じ苗字で呼びにくいから、名前に変えたな)
「早く席に着きなさい!」
「はい……」
「はい……分かりました」
こうして、僕の学校二日目が始まった。
その日の授業は、特に問題なかった。
ただし、横の席を除けば。
そして午前中の授業が終わり、昼休み。
(腹減ったな……やっと昼ご飯だ)
弁当箱を開けた、その時。
クラスメイトの女子。
「あれ? 篠原くんと澪さん、同じお弁当じゃない?」
(来たか……)
他の女子も…
「あっ、ほんとだ!」
「ねぇ、篠原くん、どうして?」
「二人、付き合ってるの?」
「登校2日で早くない」
その女子は、気づいていない。
地雷を踏んだことに。
(君、背後を見るんだ……!)
「玲奈、どうした?」
「一緒にお昼しようかと思ったんだけど……隣の席、ピンクなのね」
「しかも、お弁当が一緒……」
これは、まてまて。
「こんなピンクと同じお弁当じゃ嫌でしょ? 叔母さんに言ってるわけじゃないのよ」
(なんで……澪さんが睨んでるんだ?)
玲奈は、さらに続ける。
「叔母さんのご飯が美味しいのは知ってるわ。私も何度も食べてるから」
「でも、良くないわね…」
(玲奈も澪さんを睨んでる)
確かにそうだ。
玲奈とは幼稚園の頃からの幼馴染で、家も隣。
親同士も仲が良く、昔から一緒にご飯を食べてきた。
「恒一くん。明日からは私がお弁当作ってあげる!」
「叔母さんには、私から言っておくわ」
(どうする……? 断れば地雷で爆発だ)
クラスメイトの声が聞こえる。
「なぁ、あれどっちが初号機だ?」
「まず頭見ろよ。紫だろ」
「やっぱそうだよな」
「なら、ピンクは2号機か」
「じゃあ、間にいるアイツは何号機だ?」
「……5号機じゃね?」
「あー、試作で一発で壊れるやつ」
(お前ら聞こえるぞ…まあ、良い…それより……)
(……よし、ここは最善の策で)
「分かった。お願いするよ」
「うん! 楽しみにしててね♪」
(視線を横に逸らすと、澪さんが睨んでいる……気がした……)
(気のせい、だよな?)
昼休みは、そのまま友達作りの時間へ。
でも陰キャの僕には、なかなかハードルが高い。
挨拶を交わし、グループに分かれていく中――
(……ん? 澪さん、机から動かないな)
「気にしても……しょうがないか……」
午後の授業を終え、放課後。
明日は部活見学だ。
(どうしようかな……運動は得意じゃないし)
悩みつつも、今日の授業は無事終了。
「さて、帰るか」
(……澪さん、先に帰ったか)
(まあ、関係ない……よな)
ガラッ。
教室の扉が開く。
「恒一くん! 一緒に帰ろう!」
玲奈だった。
「ああ、いいぞ」
二人で校門を抜け、今日2日目の学校の話しをしながら家路を歩く。
その途中、玲奈が。
「恒一くん、今日、家に行っていいよね?」
「いいぞ」
「着替えたら行くね」
「ああ」
(澪さん、いるけど大丈夫だろ)
帰宅すると、母さんの声。
「恒一、お帰り。澪ちゃん、もう帰ってるわよ」
「そうか」
(玲奈が来るから、早く着替えないと)
(澪さんも部屋かな……)
ピンポーン。
「あ、玲奈が来たな」
「恒一! 玲奈ちゃん来たわよ!」
「分かってるって!」
急いで階段を降りる。
「ごめん、待たせた」
「いいのよ、別に。ふふっ」
「先に部屋行ってて。飲み物持ってくから」
「分かった」
玲奈が部屋へ向かった直後――
2階の廊下が騒がしい。
(まさか…)
目の前の光景に呆然とする。
「何、家に上がってるのよ、紫!」
「はぁ? こっちは幼稚園の頃からの幼馴染よ! この家には何度も来てるのよ、ピンク!」
(ああ……遅かったか……)
「二人とも、そこまでだ……」
「うるさい!」
「あんたは!黙って!」
「まて、喧嘩はやめろ…だから何度言わせるんだよ!」
何とか、2人を引き離す。
すると、2人が同時に睨んでくる。
「えっ!?俺!?」
(違うだろ?)
二人に同時に睨まれた瞬間、胸の奥が、ひどく冷えた。
怒鳴られているわけじゃない。
それなのに、どこにも逃げ場がないと、はっきり分かった。
「……恒一くん」
「……あんた」
名前を呼ばれただけで、
体が強張る。
――ああ。
もう、どっちにも曖昧なままではいられない。
そう思った時には、選択肢は、もう残っていなかかった……。




