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お金持ちと力持ち  作者: T20
お金持ちと力持ち {ウィザード王国編}
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三話

 ーーそれから時間は経(た)ち、ゼイア達は予定していた会議を済(す)ませた。その頃(ころ)には時刻も正午を過ぎ、ゼイアは次の仕事へ向けて帰りの馬車に戻って来ていた。

 ラキヤタは脚の無いゼイアの為(ため)、馬車内へ彼を乗せる手伝いをこなす。そして、その後に馬車の御者台(ぎょしゃだい)で出発の待機(たいき)をしていた運転手の元へ向かい、次の行き先を告(つ)げる。

「それでは、ゼイア様の邸宅(ていたく)まで移動を宜(よろ)しくお願いします」

「……了解しました」

 それは、ラキヤタにとって慣(な)れた日常業務(にちじょうぎょうむ)の一幕(ひとまく)であった。

 ――だからこそ、事はその時に起きた。

 なんと、ラキヤタが行き先を告(つ)げた次の瞬間(しゅんかん)、御者は手綱(たずな)をしならせ、ゼイアだけを乗せた馬車を急発進(きゅうはっしん)させたのである。

 眼前(がんぜん)で走り出した馬車に轢(ひ)かれぬ様、ラキヤタは身を翻(ひるがえ)す。当然、自分を乗せずに馬車を走らせる予定など無い、瞬間的(しゅんかんてき)に状況を理解したラキヤタが声をあげてしまう。

「ーーしまった! 誘拐(ゆうかい)か!!」

 ラキヤタは鬼気迫(ききせま)る表情で馬車を追う、しかし、馬車は無情(むじょう)にも距離を突き離す。

(いつから仕込(しこ)まれていた! ダメだ、馬がいる!!)

 辺りの市民が騒動(そうどう)を目撃してざわめく中、ラキヤタは大粒(おおつぶ)の汗を蓄(たくわ)えて辺りを見渡す。しかし、追跡(ついせき)の役に立ちそうな物は見当たらない。

 ――するとそんな時、走る速度を緩(ゆる)めたラキヤタを追い抜かす巨影(きょえい)が現れた。

「ラキヤタ、お主は国騎士を呼べ!! ゼイアは我輩に任せろ!!」

「あ、貴女(あなた)は“アスタ”!?」

 ラキヤタを追い抜かし、代わりに馬車の追跡を始めたのはアスタであった。

 馬車並ではないにしろ、瞬(またた)く間に彼女の背は遠くなって行く。明らかに自分より脚の速い彼女を見つめ、ラキヤタは絶望的な状況下で彼女を信じる他なかった……


 ーーその一方、走行中の馬車内では、激しく揺(ゆ)れる座席の上で驚くゼイアの姿があった。

「と、止まれ!! いや、無理か! くそっ!」

 狼狽(ろうばい)する自分を律(りっ)し、状況を整理(せいり)するゼイア。車窓に映る市場は離れ、ラキヤタの姿は遠(とお)に見えなくなった。

 正直、今の彼に抵抗の余地(よち)はないだろう。

「よし、速度を緩めろ! 車内に移る!」

 ゼイアが無力を痛感(つうかん)していた時、どこからともなく声が聞こえて来た。すると、馬車は言葉通りに速度が緩まり、同時に車窓へ黒尽(くろづ)くめの男が映り込んだ。

「ーーよぉ、会長、相席いいかい?」

 走行中の車内を覗(のぞ)く男が扉を開けて中へ侵入(しんにゅう)、ゼイアの向かい席を陣取(じんど)り、すぐに懐(ふところ)から単発式拳銃(ハンドガン)を取り出して構(かま)える。

「へぇ、落ち着いているな……お前、今誘拐(ゆうかい)されたんだぜ?」

「やってくれたな、どこからが計画だ」

「まぁ、急(せ)くな、ゼイア。おい、馬車の速度を上げろ!」

 乗り込んで来た男の指示(しじ)で馬車が速くなる。どうやら、御者(ぎょしゃ)はこの男の仲間の様だ。

「――さ、何か聞きたいか? 会長さん」

「少なくとも、私の暗殺が目的ではない様だな」

「何故(なぜ)そう言える? 拳銃は本物だ、試(ため)してみるか」

「一々(いちいち)、馬車ごと誘拐する暗殺者がいるか。気になるのは、私のスケジュールの出所(でどころ)だな」

「こっちは、銃を突き付けられていながら喋(しゃべ)れるお前の方が気になるぜ」

「詰(つ)まる所、私の情報をお前達に与えた主犯(クライアント)がいるな?」

「ご名答(めいとう)、確かに俺達は{雇(やと)われ}だ……ってことは、これ以上の情報も手に入らない」

 誘拐犯は肩をすくめて首を振る。まるで、状況を探るゼイアを小馬鹿(こばか)にする様な態度だった。

 ――しかし、次にゼイアが放った言葉は、そんな誘拐犯の予想を裏切ることとなった。

「情報提供感謝《じょうほうていきょうかんしゃ》する。お前達の計画と、大方(おおかた)の目的は理解した」

「な、何!? 馬鹿な、そんなふざけた話があるか!」

「実行役のキミにはトンチンカンだろうな」

「ぐっ! お前、今どんな状況か解っているのか!」

 ゼイアの意味深(いみしん)な発言に対し、憤(いきどお)りを感じた誘拐犯が拳銃をチラつかせる。

 だが、ゼイアはあろうことか背もたれに身を預(あず)け、特大のため息を吐(つ)いてみせる。

「……オマエ、頭おかしいぞ。気でもふれたか?」

「好きに捉(とら)えろ。ただ、人は考えることを辞めた時、死が訪(おとず)れるそうだ」

 一歩も引く気のないゼイアを見て、男の銃を握る腕に汗が滲(にじ)む。すると、車内の不穏(ふおん)な雰囲気(ふんいき)を察(さっ)し、御者の男が仲間の制止(せいし)を促(うなが)す。

「おい、ゼイアを殺すんじゃねぇぞ!? 落ち着けよ!」

(ーーやはり、私の安否(あんぴ)が報酬に繋(つな)がっている様だな。恐らく、主犯も“ヤツ”だろう)

 張(は)り詰(つ)める空気の中、馬車はゼイアの見知らぬ土地へと入って行く。辺りには視界を遮(さえぎ)る程に伸(の)びた雑草が生えており、人通りの少なさを教えてくれていた……


 馬車が停車すると、ゼイアは誘拐犯達に担(かつ)がれて車外(しゃがい)へ降ろされる。そして、彼らは荒(あ)れた道を掻(か)き分けつつ、その先に現れた廃(はい)工場の中へと入って行く。

 廃工場内は最近補修(ほしゅう)された部分も見え、悪党(あくとう)の取引場として度々利用(たびたびりよう)されているのが分かる。

 そして、ゼイアは複数(ふくすう)の誘拐犯達に見張(みは)られながら椅子(いす)へ座らせられた。

「ふぅ、ひと仕事だったぜぇ」

「……お前達は、私の身柄(みがら)を受け渡す相手を待っているのか?」

「あ? やけに喋るな、お前。状況がわからないのか」

「忠告(ちゅうこく)しておきたいんだ。仕事内容が受け渡しなら、取引相手(クライアント)は来ないとな……」

 ーーゼイアの発言にその場の誘拐犯達が興味(きょうみ)を持ち始める。

 それは決して良い意味ではないが、話を聞く体勢にはなったと言える。彼の過激(かげき)な発言は、注目を集める為(ため)でもあったのだ。

「オイ、変な命乞(いのちご)いは寿命(じゅみょう)を縮(ちぢ)めるだけだぞ、ゼイア」

「私が持ち掛けたいのは取引だ」

「まさか、金で今から見逃せとでも言う気か?」

「もっと重要だ――命が惜(お)しければ私に味方しろ」

「ははは! コイツ、脅迫(きょうはく)して来やがったぞ」

「私は、キミ達の取引相手に心当(こころあ)たりがある。暇(ひま)なら、話ぐらい聞いても良いだろう?」

「へっ、いいぜ、聞いてやるよ。ホラ、言ってみろ」

「今からそう遠くない未来、国騎士がここを取り囲む。そして、突入してくるだろう」

 ――国騎士とは、{国家治安(こっかちあん)維持特殊騎士団(いじとくしゅきしだん)}の略称(りゃくしょう)であり、ウィザード王国が発足(ほっそく)した武装警察組織(ぶそうけいさつそしき)である。

 彼らは、治安を維持する為に限定的な権力(けんりょく)を有(ゆう)しており、その仕事は国の法律に基(もと)づき犯罪者を捕縛(ほばく)、最悪の場合、始末(しまつ)することにある。

「バカ言うな、こんな町外れで、どうやって国騎士が俺達を見つけるんだ?」

「それは……説明するより、実物(じつぶつ)を見た方が早いかもな」

 ーーゼイアが不穏な発言をした次の瞬間、慌(あわ)てる男が部屋へ飛び込んで来た。

 脂汗(あぶらあせ)を垂(たら)らして狼狽(ろうばい)する彼は、廃工場の外で見張(みは)りを担当(たんとう)していた誘拐犯達の仲間である。

「く、国騎士だ!! ここが国騎士に囲(かこ)まれているぞ!?」

「何だと! 誘拐組ぃ、テメェらツケられたな!?」

 見張り係の報告で、忽(たちま)ち仲違(なかたが)いを始める誘拐犯達、国騎士に知られたとあっては彼らとて気が気じゃないだろう。

 ーーしかし、そんな状況下でゼイアは言葉を続ける。

「落ち着け、誘拐組は失敗などしていない、私が予期(よき)した通りになっただけだ」

「テ、テメェ……いつの間に国騎士を呼びやがった!!」

 男は拳銃の銃口をゼイアへ向け、険(けわ)しい表情で凄(すご)む。だが、状況的に追(お)い詰(つ)められているのは誘拐犯達だろう。

 ――そして、それは“ゼイアも同じ”であった。

「私も呼んでいない」

「はぁ!? なら、どうやって国騎士がここに!」

「国騎士を呼んだのが、私でもキミらでもないのなら……あと呼べる人物は、ここを指定した取引相手ぐらいだろう」

「何だと!? じゃ、じゃあ俺達は……」

「分かりやすく言うのなら、捨て駒(すてごま)だ」

 ゼイアから飛び出した言葉に、誘拐犯達が騒(ざわ)めき焦(あせ)りを見せ始める。

「どうだ? 少しは、私の話を信じる気になったか」

 誘拐犯達は互いに顔を見合うーーそして、冷や汗を垂(た)らしながらゼイアへ振り返った。


「い、いいだろう……要件(ようけん)を話せ、ゼイア」

「よし。では先ず、クライアントが国騎士をけしかけた理由だが……それは、私の暗殺でいいだろう」

「テメェで攫(さら)っておいて、結局テメェで殺すのか!?」

「ああ、その方が都合いいからな」

「都合? 何で、都合なんか気にする……」

「キミ達を雇ったのが{ダオン・アドレメナク}、つまり、私の実弟(じってい)だからだ」

「ーーひょっとして跡目争(あとめあらそ)いか?」

「その通り。弟は、私がアドレグループの会長に選ばれた事を快(こころよ)く思っていない。だから私を始末し、グループの跡目を継ぐのが最終目的だろう」

「でも、なんでこんな回りくどいことを……」

「ただ暗殺しただけでは、自分に有利過(ゆうりす)ぎてしまうんだ」

 正当に選ばれた現会長ゼイアが変死(へんし)し、選ばれなかった弟のダオンが会長を継ぐ。

 ――そんな都合の良い展開(てんかい)、誰がどう見ても謀殺(ぼうさつ)である。

 そして、不自然な交代はグループ内の重役達に不信感(ふしんかん)を抱(いだ)かせ、内部分裂(ないぶぶんれつ)へ繋(つな)がる。それでは暗殺失敗と同義(どうぎ)だろう。

「そこで役に立つのが、今回のシナリオという訳だ」

「“シナリオ”だと?」

 ーー誘拐犯達はある日、ゼイアを誘拐して身代金(みのしろきん)を要求(ようきゅう)する。対して弟ダオンは、兄ゼイアを救出する為に迅速(じんそく)な国騎士の派遣(はけん)を行う。

 しかし、ゼイアは不幸にも誘拐犯達の凶弾(きょうだん)で倒れてしまう。するとダオンは、仇討(あだう)ちとして誘拐犯達を殺し、ゼイアの死体を回収する。

 そして、それを大々的(だいだいてき)に葬儀(そうぎ)で追悼(ついとう)し、泣きながらゼイアの意志を継ぐと宣(のたま)えば――

 そこには、兄想(あにおも)いの弟がグループの跡目を継ぐという構図(こうず)が完成するのだ。

「美しき兄弟愛。完全なるマッチポンプだ」

「なら、俺達を囲んでいる国騎士隊は買収(ばいしゅう)されているのか!?」

「勿論(もちろん)、奴とて限界(げんかい)はある。精々、金に汚い国騎士、数十名だろうな」

「っても、奴らは完全武装だぞ!? 俺達が逃げる前に殺される!」

「――なら、この廃工場から出なければ良い」

「なんだって?」

「今から私に協力し、時間を稼(かせ)ぐんだ。私の部下がここに援軍(えんぐん)を寄越(よこ)す、その時まで」

「だ、だが、オマエも俺達を裏切るかもしれねぇ!」

「いいや、逆だ。お前達には、この件の証人として役割(やくわり)がある」

「ぐぐぐっ……」

「雇い主(ダオン)を信じて殺されるか、望みを賭けて私に着くか――選択肢(せんたくし)はこれだけだ!」

 ゼイアは語気(ごき)を強める。誘拐犯達は今、運命の別れ道に立たされているのである……

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