↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お金持ちと力持ち  作者: T20
お金持ちと力持ち {ウィザード王国編}
PR
2/15

一話

 ーーまだ外気(がいき)が肌寒(はだざむ)い時期。

 日は空高く登(のぼ)り、朝方に降りた霜(しも)は溶(と)け出して土を濡(ぬ)らす。長い冬が佳境(かきょう)になると気持ちも前向きになり、住民は仕事に勤(いそ)しんで日常を謳歌(おうか)することだろう。

 そして、そんなウィザード王国の某所(ぼうしょ)にて一人、焦(あせ)る男の姿があった……


({会長}が来るなんて聞いていない! ストライキが始まってまだ数時間だぞ!?)

 男が額(ひたい)に汗粒を浮かべて書類を束(たば)ねていると、扉からノック音が鳴り響いて来る。

「失礼します、{専務殿(せんむどの)}。勝手に入室させて貰(もら)いますね」

 扉越(とびらご)しに専務へ呼び掛けて来た者が、許可(きょか)を待たずに扉を開けた。

 ーーするとそこには、奇抜(きばつ)な髪型と髪飾(かみかざ)りの上から、紳士服(しんしふく)を着こなすという奇妙な出(い)で立(た)ちの男性が立っていた。

「突然の訪問(ほうもん)、大変申し訳(もうしわけ)ありません。私の名前は{ラキヤタ}、アドレグループ会長の専属秘書(せんぞくひしょ)と執事(しつじ)を兼任(けんにん)する者です。以後、お見知り置きを」

「えっ、貴方(あなた)があのラキヤタ殿ですか!? 失礼ながら、その御姿(おすがた)に驚いてしまいました……」

「構(かま)いませんよ、皆様、最初は驚きます。私、出身が山岳部族(さんがくぶぞく)なのですが」

 ーーするとその時、開いたままで放置(ほうち)されていた扉(とびら)の奥から“若い男の声”が聞こえて来た。

「その話をする前に、私の手伝いをしてはくれないだろうか? ラキヤタ」

「あぁ、申し訳ありません、{ゼイア}様! ただ今」

 声に従(したが)ってラキヤタが廊下(ろうか)へ出ると、すぐに金属の軋(きし)む音が響いて来た。

 そして、その音の正体が車椅子(くるまいす)から発(はっ)せられている物だと気付くのに、専務は時間を要(よう)さなかった。


「会長、お疲れ様です!」

「ご苦労、専務」

 ラキヤタが押す車椅子に鎮座(ちんざ)する若い男。

 ーーしかし、それを見つめる専務の目線は、男の両脚(りょうあし)へと向かっている。何故なら、彼の両脚は膝(ひざ)から下が無かったからだ。

(これがアドレグループの新会長、脚無しの{ゼイア・アドレメナク}か……)

 色相(しきそう)の薄(うす)い肌(はだ)と長いまつ毛、深く青い瞳(ひとみ)を持った齢(よわい)十六歳の成人男性。そして、ウィザード王国内にて最大手の複合企業(ふくごうきぎょう)、アドレグループの新会長である。

「ーー専務、細かい前置きは省略(しょうりゃく)しよう。私は多忙(たぼう)ゆえ、早々に本題へ入らせて貰(もら)う」

「そ、それで……どの様な要件(ようけん)で?」

「当然、ストライキの件だ。相手の代表が、私との面会を要求しているそうだな。専務、今すぐ代表者と会談席(かいだんせき)を設(もう)けてくれ、既に、キミの社長からは了承(りょうしょう)を得ている」

「しかし会長、それでは先ず、我が社の役員を全員招集(しょうしゅう)し、それから手続きを……」

「ーー専務殿、これは会長命令ですよ」

 専務が微妙(びみょう)な声量(せいりょう)で長々と喋(しゃべ)り出したその時、ラキヤタが口を開き、有無(うむ)を言わせない圧力で専務の口を噤む(つぐむ)。

 そして、黙(だま)る専務を置いて、ゼイアは矢継ぎ早(やつぎばや)に今後の指示を与え、部屋を後にした。

(会長とは言え、所詮(しょせん)は世襲(せしゅう)で番が来たガキだ。きっと問題は無いはず……)

 自分の中で余裕(よゆう)とばかりに舌を出す専務だが、実際はこの一瞬で起きた事の重大さに胃痛を感じていた……


 ーーそれから時が経(た)ち、専務はゼイアに言われた通り会談席を設けた。

 そして、ストライキの代表者とゼイア達による会談は、すぐに始まることとなった。

「私が会長のゼイア・アドレメナクだ、よろしく頼む」

「ありがとうございます、会長。まさか、こうも早く会談が実現するなんて……」

 切り付ける様な空気が漂(ただよ)う会議室には、ゼイア達の他にこの会社の専務と社長の姿がある。

 そして、そんな彼らの視線(しせん)を一身に浴(あ)びる作業着姿の男性が一人、彼がストライキ側の代表者だ。

「ーー会長、単刀直入(たんとうちょくにゅう)に言います。私達は、賃金(ちんぎん)を増やして欲しいのです」

「キミ達のことは、事前(じぜん)に調べさせて貰った……皆、腕の立つ職人の様だ。そして、キミ達は現状の賃金では吊(つ)り合わないと、今回のストライキを起こした。いいな?」

「はい、その通りです。是非(ぜひ)とも、会長のお言葉で要望を叶(かな)えて頂きたいのです」

「では、結論(けつろん)から言わせて貰う――断固(だんこ)として断(ことわ)る。何故なら、それが雇用契約(こようけいやく)だからだ」

「し、しかしそれは!」

「――雇用契約によれば、既(すで)に規定の給金(きゅうきん)は成立している。つまり、その点でこの会社に否(ひ)は無い。だが、キミ達はストライキという形で会社に損失(そんしつ)を出してしまった」

「そ、そんなつもりでは!!」

「ストライキで賃金が上がるという前例(ぜんれい)を作れば、グループ傘下(さんか)の他社にも同様のストライキが多発するかもしれん。雇用条件が気に食わないのなら、辞(や)めるべきはキミ達だろう? 我々は最初から条件を提示(ていじ)し、キミ達はそれを飲み込んだ。そこに一切の相違(そうい)は無い筈(はず)だ」

 狼狽(うろた)える従業員を前に、表情一つ変えないゼイア。それはまるで、冷たい鉄の様だった。


「フフフ、会長はこうおっしゃられている! 今すぐ戻って仕事を再開しろ!」

 ーーしかし、その時であった。

「専務、私の話はまだ終わっていないぞ?」

 意気揚々(いきようよう)と喋り出した専務を遮(さえぎ)ったのは、他でもないゼイアの言葉であった。

「え? 会長、これ以上何を……」

「確かに、賃上げは拒否(きょひ)したーーだが、この会社に“問題が無い”とは言っていない」

 話が切り替わった途端(とたん)、ゼイアの眉間に深い皺(しわ)が生まれ、専務は悪寒(おかん)に包まれる。

「専務は分かっていない様だ。ラキヤタ、説明してやれ」

「はい、ゼイア様ーーこの会社では現在、専務殿による立場を利用した強引な業務(ぎょうむ)の危険化、及(およ)び、そこで生まれた利益(りえき)がグループへ未報告(みほうこく)となっている規約違反(きやくいはん)が見られます」

「そ、それはっ!?」

「つまり、専務殿は利益を横領(おうりょう)した盗人(ぬすっと)となってしまいます、これは遺憾(いかん)ですね」

「待って下さい、会長! それはコイツらが流したデマで、私を貶(おとし)める為に!」

「ーー残念ながらデマではない、何故なら、社長が自(みずか)ら告発(こくはつ)してくれた情報だからだ」

「社長!? まさか、私を売ったのですか!」

 情報の出所(でどころ)に驚いた専務が、会議に同席しながらも黙っていた社長へ振り向く。

「……会社を立ち上げ、私と二人三脚で経営をして来た頃のキミは頼(たよ)れる仲間だった。でも、これ以上は見逃せない、私から会長に全てを伝えたよ」

「そ、そんな……この裏切り者がぁ!」

「――裏切りだと? 専務、キミが社長の信頼(しんらい)を食い物にしたのだろう。だが、アドレグループに喧嘩(けんか)を売ったのはマズかったな。ラキヤタ、{国騎士(くにきし)}を呼べ」

 ゼイアの指示でラキヤタが号令(ごうれい)をかけると、黒い制服に身を包んだ者達が会議室へ突入し、瞬く間に専務を取り囲んで連行(れんこう)する。

 ーーそれは、たった数秒間の出来事であった。

「申し訳ない諸君(しょくん)、騒(さわ)がしくなったな。だが、これもアドレグループの為(ため)だ、許せ」

「は、はい……」

「では、話を戻そうーーキミ達、従業員の賃金上げは呑(の)めない。だが、代わりに業務内容の改善(かいぜん)を進めさせる。これでストライキを解除(かいじょ)しては貰えないだろうか?」

「え!? は、はい! わかりました、会長!」

「よし、証人(しょうにん)は社長だ。これで私は失礼するが、今後の方針(ほうしん)は社長と話して決めてくれ」

 ーーこの短時間で起きた出来事の勢いに飲まれ、ストライキの代表者はゼイアの提案(ていあん)を二つ返事で了承(りょうしょう)する。

 そもそも、彼が放つ会長の圧を前に末端職員(ストライキ側)が文句など言える筈もない。従業員と社長は、部屋を後にするゼイア達の姿を見送る他(ほか)無かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。