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越冬  作者: 社 やすみ
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初恋

 瑠美架が住んでいるのは、繁華街にほど近い高級マンションだった。一人暮らしらしく、さすがに昨日の今日で上がり込むのはちょっとな、と思った俺はこのまま帰ろうと思い、マンションの前で「じゃあ、また」と言ったのだが、瑠美架は絶望した様な顔で俺を見つめながら涙目になった。俺は何事かと思い、「どうした?」と()くが、瑠美架は(うつむ)いてしまい、しばらく沈黙する。もう一度訊こうと口を開いた瞬間、瑠美架が顔を上げた。その目に溜まった涙は今にもこぼれ落ちそうで、それを見た俺の胸が熱くなり、涙腺も何だかゆるむ。俺は幼児期以来、泣いた記憶はないので、あり得ない体験に頭が真っ白になった。瑠美架は胸の前で拳を握りながら、唇を震わせ、絞り出す様に声を出す。


「ちょっとだけでも、上がって行きませんか……」


 その言葉で、真っ白だった俺の頭が働き出した。瑠美架は顔を真っ赤にして(うつむ)き、また沈黙してしまった。この子は(つつ)ましくておとなしい。俺に何か一言言うだけで、相当なエネルギーを使っていることが手に取る様にわかる。そしてその言葉は常に、全身全霊で俺を想っての言葉なのだ。俺はこれまで、女にはモテても、こんなに懸命に好意を剥き出しにされたことはない。普段は何事にも冷めていて、いつでもどこでも逃げることばかり考えている俺だが、もうどうしようもなく瑠美架が愛しくて、向き合うことしか出来ない俺は、この後のことを想像して、息が荒くなってしまった。どうにも瑠美架がほしくなった俺は、彼女の手を取ってマンションの中に向かって勢いよく歩く。すると瑠美架も少し小走りで歩いては俺と並び、次第に俺を追い越し、先行して部屋に向かい出した。エレベーターの中で俺たちはどちらともなくお互いの体に腕を回して強く抱きしめ合い、貪る様に舌を絡め合った。最上階に着くと、瑠美架がエレベーターの操作盤に鍵を差し込んでひねった。するとドアが開く。瑠美架の部屋だ。そこはワンフロア独占で、部屋の奥にはセミダブルのベッドがあり、その向こうは一面ガラス張りで、街の景色が見える。普段の俺ならしばらくぼんやり景色でも見るだろうが、今はそんなものは眼中にない。俺が瑠美架をベッドに連れて歩こうとすると、瑠美架の方がまた俺の少し先を行った。瑠美架はベッドの前で振り返り、スカートをたくし上げながら、ベッドに腰かけた。太ももがあらわになっているが、下着までは見えない。頬を染め、潤んだ目で俺を見る瑠美架。俺はもちろん瑠美架を抱くことしか考えられなくなっているが、慎ましくておとなしい瑠美架が、俺と気持ちを同じくしているのだと無言で伝えてくるこの行動は、俺の脳を痺れさせた。瑠美架も積極的に俺を誘おうとしている。そう思うと俺の手は勢いよく瑠美架のスカートの中に滑り込み、下着にかかる。これは瑠美架がさせているんだ、と思うと俺の興奮は際限がない。瑠美架が後ろに倒れ込みながら腰を浮かせる。俺は瑠美架の下着を剥ぎ取ると、自分がはいているものも剥ぎ取り、何の前触れもなく瑠美架の中に無理矢理入り込み、まだ日も高いというのに何度も何度も気持ちを吐き出し続けた。いつしか俺たちは抱き合ったまま泥の様に眠って、そして、朝日と共に目を覚ました。心と体を重ね続けて解け合った俺たちは、よりお互いの気持ちが分かる様になっていて、朝からまた、どちらともなくお互いを求め合い、受け入れ合った。そして終わった後の瑠美架の幸せそうな笑顔を見ると、俺の心も体も前日を遥かに超える様な愛しさで満たされて、また瑠美架を求めて、次の日の夕方まで組み伏せ続けた。さすがに長居しすぎたと思う俺だったが、瑠美架は当然の様に名残惜しそうで、「ずっとここに住んでほしいです」と言った。俺もそうしたい気持ちしか持てず、「分かった」と言ってしまう。帰り際、瑠美架は俺をマンションの下まで送ってくれて、ずっと手を振り続けていた。何度振り返っても瑠美架はずっといて、見えなくなる距離になってもまだいるであろうことがかんじられた。俺はこの時心の中で二つの誓いをたてた。一つは、この子に釣り合う男になる為に、久々にまともに働こう、と。そしてもう一つは、この子とのこれからの為に、女たちとの関係を全て清算しよう、と。普段は身勝手で利己的な俺だが、瑠美架を想うと、これまでの俺のままではいられない、いてはいけないと思った。瑠美架は俺に無償の愛をくれる。そして俺も、瑠美架に愛を注がずにはいられない。全てを振り切って瑠美架を幸せにしたい俺は、まさしく初恋の真っ只中にある。

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