第46話 月夜の晩餐会は終わらない
それから半年が過ぎた。
フォンドール家の古い温室は、以前より少しだけ広くなった。
王室公認の慈善社交会となっても、月夜の晩餐会の決まりは変わらない。
体型で席を分けない。
食べる量を笑わない。
話したくない人に、会話を強制しない。
歌を聞きたくない人は、いつでも退席してよい。
今夜も、温室にはさまざまな人が集まっていた。
マリアベル様は、厨房で新しいスープの味見をしている。
食べられるようになったことを誰かへ証明するためではなく、美味しいからもう一口飲みたいと笑っていた。
アイリス様は月夜の記録帳の管理役となり、公開と非公開の印を一つずつ確かめている。
そばかすを隠す厚化粧はもうしていないが、化粧そのものを嫌うようになったわけではない。今日は自分の好きな金色を、瞼に少しだけ乗せていた。
カミラ様は、ミレーユと共にさまざまな身体に合う礼装を作る会を始めた。
肩を丸めず、大きな荷物を軽々と運ぶ姿は、温室の誰より頼もしい。
ビアンカ様は、王室監査院の証言補助人として働いている。
強要を受けた者が安心して話せるよう、手続きに付き添う役目だ。
私たちは、すべてを忘れて親友になったわけではない。
けれど彼女は逃げずに信用を積み、今では同じ食卓で、必要な言葉を交わせるようになっていた。
レオン様は騎士団の慰労食卓を定例にし、亡くなった者だけでなく、生きて帰った者が弱音を話せる席を作っている。
ユリウス様は、相変わらず口が悪い。
けれど以前よりきちんと眠るようになり、危険な魔術を封じるだけでなく、扱う者の意思を守る規定を審理院へ提案した。
セドリック様は、月夜の名を二度と無断で商品へ使わない。
代わりに、晩餐会で働く料理人や仕立職人が正当な代価を受け取れる仕組みを作り、以前失った金額以上の寄付を、誰にも誇らず続けている。
エドガー様は地方の倉庫で、毎日、自分で帳簿を読み、自分の名で署名することを学んでいると聞いた。
ヴィクトリア夫人からは、一度だけ短い手紙が届いた。
謝罪は書かれていなかった。
ただ、領地の屋敷で長く覆われていた若い日の肖像画を、再び壁へ掛けたとだけ記されていた。
それで罪が消えるわけではない。
変わるかどうかを決めるのも、これからの彼女自身だ。
そして私は、クラウス殿下の婚約者となった。
王宮へ上がる日は増えたが、体型は変わっていない。
月光色のドレスを身に纏い、食べたい時には食べ、嬉しい時には口を開けて笑う。
殿下は今夜も、仕事を終えて温室へやってきた。
以前のように特別な上座へは座らず、月の見える端の席で、少し塩の足りないスープを飲んでいる。
「リリアン様」
入り口から、八歳になったマリーが私を呼んだ。
あの夜、厨房で泣いていた小さな少女は、今では母親の手伝いをしながら、初めて来た人へ空いた席を教えている。
その隣には、見知らぬ若い令嬢が立っている。
きつく締めたドレスの中で身体を小さくし、空腹を隠すように俯いていた。
「初めての方です。席は、ありますか?」
私は温室を見渡した。
食卓は賑わっている。
けれど窓辺には、いつでも誰かを迎えられるよう、空けておいた椅子が一つある。
「もちろんです」
私は令嬢の前へ歩み寄り、手を差し出した。
「温かいスープと、静かな席がございます。お話は、したくなってからで構いません」
令嬢が恐る恐る顔を上げた。
私はその手を取り、月の見える椅子へ案内した。
食事が終わる頃、私は一曲だけ歌った。
今でも、歌った後にはひどく疲れる。
声が掠れる日もある。
それでも、誰かのために歌いたいと願う時、私の声は月明かりの中へ伸びていく。
その夜も、月の下には歌があった。
誰かに選ばれるためではなく、誰も自分を嫌わなくていいと伝えるための歌が。




