第二話 「また蜘蛛かい!!」
「行くしかないんだなあぁぁぁ!」
ヤケクソ気味に叫びながら奥に進んでいく。
進む。
進む。
どんどん進む。
………。
……………。
「何もいないな」
これまでの道のりは平和だった。
いや、平和というより不気味だった
音がしない。
さっきまで聞こえていた水の音が消え、静寂だけがこの空間を占めている。
こう、何というか野生の勘?みたいなのが警報を鳴らしている。
「ピコン!」
青い文字が浮かび上がる。
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【鑑定 Lv2により周囲の情報を会得しました。
ー特別危険地区。放棄された実験場ー】
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放棄された実験場?
名前からして嫌な予感しかしない。
帰りたい。
帰れないけど。
暫くすると、巨大な空間にでた。
そこには、
蜘蛛の巣に引っ掛かる沢山の卵があった。
「うげぇ…」
気持ち悪い…
百どころじゃない。
千個は確実にある。
見ているだけで鳥肌が立つ。
その時、
パキッ。
一つの卵にヒビが入った。
「ん?」
パキパキパキッ。
ヒビが広がる。
そしてー
パリンッ!
卵が割れた。
中から出てきたのは。
小さな蜘蛛だった。
とはいっても小型犬ぐらいのサイズはあるが。
鑑定!
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名前 無し Lv1
種族 キラースパイダー(幼体)
称号 無し
体力 5
攻撃力 2
素早さ 10
守備力 3
魔力 0
固有能力
糸を出す Lv1
操糸 Lv1
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弱っわ。
さっきの蜘蛛より圧倒的弱い。
だが、一匹ではなかった。
パキッ。
パキッ。
パキッ。
あちこちの卵が割れ始める。
「ウソだろ…」
パリンッ。
パリンッ。
パリンッ。
中から大量の小蜘蛛が出でくる。
数十匹。
数百匹。
数千匹。
大量の小蜘蛛がこちらを見ていた。
仲間になりたそうにこちらを見ているのではない。
餌としてこちらを見ていた。
「うん。逃げよう!」
即決だった。
だが、遅かった。
「「キシャアァァァァァ!!」」
小蜘蛛の大群が押し寄せてきた。
「ぎゃああぁぁぁぁ!」
俺は全力で逃げた。
プルンプルン飛び跳ねながら。
だが、相手は数千匹。
逃げ切れる筈もなく……
足元に蜘蛛。
壁に蜘蛛。
天井に蜘蛛。
蜘蛛。
蜘蛛。
蜘蛛。
四面楚歌ならぬ四面蜘蛛。
「無理無理無理無理無理無理!!」
その時だった。
俺の頭脳が一つの答えを導き出す。
操糸って糸を操れるんだよな?
だったら……自分が出した糸じゃなくても操れるんじゃないか?
周りには蜘蛛の巣。
つまり、糸が沢山。
そして操糸は糸を操れる。
「網を作って一網打尽だ!!」
操糸!!
巣の糸が解け、新たに巨大な網を作っていく。
「行っけー!!」
出来た網を小蜘蛛の軍団に向かって投げつける。
「「キシャ!?キシャ!?」」
そして、糸質変化で糸を鋭くする!
「「キシャアァァ……」」
更に触手を伸ばしてペチペチする!
うおぉぉぉぉぉー!!!!
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【レベルが上がりました。Lv5→Lv6】
【レベルが上がりました。Lv6→Lv7】
【レベルが上がりました。Lv7→Lv8】
【レベルが上がりました。Lv8→Lv9】
【レベルが上がりました。Lv9→Lv10】
【レベルが………】
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青い文字が一気に浮かび上がっては消える。
美味しい。
経験値がめちゃくちゃ美味しい。
その時だった。
ドクン
空間が震える。
小蜘蛛達が一斉に動きを止める。
そして。
全員が奥を向いた。
まるで、危険な物が本能的に分かったかのように。
ズシン。
ズシン。
ズシン。
巨大な足音が響く。
暗闇の奥から現れたのは―
5メートルを超える蜘蛛だった。
「また蜘蛛かい!!」
蜘蛛多すぎだろ!!
鑑定!!
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名前 無し Lv25
種族 クイーンスパイダー
称号 母なる蜘蛛 女王
体力 125
攻撃力 180
素早さ 200
守備力 40
魔力 92
固有能力
斬鉄糸 Lv10
拘束 Lv10
操り糸 Lv12
統率 Lv15
粘着糸 Lv18
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「いや、無理いぃぃぃぃぃ!!!」
逃げる。
ひたすら逃げる。
だが―
ズシン!
ズシン!
ズシン!
「クソ速ぇぇぇ!!」
それもそう、相手の素早さは200に対し俺の素早さは―
あれ?どんくらいだっけ?
しまった!レベル上がってから見るの忘れてたぁぁぁぁぁ!!
しかし、そうは思っても後の祭り。
今は逃げるしかない。
巨大な脚が振り下ろされる。
ドガアァーン!!
「ヒィッ!」
ギリギリ回避。
地面に巨大な穴が空いた。
当たっていたら終わりだった。
間違いなくぺちゃんこだ。
「ヤバいヤバいヤバいヤバい!!」
取り敢えず足止めしないと!!
拘束!!
糸が伸び、クイーンスパイダーの太い脚に纏わりつく。
「よし!どうだ!」
ブチィ!
しかし、脚に纏わりついた水草を払うが如く、脚を軽く振っただけで糸を引き千切った。
「ですよねえぇぇぇぇ!!」
でも今は何が何でも、試すしかない
生き残る為に。
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「逃っげろぉぉぉぉ!!」
俺は全力で跳ねる。
プルン!
プルンプルン!
後ろからは地面を砕く足音。
ズシン!
ズシン!
「速い!速すぎる!!」
振り返る
そこには巨大な体。
赤黒く光る八つの目。
そして―
巨大な口。
「キシャアァァァァァ!!」
「うわあぁぁぁぁぁぁ!!!」
横に全力で跳ぶ
次の瞬間、さっきまで立っていた場所を牙が貫く。
あと一瞬でも遅れていたら俺はスライムドーナツになっていた。
「落ち着け……落ち着け俺……」
何ができる?
何をすれば生き残れる?
考えろ
考えろ考えろ考えろ!
周りには何がある?
後ろからはクイーンスパイダー。
至る所に沢山の小蜘蛛。
前方は行き止まり。
そして、ヒビの入った壁。
ヒビの入った壁?
壁に斬鉄糸を突き刺して、さっきみたく壁を崩すことも出来るんじゃないか!?
やってみるしかない!
チャンスは1回だ…
相手が爪を振り降ろした際に起きる一瞬の硬直。
そこを狙うしかない!
よく見ろ…
よく見るんだ…!
クイーンスパイダーが爪を振り上げる。
そして―
ズガアァァン!!
爪を振り降ろした。
「今だ!!斬鉄糸!!」
ヒビの入った壁に向かって糸を伸ばす。
ザシュッ!
突き刺さった!
でも崩れない!
ええい!!体型変化で触手を生やして、体質変化で触手を硬くする!
「行っけぇぇぇぇ!!」
触手を思いっきり叩き付ける。
ベッチーン!!
バキッ……バキバキバキ……!
ゴゴゴゴゴゴ…!!!
壁が崩れ落ち、向こう側に空洞が現れる。
それと同時に、大きな瓦礫がクイーンスパイダーの進路を塞ぐ。
「キッシャアァァァァ!!!!!」
怒り狂った声が響くが暫くは足止め出来そうだ。
「よしっ……今の内に…って行き止まりだった〜!!」
ヒュオオォォォォ………
突然
崩れた壁の奥から冷たい風が吹き抜けた。
ただの空洞じゃない。
もっと危険な感じがする。
でも、先は行き止まりだし行くしかない
俺は通路に飛び込んだ。
―――――――――――――――
崩れた壁の奥に飛び込むと、そこは細く長い通路だった。
そう、人工的に作られた通路があった。
湿った空気が流れ、水滴の落ちる音だけがやけに大きく聞こえる。
いや、後ろから瓦礫を砕く音が聞こえるからそんなこともないか。
「って、ヤバい!!このままじゃクイーンスパイダーこっち来ちゃうじゃん!急がないと!!」
プルンプルンと跳ねながら奥に進む。
すると――
カツン。
「痛っ!」
何か硬いものにぶつかった。
「ん?壁……じゃない?」
いそいそとスライムポケットから光る石を取り出すと、前を照らす。
そこには、、、
鉄格子で作られた牢屋みたいなものがあった。
その向こう側、暗闇の奥から微かな声が聞こえる。
「……だれか……いるの?」
「えっ、人!?」
慌てて近づくとそこには
ボロボロのローブに身を包んだ小柄な少女が居た。
だが、特筆すべきはその見た目だろう。
犬のような耳が生え、フサフサの尻尾が生えていた。
うん。これって獣人って奴かな?
「大丈夫ですか?」
「よかった……助けが来てくれた…ってスライム!?」
あ、やべ自分がスライムなの忘れてた!
「ま、待って!敵じゃない!俺悪いスライムじゃないから!」
慌てて触手を振ってアピールする。
……あれ?余計怖くね?
「ひっ………!こ、来ないで…!!」
「いやいやいや!違うって!俺はその……助けようと思ってるだけだから!!」
「スライムが……助けに…?…ウソよ……魔物が助けるなんて……有り得ない…!」
「マジで違うんだって!!後ろからクイーンスパイダーが来てるの!!」
「く、クイーンスパイダー……!?」
少女の顔から血の気が引いた。
「とにかくここから出ないと!!鍵は!?鍵は何処!?」
「鍵は…分かんない…」
「え!?」
「研究員の人達がいつも持ってたんだけど……皆…どっかいっちゃったから…」
「分かった!じゃあ、今から鉄格子を壊すからちょっと離れてて!」
少女が鉄格子から離れる。
よしっ、斬鉄糸!
体から糸が伸び鉄格子を切る。
錆びていたのか案外簡単に切ることが出来た。
鉄格子が崩れ落ちると、少女は驚いたようにこちらを見た。
「…ほ、本当に…助けてくれるの…?」
「当たり前だろ!ここで捨てていったら男が廃れる!」
「……スライムなのに…?」
「スライムにだって心と誇りはあるんだよ!!」
すると後ろから――
ドガアァーン!
ズシン。
ズシン。
瓦礫を砕く音が聞こえ、こっちに歩いてくる足音が聞こえる。
「やばっ!急ぐぞ!」
「う、うん……!」
少女はよろよろと立ち上がり、歩こうとするがその足元はおぼついている。
「歩ける?」
「だ、大丈夫…じゃないけど…行くしかないもん……」
「よし、じゃあ――」
俺は触手を伸ばし、少女を抱える。
所謂お姫様抱っこって奴だ。
まあ、スライムなので傍から見ると乗っかってるだけにしか見えないが。
「ひゃっ……!?」
「わっ!ご、ごめん!嫌だった!?」
「う、ううん…ちょっとびっくりしただけ…」
気のせいか顔が赤い気がする。
病気かな?
そりゃこんな所に閉じ込められてたら具合も悪くなるわな。
って、そんな場合じゃない!!
ズシン!
ズシン!
「来た!!走るぞ!!」
「う、うん…」
少女を抱えながら通路を駆け抜ける。
後ろからは通路に入り込もうとする巨大な影。
「キシャアァァァァァ!!!!」
「「うわあぁぁぁぁ!!」」
通路の奥深くへ――
二人は必死に逃げ込んだ。




