表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

186/191

第1話 終わりの始まり

「――という訳で梔、蓮、雛罌粟、雛菊、椿姫が鳳凰眼の所有者になった」


 嶺は辺り一面真っ白な空間の更に上の場所で自分の創った家族の物語を語っていた。

 一見すると誰も居ないように見えるが、それは間違いである。

 嶺の遥か上空には巨大な鳥が翼をはためかせていた。

 その巨大な体躯に見合った大きさの六つの眼窩はどこまでも深い暗闇だった。



「そんな報告はどうでも良い。早くわたしの眼を返して貰おうか」


 時間稼ぎを続ける嶺の手の中には消滅した筈の三つの鳳凰眼が握られていた。



「分かってる」


 嶺が手のひらを掲げると潤邏鳳凰眼、戯瞑鳳凰眼、艶揶鳳凰眼が浮かび上がり、霊鳥の三つの眼窩に収まった。

 ギョロギョロと眼球を動かし、数千年振りに光を受け入れる。



「初めて貴様の顔を見た。母親によく似ているな」


「あたしの母はどこだ?」


「ここだ」


 霊鳥が胸を反らすと胸筋が左右に分かれ、嶺にそっくりな顔の女性が出てきた。

 彼女は凰花 嶺もといファン 花嶺フゥアリィンの母親である、ファン 甜満テンマ

 しかし、美しいその肉体は亡骸に過ぎず、魂は朽ち果てている。

 ファン 甜満テンマは霊鳥の眼を手にした瞬間に声を聞いた。

 それはファン一族を呪い殺すという宣言だった。彼女は家族を守る為にその身を捧げ、霊鳥を鎮めようとした。

 しかし、解き放たれた呪いとまなこは既に家族の眼窩に移植されており、呪いを解除する事は不可能だった。

 そこで彼女はその身に霊鳥の眼を宿し、霊鳥の子を生む為の役割を果たす覚悟を決めたのだ。



「この人がうちの母…なのか?」


「そうだ。お前は"花の渓谷"から生まれたが、あれは此奴の子宮だ。甜満テンマはこのわたしに子で生ませたのだ。なかなかに強かな女だったぞ」


 ファン 甜満テンマの身体を胸の中に沈ませた霊鳥がいつくしみの眼が入るべき眼窩を向ける。

 嶺は一歩も動かず、ただ漆黒の眼窩を見上げた。



「もうお前にその眼は必要ないだろう。お前の言葉を借りるならば…。いつくしみの感情を持ち、創造を司る鳳凰のまなこ、"満たされぬ渇欲"甜岌鳳凰眼テンキュウホウオウガン。返して貰おうか」


「…断る」


 嶺は両眼に模様を浮かび上がらせ、母でもある霊鳥を睨み付けた。



「くふふ」


 まるで嶺の答えを知っていたかのように嫌らしく喉を鳴らして笑う。



「だろうな。それがその眼に与えた呪いなのだから」


「ッ!?」


 三百年以上振りに嶺の額から冷や汗が流れた。



「何故、お前が自分の眼を引き千切り、娘の子宮に全ての眼を入れなかったと思う?」


 嶺はその質問に答えられなかった。



「それはな…。愛を求め、愛に依存し、愛を独占したかったからだ。お前がコスモスに"愛"を与えなかったから、お前の子孫は愛情が歪で希薄なのだよ。そして、無駄に膨大な"愛"を与えられたさくらは死ぬまで苦しむ事になったのだよ」


 呼吸が速くなり、一瞬視界が歪んだ。



「凰花 姫百合は親友の子を愛した。凰花 鈴蘭は息子を愛するが故に距離を置いた。凰花 梔は孫の力を恐れ、愛さないように性別を改めた。凰花 薔薇は曾孫に重すぎる愛を与えた。凰花 さくらは行き場の無い愛を他人の子に注いだ。凰花 雛菊は息子を愛するが故に子育てを放棄し、失敗のない親友との子を望んだ。凰花 雛罌粟は姉と夫を愛するが故に殺害した。凰花 百合は愛する者を脅迫してでも手に入れた。そして凰花 嶺は何よりも誰よりも自分を愛した」


 嶺は過呼吸となり、胸を押さえつけながら膝を折った。



「だが、あの二人は違う。凰花 椿姫は性別という名の愛を与えられ、最も身近な者を愛した。凰花 蓮は灼烙という名の愛を与えられ、自分に関わった全ての者を愛した」


 嶺は必死に自分を正当化し、気持ちと呼吸を落ち着かせる。



「お前はわたしに眼を返せない。それが"永遠の呪い"だ。残り二つの眼がわたしの眼窩に嵌まるまでお前に"出口"は与えない」


 これは宣告だ。

 嶺は今日まで死ぬ事を許されず、普通に生きる事も許されず、ただ何も無い空間に閉じこもる日々を過ごした。

 この日常が永遠と続くのだ。



 この時、改めて自分が被害者ではなく、加害者なのだと認識を改めた。

 勿論、被害者でもある。

 しかし、娘や孫を利用して自分を縛り付ける呪いを解かせようとしたのは間違いない。

 だからこそ、椿姫と蓮に"愛の能力チカラ"を授けたのだ。



「なるほど、そういう事でしたか」


「ふふん。貴女の物語はもう終わりよ。ここからは私達の物語を始めましょう」



 嶺の止まった時間が動き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ