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第62話 究極の選択

―――――

――――

―――

――


 辺り一面、真っ赤な空間へ迎え入れた一諾と会話する事なくマーキングを終えた。

 一諾は助けを求めた。だから、これ以上の同意は得ない。

 そんな時間は無いのだ。



「よし。灼烙ッ…」


『待て、馬鹿者』


 空間に響き渡る少女の声に制され、蓮は慌てて口を噤んだ。



『こんな雑なマーキングで灼烙黒天を使えば、この女ごと消えてしまうぞ』


 焦る蓮には少女の声が何を言っているのか理解出来なかった。



『落ち着け。まだ時間はある。この女の死因は何だ?』


「自殺…。ナイフで首を切った事による出血死?」


『そうだ。あの女の時と異なり、この女は自ら命を絶とうとした。灼烙黒天で消滅するのはこの女そのものだ』


 蓮は初めて灼烙黒天の能力を知らされた。

 一度目は本能的に能力を使用していた為、何が起こって一蓮の命が助かったのか理解出来ていなかった。

 情報の整理もままならぬ状況で二度目の使用を敢行しようとしているのだ。



『もっと灼烙天里の精度を上げろ。この女の死の原因はそのナイフだ。ナイフが木製なら首は切れなかっただろう』


 蓮はもう一度、灼烙天里をやり直した。



『これでそのナイフがこの世から消える。よって、そのナイフを作った者が消える』


 蓮は姿の見えない少女に声を荒げた。

 その短剣は城下町で鍛冶屋を営む親父が作った物だ。

 蓮も顔見知りであり、彼の子供達が必死にその技術を受け継ごうとしている光景も見ている。



『その者がこの世から消えれば、その者が作った物は全て消える。勿論、跡継ぎ達もだ』


「そんな事は出来ないッ!」


『だが、お前は一度、灼烙黒天でお前達を刺した伊軍の男を消しているぞ。この世であの男を覚えているのは、当事者だけだ』


「そんな…そんな力なのか……」


『惚れぬな。お前は神の能力チカラを得たが、決して神になった訳ではない。二兎を追う者は一兎をも得ずだ。選べ。その女か鍛冶師か。それが灼烙への生贄となる』


 灼烙黒天は使用者の時間と死の原因を作った者の存在を代償に対象者を救う。

 これが悪と善の心を持つ蓮に与えられた、破壊と創造を付与した未来を司る眼の正体である。



『おしゃべりは終わりだ。さぁ、女を取るなら灼烙黒天を使え。鍛冶師を取るなら眼を閉じろ』


 命は平等であり、その重さは同じだと思っている。

 簡単に切り捨てる事は出来ない。

 それでも一方を選ばなければいけないのであれば、と悩んだ末に結論を出した。



「…ごめんなさい」


『お前は何も悪くない。この状況を作った奴が悪いんだ。お前に灼烙を使わせる奴をわたしは許さない』


 姿の見えない少女は後ろから蓮を抱きしめて、耳元で囁く。

 そして、二人は同時に息を吸った。



「『灼烙黒天!』」


 真っ暗だった一諾の未来は閉ざされ、横から新たな未来の道が伸びた。

 こうして、凰花 蓮は二人目の運命を捻じ曲げた。

 本来、歩む筈のない道を歩み始めた一諾と共に蓮も現実世界へ舞い戻った。


―――――

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―――

――


 現実世界の蓮は大量の汗を流しながら、一諾の手を握っていた。

 一諾の首筋に傷は無く、出血痕も無かった。

 そして、短剣も無かった。



 突如として強い眠気に襲われた蓮は争い切れずに意識を手放しそうになった。

 必死に抵抗する蓮を寝かしつけるように少女の声が脳内に反芻した。



――今は休め。起きる頃には足も治っているだろう。


 少女の声を聞き終える前に蓮は意識を失った。



――やれやれ。女一人助ける為に一週間もの時間をくれてやるとは…。関心せんな。


 蓮の意識が無くなると少女が居座る空間も真っ黒になり、共に深い闇の中へと沈んでいった。

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