二度目の引っ越し
初音視点です
「私たちが、貴斗さんのおうちにですか……。」
「そう。……先程ご説明した通り、春休み前にはここのことが向こうに知られました。安全面を考慮すると、ここに留まるのは得策ではありません。代替案として、いくつか候補はありますが、俺はうちに来てもらうのが一番安全だと思います。」
今日は、貴斗さんが話があると言って私たち家族を集めた。貴斗さんが言うには、前に私たちを襲ってきたのとおんなじように貴斗さんのおうちをよく思ってないところが、今私たちがいるホテルを突き止めてしまったらしい。今も外でここを見張っているという。
貴斗さんは、私たちにいくつかの案を出してくれた。今みたいに、貴斗さんが安全だと判断したところに移動する、修繕が終わった自宅に帰る、おすすめはしないけどここに残る……。その中で貴斗さんが一番いいと言ったのが、貴斗さんの家に移動する、だった。
貴斗さんがそれがいいというなら、きっとそうなんだろう。またあんな怖い人たちに襲われたら、と考えただけで、背筋が凍るような気持ちになる。現に襲われた記憶のあるお兄ちゃんと、2人で目を見合わせて生唾を飲んだ。
貴斗さんは、私たちの様子を見て、険しくしていた顔を少し緩め、安心させるように微笑んだ。
「心配しなくても、俺の家で常時警戒してるから、前みたいに押し入られたりってのはないよ。ただ、想定より早く居場所が特定されたから、油断はできないねって。」
「……その、襲ってきた奴っていうのは、今後も来るのかい?」
「残念ながら、今後はより多くの人員が投入され、より強引な手段をとってくる可能性が高いです。以前ご説明した通り、茶戸家を目の敵にしている輩は多いですから。」
「あぁ……そうだね。」
貴斗さんの真剣な顔の返答に、お父さんは顔を青ざめさせ、言葉を失った。
貴斗さんは、おうちが関東で大きな力を持つ代わりに、その力を狙うその他のそういう勢力から、いつも狙われてきたと言っていた。少なくとも、20以上の勢力は敵だとも。それがどのくらい多いのか、どのくらい怖いのか、私にはよく分からない。でも、私や家族も、となると、怖いなとは感じる。
「そこで、今回のご提案です。まず、メリットからご説明します。俺たちの世界で、’茶戸家’とは絶大な力を持った家です。業界最大勢力である茶戸本家とは、組長同士が血縁関係であり、どの勢力よりも強固な結び付きがあります。この業界において、それぞれの持つ影響力や繋がりは、何よりの力になります。」
「貴斗くんの家に攻撃したらどこが協力関係になるか、が重要視されるってことだね。」
貴斗さんの家と本家ってところが強い繋がりを持ってるってこと自体が、他を牽制する材料ってことだ。
お父さんの確認に、貴斗さんは頷いた。そして、さらに説明を続けていく。
「これまで、上層部個人が襲撃されたことは数多くありますが、茶戸家に家として抗争を仕掛けられたことはありません。後ろ楯が強い茶戸家を襲うのは、現時点ではメリットがないということです。なので、うちに移れば、その時点で襲撃は激減すると思って大丈夫です。」
「なるほど。」
「また、事務所としても使ってますので、常時組員が待機しています。万が一の有事の際にも、このホテルよりも安全を保障できます。」
「安全面でのメリットが大きいってことね。」
「はい。」
お母さんの安堵混じりの呟きに、貴斗さんが笑ってまた頷いた。安全になるのは確かに安心。私も胸を撫で下ろした。
「次にデメリットですが……。やはり、うちに出入りすることで、噂になるかもしれないこと、さらに、こちらの世界で顔が売れる可能性があることです。もちろん、日常生活を送る上で障害となりうる事象に関しては、こちらで根回し、対処していくので、ご心配はいりません。ですが、当然人の口に戸は立てられないとも言うので……。」
「……それはもう言ってもしょうがねぇだろ。父さん、俺はいいよ。行っても。」
「そう、だな。安全が第一だしな。」
お兄ちゃんとお父さんが、少し厳しい顔ながらも、貴斗さんの提案に同意した。それに続いて、お母さんも。こうして、私たちは、貴斗さんの家に移ることとなった。
「では、俺はこれで。父にこの決定を伝えてきます。詳細が決まり次第、ご連絡します。初音、初音たちのことは、俺が絶対に守るからね。何かあったら必ず俺に言って。」
「はい。貴斗さんも、気をつけてくださいね。」
貴斗さんを見送り、私たちは家族でもう一度話し合った。
いくら貴斗さんが守ってくれるといっても、私たちだって、自衛をしないとだめだから。無防備なことして、貴斗さんに迷惑をかけないようにしないと。
次話から駿弥視点が始まります




