手にした今の日常
景介視点です
「先パイとタイマン、ですか……。」
「はい。我ながら、無謀なことをしたと思っておりますが。」
「……勝ったんですか。」
昔の話を終え、駿弥くんは驚愕といった表情で俺を見た。
今の俺からすれば、信じられないことだろう。若に向かってタイマン張れと言うのも、偉そうな口を叩いたのも、殴りかかったのも。
それくらい、あの時は無我夢中だった。なんとしても貴斗に隣にいてもいいと認めてほしい、一緒にいたいと思ってほしい。この一心だったと思う。そのせいか、あの時の俺は、いわゆる火事場の馬鹿力のような状態だったと思う。
「勝ちましたよ。それでも、辛勝といったところでしたが。」
「す、ごいですね……。先パイに勝つとは。」
「あの時は、半分泣き落としも入っていましたから。喧嘩と口説きと泣きを同時にしてましたね。」
むしろ、喚き散らしたと言っても過言じゃない。そこまでしてやっと、認めてもらえたのだ。
あの時のことを思い返し、感慨深い気持ちになってくる。あれから色々あったが、今では自他ともに認める若の側近になれていると思う。まだまだ精進は必要だが、この地位はもはや俺だけのものになったと言えるだろう。
「……俺も、そこまですれば、先パイに認められるんですかね。」
「分かりません。私はこの方法が一番手っ取り早く、反論もさせずに若の安心を得られると思ったからしただけですから。それに、実行したのは小学生の時。あれから良い方にも悪い方にも状況は変化していますから。同じ手段で若のお心を動かせるとは限りません。」
「……二番煎じはインパクトに欠けますしね。分かりました。自分で探してみます。……何より、今俺がすべきなのは、強くなることですよね。実戦、とやらの件、了承しましたまた詳細が決まったらご連絡ください。」
駿弥くんと別れ、俺は若の待つ部屋へと戻った。
変わらず作業を進めていた若は、予定よりもずいぶん遅くなっただろう俺の戻りを、笑顔で迎えた。大方の予想はついているということだろう。
「遅くなりまして、申し訳ございません。」
「いーよ。駿弥くんと話てんだろうなーとは思ってたし。何話してたの?」
「昔話を少々。」
俺の言葉に、若はふはっ、と笑いを溢した。
俺があの話をすると、若は少し照れてるように眉を下げながらも、嬉しそうに目尻も下げる。何を思ってのその表情なのか聞いたことはないが、あの一連の出来事の中に、何か嬉しがることがあるのだろう。若が嬉しそうで、何よりである。
「駿弥くんに話したんだ。やー、恥ずかしいなぁ。人生で最大の大喧嘩に負けちゃったんだもんねぇ。おかげで景介が補佐になってくれたんだけど、ねぇ。」
「畏れ多くも勝ち星をいただいたことは、末代までの誇りです。」
「あはっ。今の景介なら、いくらでも勝てるって。俺は景介になら負けても仕方ないかなって思えるもん。」
「……もったいないお言葉です。若に認めていただけて、嬉しく思います。」
若のお言葉に、目の前がぼやけてくる。
今まで、若の補佐に相応しくあれるようにと努力してきたが、若はそれをちゃんと見ていてくださっていたのだ。こんなに嬉しいことはない。
今にも感涙に咽び出しそうな俺を、若は変わらず微笑んで見ている。今この瞬間が幸福の絶頂だ。
「さ、まだまだ仕事は大量だよ。早く片付けて、駿弥くんの件、ちゃんと見てあげよう。」
「はい。」
手早く書類をまとめていく若の隣に座り、俺も処理すべき書類をまとめあげる。若の側近として、相応しい仕事をこなしていく。
若に重用される身であれるよう、いついかなる時でも、精進を重ねなければ。
次話から初音視点が始まります




