妙に存在感のある人物
景介視点です
「……水輿さん。」
「舞菜でいいですよ!」
「水輿さん。危険だと言いましたよね。あなたは、とても危ない立ち位置なんですよ。今日明日、殺されてもおかしくないんです。私に関わったばかりに。いいんですか?」
鋭く睨み付け、脅すように言うと、彼女の目にもわずかに怯えが混ざった。このまま俺=恐怖の図式ができあがればいい。
俺は若と組に関すること以外に強い関心はない。だから、彼女が俺を嫌悪し離れようと、そこからこの学校内に俺が茶戸家の関係者だとバレようと、構わないといえば構わない。若さえいれば問題はないし、今はお嬢もいる。この2人はほぼ確実に俺を忌避することもない。若も言っておられたが、俺は将来組に入るから、学歴はほぼ関係ない。だから、俺と組の繋がりを理由に退学処分になっても、問題ない。むしろ、その方が若の側近としてよりよく動けるのかもしれない。
そう思っていると、何やら勇ましい目で、彼女は口を開いた。
「怖いですけど、会長を信じてるので!」
「……は?」
「会長は前に、私を守るって言ってくれました。その約束を、会長が破るとは思いませんし、見捨てるとも思いません。」
「……。」
「会長はすごく優しいし、正義感ありそうだし、大丈夫です!茶戸先輩は……ちょっと怖いし、よく分かんないけど、私は、会長のことは信じてますよ。」
信じきった顔で俺を見つめ、快活に笑みを見せる彼女に、内心俺は驚いていた。……よく知りもしないのに、能天気すぎる信頼の寄せ方だ。
「まったく……あなたほどのバカは見たことがない。」
「うぇ!?急にディスられた……。なんでそんなこと言うんですかぁ!」
「1つ、私をよく知らないのに信じるなんて軽々しく言うところ。2つ、私のいる世界をよく知らないのに大丈夫なんて軽々しく言うところ。3つ、貴斗を……若を怖いなんて言う愚かしいところ。4つ、自身の身に起こっている危険性を」
「わーわーわーっ!もういいです、分かりました!……もう、4つも言うなんて、会長ひどいです……。」
「4つも?まだまだ上げたりないくらいですが。あなた、本当に危機意識が底辺並みですね。」
慌てて俺の言葉を遮り、恨めしそうに俺を睨んでくる彼女に、俺は呆れた目を返す。
だいたい、こっちは彼女の身を案じて、まだギリギリ引き返せる今の内に、と言っているのに。なんて態度だ。目を離せば、即裏世界の餌食になってそうな危機感のくせに。
「……もう、いいですよ。私がバカなのは事実ですし。会長と比べるべくもないのも事実ですし!でも、やっぱり私は会長と仲良くしたいですよ。」
「……なぜです?校内での交流もほとんどなく、あちらのこともある。私自身、けして人好きするものでもない。あなたのいるべき世界で私と繋がってることがメリットになるとも思えない。……あなたの意図するものはなんですか。」
しつこくも俺との親交を言い募る彼女は、また快活に笑った。それに俺は訝しげに目を向け、問い詰めるように言葉を重ねる。
彼女が完全に裏とは関係のない人間であることは調べがついている。なのに、俺と積極的に関わろうとするなんて、普通の神経でない。いったい何が目的だ。
厳しい目を向ける俺に、彼女は驚いた顔を向けてきた。信じられないといった風に目を大きく見開き、ポカンと口を開けた顔は、実に間抜けで意味不明だった。
なぜ俺がそんな顔をされているのか。納得いかない。
「……会長、それ本気で言ってるんですか?」
「こんなくだらない問答に冗談を加えられるほど、私は暇ではありません。で?あなたの答えは?」
「……んもーお!会長の鈍感!ありえません!」
「……なぜあなたにいきなり罵倒されなければならないんでしょう。甚だ遺憾です。」
顔を少し赤らめこちらを睨む彼女は、迫力こそないものの、俺を非難する意思を色濃く醸し出している。まったくもって意味が分からない。
この俺に向かって、言うに事欠いて鈍感とは。的外れな罵倒にも程がある。今すぐ撤回してほしい。
対抗するように眉を寄せ見つめると、途端にオロオロと目を泳がせ始めた。いったい何がしたいんだ。
「……あの、私も暇じゃないので、話が終わりなら仕事を進めたいのですが。」
「えっ、あ、……その……も、もぉ!か、会長のオタンコナス!ばかぁぁ!」
こちらが話すように促したのに、彼女は幼稚な、暴言にもならない暴言を吐き、出ていった。意味が分からない。
オタンコナスって……久々に聞いたぞ、それ。彼女の頭の中はどうなってるんだ、一度確かめてみたい。
まったくもって時間の無駄だった。今度来たときには、手短にするよう言わなければ。
「……は?」
今度って。来ない方がいいんだって。……疲れてんだな、俺。今日はよく休もう。
自分の思考が一瞬ブレたのを自覚し、俺は大きなため息を吐いた。
オタンコナスなどと言い放ったこの子となど、もう気に留めない方がいい。うん、そうしよう。
”考えないようにしよう”。そう意識している時点で、まったく考えないようになんてできてないことに、俺はベッドに横になった時に気づいた。
次話から貴斗視点が始まります
 




