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乱される

景介視点です

「……水輿さん、何かご用ですか?」

「会長に会いに来ました!」

「忙しいのでお相手できません。後日、ご用のある時に来てください。」


3学期も半ば。模試も今年度は先日終了し、生徒会室で年度決済に追われていた俺の元に、何度目か分からない招かれざる客人が来ていた。

年末の大掃除の際、あちらの危機感の薄い行動から、わずかでも組に関わらせてしまった水輿舞菜は、なぜか度々俺に会いに来たと言って、生徒会室に入り浸るようになった。本当に意味が分からない。


「いいじゃないですか。私のこと、守ってくれるんですよね?」

「前も申し上げましたが、それは私の仕事ではありません。約束の1ヶ月も過ぎました。……それに、こんなどこで誰が聞いてるとも分からないところで口にしないでください。言い触らさないでくれと頼んだの、お忘れですか。」


口を尖らせ不満そうにしている彼女に、俺は眉を潜め、注意する。あの時のことを聞かれたら非常にまずい。俺が側近として若に付き従っているのを隠しているのは、若のご命令だ。それをこんなところで他人にバラされ、若からの信頼を失うわけにはいかない。


「えへへ、すいません。でも、会長、なんだかんだ追い出さずに話し相手になってくれてるじゃないですか。」

「あなたが一方的に話してるのを聞いているだけですが。」


というより、右から左に流していると言った方が正しい。書類処理のBGMにも、情報源にもならない、女子高校生特有の話題ばかりだった。ここまで興味も湧かず、食指も動かなかった話題も、なかなかない。

俺の言い様に、なぜか嬉しそうに、へへへ、と笑うと、いつものように俺に話しかけてきた。


「会長会長、これ!駅前のカフェで今フェアやってるんですよ。苺ですよ、美味しそうですよね。」

「今から行ってみては?明るい内に行って、危険のない内に帰宅するのをおすすめします。」


若は今、何をなさっているのだろう。こんなどうでもいい決済など放棄して、若の元へ行きたい。……お嬢が苺がお好きなら、若へそのフェアをご提案差し上げようか。デートプランの1つとしてご検討いただければ幸いだ。

手元は書類を捌き、耳は一応情報として機能させつつ、やはり俺の脳内は若に関連することで埋め尽くされていた。今の俺の最優先業務は、若とお嬢が日々を恙無く過ごし、その仲を深めるためのサポートだ。

クリスマスデートで、ついに若とお嬢はお心を通わせたようだ。以来、若のご機嫌も大変に麗しく、お嬢も幸せそうになさっている。

これを毎日、俺はすぐそばで見ていられるのだ。……なんて役得なんだ。若がお幸せそうにしているのを、間近で見られるなんて。

俺が若のことを思い、満足していると、彼女の方から不満げな目を向けられた。まったく意味が分からない。


「もー、会長乙女心分かってなさすぎですよ!会長を誘ってるんです!デートに!」

「……はぁ。キミはまったく分かってない。……私のことは、あの世界に知れ渡っています。顔も、名前も、立場も。私と関わりのある高校生、しかも非力そうな女性なんて、相手にしてみれば、狙って当然、襲って当然の存在。私を無力化できれば、茶戸家に多大なるダメージを与えることができるんですから。……あなたは、そんな浮わついた感情で、一生を危険に晒すことを許容するんですか。」


少々厳しい物言いだが、大事なことだ。若や親父の絶対の掟である、表と裏の区別をつけ、裏の事情で表に不利益を被らせない、というもの。俺が関わって、彼女を危険に晒すことは、茶戸家の組員として許されないのだから、そもそも関わるわけがない。

ということを、あの年末の時の説明の時に話したつもりだったのだが。こちらのことで悪影響を与えないように警護すると、言ったよな。警護について話したときに!

ダメだ、この子と話すとひどく疲れる。ペースが合わない、話も合わない。乱される。俺の心が、ペースが、時間が!……早いとこ退出いただこう。

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