見え隠れする傷
初音視点です
「初音、ここは現在進行形を使われてるから……。」
「あ、訳が違いますね。ありがとうございます、貴斗さん。……ごめんなさい。模試の勉強見てもらって。貴斗さんも模試あるのに。」
2月半ばにある模試まで残り半月になり、それに向けた勉強が本格化してきた。1年生の私より、来年受験の貴斗さんの方が大事なのに、私は貴斗さんに勉強を手取り足取り教えられていた。
そりゃ、貴斗さんがすごくすごく頭いいのは知ってるし、心配ないとは思うけど、申し訳なくなってくる。
私のそんな様子に貴斗さんは笑って、大丈夫と返してきた。
「俺は家業を継ぐ身だから、正直学歴とかそこまで関係ないし、高2の2月模試に出る程度の内容なら頭に入ってる。それに、こうして初音に勉強を教えることで復習にもなるし、初音の好感度も上がっちゃう。何より初音と一緒にいれる。ね?俺にとっては一石三鳥の状況なんだよ。気にしないで。」
「……はい。私も、貴斗さんに教えてもらえて嬉しいです。……あ、ここはこの訳で合ってますか?」
「んー、うん。バッチリ。初音は文が長い時に混乱しちゃうみたいだね。主語の切れ目とか、意味の切れ目に注意したら、もっとよくなるよ。」
貴斗さんはすごく分かりやすい的確なアドバイスをくれる。このまま貴斗さんに教えられたら、成績も飛躍しそうだ。
「貴斗さんって、どうしてそんなに頭がいいんですか?」
「え?」
「すごすぎます。追い付こうだなんて思ってはないですけど、それでも、自信無くしちゃいますよ。」
こんなすごい人が私の彼氏だなんて、信じられない。
そんな思いで呟くと、貴斗さんは苦笑いして答えた。
「初音に褒められるなんて、嬉しいね。……俺が色んな知識を集めてるのはもはや趣味だけど、必要に駆られてのことだからね。自信なくすことないよ。」
「必要に駆られて、ですか。何のきっかけで?」
「んー……見返すためにも、守るためにも、必要だったってだけだよ。さ、続きしよう。」
少し言いにくそうに目を逸らしながらそう言うと、すぐに話を逸らされてしまった。珍しい。
話したくないことだったのかな。誰にだって、話したくないことはあるもんね。それを無理に聞くことはない。
「そうだ、貴斗さん。最近駿弥くんが勉強に燃えてて。今度の模試絶対一番取るんだって。」
「あぁ……ちょっと前に駿弥くんに言われたなぁ。俺と景介を超えて、学校で一番になるって。そーなんだ、頑張ってるんだね、駿弥くん。」
話を反らすために出した駿弥くんの話題に、貴斗さんも表情を変えた。嬉しそうに目を細めている。
「貴斗さんと会長を?すごい、ですね。貴斗さんに勝とうなんて、私なら考えもつきません。」
「俺は期待してるよ。駿弥くんが俺を超えてくれたら、俺は奪還する楽しみが生まれる。駿弥くんがライバルになってくれたら、それほど嬉しいことはないよ。」
本当に楽しそうな表情でそう言う貴斗さんに、思わず笑ってしまった。
ライバルになってくれたら嬉しい、なんて、余裕の発言だ。さすが貴斗さん。校内随一の天才は、言うことが違うなぁ。
「駿弥くんが貴斗さんのライバルになるんですね。きっと、駿弥くんならいい線いきますよね。貴斗さんも、いいライバルになると思いますよね。」
「んー……。正直言うとね、俺の認めるライバルは景介だけなんだ。後にも先にも、景介以外のライバルは現れない。確信、してるんだ。」
「現れないんですか?駿弥くんは?」
「駿弥くんはあくまで校内に限った話だよ。高校レベルの対決に、俺は本気にならない。……さっき言った嬉しいってのは、前提としてなり得ないけどって言葉がつく。あるでしょ?絶対手に入らないけど、叶ったらいいなって。そういうもんなんだ、俺にとってのライバルって。」
少しだけ寂しそうにそう言った貴斗さんは、すぐにその空気を打ち払い、勉強を進めた。
なんだか今日は、貴斗さんの辛そうな、苦しそうな顔ばかり見てしまった。昔になにかあったんだろうと分かっちゃうくらいだ。いつもかっこよくて、優しくて、頼りになる姿ばかり見せてくれてたから想像もしなかったけど、貴斗さんにもそういうことがあるんだ。
……私が、貴斗さんのそういうところを支えてあげられるくらい頭良かったり、頼りになれたりしたらいいのに。そしたらきっともっと貴斗さんは、私のこと見てくれるのに。
……何か、私なりの形で貴斗さんの助けになれること、あるかな……?
次話から景介視点が始まります




