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いるはずがないのに

景介視点です

今日は年内最後の町内大掃除……もとい、業内整理の日だ。

組の容認している範囲から逸脱した違法行為を取り締まるこれに、今日は若が現場責任者として臨場なさっている。茶戸家としても、今日のことを問題視しているということだ。これがもっと大きなものならば、親父が臨場なさるところだが。


「若、首謀者を捕らえたと連絡が。」

「ん、オッケー。ブツは残らず回収してね。ちゃんと確認して。万が一にも出回ることがないように。」

「心得ております。監視も任を解き、回収に当たらせます。よろしいでしょうか。」

「……2、3人は残して。主要なとこ見ててくれたらいいよ。」

「承知しました。」


若のご指示通り、人を配置した後は、俺も回収に向かう。今日の取引は薬だ。一般に広まれば、甚大な被害が出てしまう。1つ残らず回収、処分しなければ。

取引場所となっていた倉庫を隅々まで探し、すべての薬を回収し終えた。後は若にご確認いただき、引き上げるだけだ。俺は若を呼びに倉庫から出て、路上に停めている車へ寄っていった。


「これで年内の大仕事は最後になればいいが……。」


そんなことを考えながら歩いていると、コツ、と小さな物音がした。

ふとそちらへ目を向けると、女の子と目が合った。


「……は?」


なぜここに女の子?監視は何をしている。まずい、早く遠ざけなければ危険だ。

瞬時に頭の中で様々なことを考え、俺はすぐ保護に動き出した。ここで俺の姿を見られたのは痛いが、だからといって誤魔化して放っとくわけにはいかない。

薄暗い中を近づいていくと、その子は動くこともなく俺の顔を凝視している。何か俺のことで気にかかることでもあるのか?そう思いながら進むと、相手の顔が見えてきた。


「……は?」


再び、俺は驚きで足を止めた。

見覚えがある。うちの学校の中で。……ていうか、うちの学校の生徒だな。

頭の痛い事態に、俺は大きなため息をついた。まさかこの子に見られるとは……。

俺のことをじっと見ている彼女は、水輿舞菜。お嬢のクラスメイトの、あの、水輿舞菜だ。俺も文化祭の前日に一度顔を合わせ、話したことがある。

さて、……どちらの顔で対応したものか。仕事の顔?問題しかない。この子を裏側に引き込むことになる、それはよろしくない。なら会長か?……いや、ここにいて、彼女を保護する理由が会長にはない。


「えっと……とりあえずこっち来てください。」


困ったのは困った。だが、とにかく危険のない場所へ誘導しなければ。俺は彼女の手を引き、明るい場所まで移動した。

移動中も、俺の頭の中は混乱でグルグルと高速回転していた。どこまで話すべきか、どう話すべきか、とても悩む。若にご報告とご相談をすべきか?そんなことを彼女の前でやったらバレる。どうするべきか。

明るい場所へ出ると、少し状況が整理できたのか、彼女が話しかけてきた。


「あの……会、長……ですよね……?うちの高校の。その格好は……。」

「……はぁ。……ばっちり顔バレしてますよね、さすがに。」


少し怯えた風に及び腰になっている彼女は、それでも俺から目を反らさなかった。

彼女の言う’その格好’とは、高校生の身に合わないこのスーツのことだろう。機能性の高いスーツで、最高級とまではいかないが、それなりに値の張るものだ。茶戸家の一員として、粗悪品を身に付けるわけにはいかない。その一心で用意したものだ。

高校生としては不自然な格好。これの弁明もしなければけないか?……これはさすがに面倒だな。ていうか、俺の仕事か?俺はいち早く若の元へ向かわなければいけないのに。


「……水輿舞菜さん、でしたね。なぜ今この時間にここへ?」

「え、あ……その、家、近くて……。塾、から帰るのにここ近道なんです。」

「これからはやらない方がいいでしょう。この先の倉庫、治安悪いので。女子高生がこんな時間にたった1人で彷徨くなんて、襲ってくれって言ってるようなもんですよ。」


危機感のない言葉に、目眩のする思いで忠告する。茶戸家が本拠地にするこの町に住んでいて、これほどまでに危機感のない人間が育つなんて……信じられない。

俺の言葉に、相手は少し残念そうな顔で頷いた。……本当に俺の言ったこと分かってんのか?


「……あの、会長……。」

「あぁ、今は触れないでください。……上役に相談します。ここで、大人しく、静かに待っててください。」


念を押して言うと、俺は心持ち離れてから若へ連絡を入れた。やはり、この件はご報告しなければ。危機感のなさも含めて。

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