新たなる考え
駿弥視点です
俺の言葉に、会長は、ハハっ、と笑い、少し呆れたような顔をした。
「頑なだね。確かに、周囲に損害はないように思えるねぇ。」
「ならば、僕が誰を排そうと構いませんよね。」
「まぁ、俺が直接困るのは、初音ちゃんに直接何かされたときだから、それまでは構わないっちゃ構わないんだけど。より良い状態を目指すのは、我ら人間の努力義務、じゃないか?」
会長の言に、チラリとそちらへと目を向ける。
より良い状態を目指す。確かに、すべきことだ。会長の言う通り、努力義務の範疇と言える。
俺が納得したのを感じ取ったのか、会長は先を話し始めた。
「人材育成だと思ってさ。駿弥くんが話してもいいと思えるくらいの才能を、自分で育ててみたら?」
「……僕が?」
「そう。」
にこりと笑みを浮かべる会長は、この提案を本気をしているらしい。
俺は一度よく考えてみた。俺が人材育成。人に教授する、なんて、俺がやるのか?……至極、面倒だ。相手の理解が遅ければ苛立つ自信があるし、基礎からなんてまどろっこしくてやってられない。そんなことをするくらいなら、自分の知識を増やした方がマシだと思うことだろう。
「……自分に教師は向いてないと思いますけど。」
「そうかな。初音ちゃんは教え方上手って褒めてたよ。詳しいことまで教えてくれるって。貴斗は概要を説明するばっかだから、貴斗の言ってたことがより細かいところまで知れて嬉しいってさ。」
「……彼女が。そうですか。」
やはり先パイに先に聞いた上で俺に聞いてたのか。一応事前知識を持ってるようだと思っていたが、出所は想像通りだ。
彼女の方へ目を向け、瞬間そう思ったのを頭を振って思考から消す。着目すべきはそこじゃない。
彼女が……宇咲さんが、俺を教師として先パイと比べて評価していた。教師役に耐えうると判断したのか。
俺はこれまでのことを思い返した。度々、彼女は俺に話を聞いてきていた。俺が次に先パイたちと話そうと考えていたテーマについて、どんなものか、と。聞かれる度に、煩わしく思い、でも頭の中の知識を吐き出す場と考え、素人相手に酷なほど専門知識を交えて話をしていた。
ガキか……反省しなければ。大人げないにもほどがある。こうして評価してくれてた相手に対して失礼すぎだ。これからは態度を改めよう。
「……会長のご意見、検討してみます。」
「そっか。人材育成、頑張ってね。」
「景介、駿弥くん。何話してるの?」
前を歩いていた先パイがこちらを振り返り、声をかけてきた。宇咲さんもこちらを見ている。2人の話は一段落着いたのだろう。
「んー、駿弥くんのお悩み相談室ってところかな。」
「何それ。景介が?駿弥くん、変なこと言われてない?」
訝しげに見てくる先パイは、俺を心配そうに見つめた。おそらく一番親しい仲であろう会長を咎めるように見てからそんなことを言うものだから、とても違和感がある。先パイと会長は仲いいんだよな?
「はい。適切な指摘をいただけたかと。」
「ふーん。まぁ、ならいいけど。俺たちはここで。駿弥くんまたね。」
「はい。次の機会も楽しみにしています。……宇咲さん。」
「!どうしたの?駿弥くん。」
「……その、分からないことがあれば、いつでも聞いてほしい。宇咲さんでも分かるような説明ができるよう努めるから。」
俺がそう言うと、彼女はとても嬉しそうに満面の笑みを見せた。
「ありがとう、駿弥くん。たぶん……ううん。絶対いっぱい聞いちゃうけど、頼らせてもらうね。」
「……。また、明日。」
「うん、また明日ね。バイバイ。」
小さく手を振る宇咲さんに、少し気まずい気分で背を向けた。
3人と別れ、家までの道で俺は会長に言われたことを深く考えた。
人材育成。今まで俺にはなかった考え方だ。今までは、俺は必ず一番で、他者の追随なんて不可能なほど独走しているのが正しい姿だと思っていた。だから、俺の持つ知識を誰かに与えるなんて、最初から頭になかった。誰かに与えたら、いつか追い付かれてしまうから。
けれど、俺は同等の頭脳を持つ人と話すのが楽しいと今は分かっている。ならば、追い付かれることを恐れて知識を秘匿するよりも、教え育てて、俺と議論できるまでにしてしまった方がいい。そう思える。
「……まずは教育論を覚えなければ。」
宇咲さんの嬉しそうなあの笑顔を思い出し、俺は1人呟いた。
やるからには最大限の結果を残さなければ。最善を尽くそう。
次話から景介視点となります




