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腹立たしい存在

駿弥視点です

「心理学って、面白いですね。」

「でしょ?心理テストはこれを基に作ってるから、そう考えると結構身近だよね。」


今日先パイたちと有意義な話し合いができた。最近では、帰り道でも一緒になり、色々なことを話すようになっていた。

目の前では、先パイと宇咲さんが楽しそうに心理学について話している。次に話したいと先パイが指定してきたものだ。宇咲さんに話しているのは、その基礎中の基礎で、高校生でも理解できるように噛み砕かれた内容だ。……正直、先パイの能力で考えれば、幼稚すぎて時間の無駄だとすら言える。


「……会長、宇咲さんはなぜ話を聞きたがってるんでしょう。どうせ分からないのに。」


冷めた目で彼女を見つめ、会長に不満を匂わせながら問う。

彼女は先パイの恋人、らしい。だから俺は、彼女が話に混じろうとするのも、彼氏である先パイの気を引くためだと思っているし、ほぼ間違いないだろうとも思っている。

理解もできないくせに議論に混ざり、中断させてまで聞いてくるその行為に、腹立たしささえ感じる。

俺の苛立ちを感じたのか、会長は苦笑しながら答えた。


「初音ちゃんは努力してるよ。もちろん、俺たちの話に混ざるには、まだ時間がかかりそうだけどね。それに、知識を得ようとするのは、褒められこそすれ、咎められるようなことじゃないだろ?」

「知識を得るのは努力義務であり、褒められることではないでしょう。理性と思考力を持つ人類として当然のこと。俺が言ってるのはそうではなく、身の丈に合ったものから始めるべきで、今の彼女のレベルで無理矢理混ざろうとするのは、愚かだってことです。」


たまに俺にまで話を聞きにくる彼女は、基礎どころか学問領域すら不理解なほど。俺が先パイたちと話している内容に比べたら、天と地ほどの差がある。そんな状態で話に入ってくるなんて、分不相応もいいところ。もっと理解を深めてからにしてほしい。

棘のある俺の言葉に、会長は少し考え込み、なるほどね、と小さく呟いた。そして、俺に目を向け、口を開いた。


「駿弥くん。君は今まで、同レベルで話せる相手がいなかったんだよね。それがここにきて、俺と貴斗に出会い、初めて対等に話せる相手ができた。……駿弥くんは、その事実に恋してるんだよ。」


会長は愉快そうに笑みを浮かべ断言すると、進行方向へ目を戻した。

俺は会長の言葉を飲み込めず、思考停止状態だ。今までに経験したことのない現象に、頭の隅の方で処理が進むも、遅々として思考は動かない。

……恋?俺が?……先パイたちとの議論は確かに新鮮で、学生生活の中でも、一等素晴らしい時間だと思っている。……しかし……。


「……理解できません。」

「あれ、期待の秀才くんが敗北宣言?まぁ、俺も少し詩的な言い方したしね。……執着してるって言った方が、分かりやすいかな。」

「執着……。」

「そ。君は俺や貴斗と話すことに重きを置いている。そして、そこに他者が入り込む必要はないと思ってるんでしょ。俺と貴斗、そして駿弥くん。この3人の世界だけが広がってれば満足。そう考えると、初音ちゃんは、その世界を邪魔する存在ってところだね。」


会長の説明に、徐々にイメージができた。そうだ、俺は先パイたちと3人の世界が広がっていれば満足なのかもしれない。だって、俺と話のレベルが合うのは2人だけだ。話が通じるのも、話が合うのも、2人だけだ。

他の人とは、程度が違いすぎていて、話すのも嫌になってしまう。なら、どうして他者を入れる必要があるだろう。そう考えてしまう。


「……執着、なんですか。これ。」

「少なくとも、俺にはそう見えるよ。」

「そうですか。……ですが、それに何の問題が?他者を排したところで、害する訳でも損する訳でもないでしょう。」


まぁ、彼女にしてみれば、恋人である茶戸先パイとの時間を奪われていることになるのかもしれないが。でも、俺と先パイたちとの議論を前にしては、大した犠牲でもないことだ。校内での1時間程度、大人しく明け渡してほしいものだ。

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