若と俺、気分のいい夜
景介視点です
これからまた少し拷問などの描写が始まります。詳細には書かないようにしますが、苦手な方はご注意ください。
「ふんふんふふーん。」
「若、何かいいことでもございましたか?鼻歌なんて、珍しいですね。」
「ん?あぁ、ごめんごめん。すっごくいいことがあったんだー。」
若はここ最近でも特に機嫌のいい笑みを浮かべ、あまつさえ鼻歌まで奏でている。若の機嫌がいいようで俺も嬉しいが、何があったのだろう。まぁ、大方の予想はつくけれど。
「初音がねー、ふふっ。8年前のこと話したら、意識してくれちゃって。俺のこと、名前で呼んでくれるんだって。好きになりたいからって。」
「お嬢が!それは喜ばしいことですね。」
「うんうん。……一芝居打った甲斐あったってもんだよ。」
若の一言に、俺は笑みで以て応える。お嬢には決して見せられたものではない。
「卯次の奴等はほーんと、うまく転がってくれたよねー。」
「そうですね。まさかあんな穴だらけの情報で、こんな早く釣れてくれるとは思っていませんでしたが。」
若とともに、隠しきれない笑いを漏らす。
今日の襲撃は、裏で俺と若が動いたものだ。ほんの少し、一般人の中に茶戸家と親しくなった存在があると噂を流すだけで、簡単に釣れてくれた。しかも、わずか1ヶ月半で。
「まったく……我々の手のひらの上とも気づかず、滑稽な奴等でしたね。」
「ほんとにねー。ま、あそこはヤクにも手出してたし、ちょうどよかったよ。あっちからしたら、運の悪い厄災みたいなものだっただろうけど。……あ、ね、景介。こことかどうかな。」
「そうですね……。そちらでしたら、イルミネーションが東口側から見るとよりきれいに見られると聞いたことがございます。夕方に行けば、雰囲気もいいのではないでしょうか。」
「へぇ、そうなんだ。じゃ、ゴールはここでプラン立てよーっと。」
若は楽しそうに、お嬢とのクリスマスデートのプランを考えている。傍目で見ても分かるほどに上機嫌で、’クリスマスデート特集’と銘打たれた雑誌を捲っている若に、俺も知っている情報を提供する。学校の世間話で手に入りやすいカテゴリだから、出せる情報も多種多様だ
「昼から始めるのでしたら、駅前のリーズナブルなイタリアンなどいかがでしょうか。あまり緊張させずに食事のできる店がいいかと思います。」
「ん、そうだね。なら、早く予約しないと。駅前スタートの遊園地ゴールかぁ。9時までに終わりたいからなぁ。」
初めてのことで、若もより最良がないかと悩んでいる。珍しいその姿に、それほどお嬢のことが大切なのかと、微笑ましくもある。
「若、お話の途中ですが、私は少々失礼いたします。取り調べに向かいます。」
「はいはーい。好きにやっていいけど、くれぐれも初音たちにはバレないようにね。」
「承知しております。では。」
若の部屋から退出し、逸る気持ちのまま、足早に地下室に向かった。
俺の趣味部屋、拷問もとい取調室は、北西の端にある階段からしか行けない。そして、階段、部屋前の扉は頑丈に施錠されており、その上防音なども過剰なほど為されている。うん、バレる心配はないだろう。
山のようにいる取り調べ対象者に、興奮が抑えられないほどだ。今日はどれを使ってやろう。丁寧に手入れをしてある愛用品たちを手に取り、1つずつ吟味していく。鞭、ペンチ、縄……。いかんせん、人数が多い。一人を相手にしている間、手と目を離していても可能なものが好ましい。
「よし、今日はこれにしよう。麻縄……5本あれば足りるか。」
俺は今日の獲物を決め、室内へと入った。
怯えと敵対心を孕んだ瞳が6人分。俺へと向けられる。ぞくぞくしてたまらない。これからこの目が、絶望に打ちひしがれるのを見届けるのだ。
高揚していく体を悟られないように平静を装いながら、俺は笑みを浮かべた。




