信じられない答え
初音視点です
いたずらに笑みを浮かべ、先輩はそう聞いてきた。
名前も顔も忘れていた。ただあの約束しか覚えてなくて、会えないって諦めてたのに。先輩はずっと探してくれてたんだ。8年間もの長い間。
感動で胸がいっぱいになったところで、私はふと思い出した。先輩はなんと言ってこの話を始めたんだったっけ。
「……え……っと、え?は、初、恋……?」
「あ、気づいた?俺の初恋の子は初音だよ。」
「えぇ?!」
私の反応に、先輩は面白そうに笑った。反対に、いきなり先輩にそんなことを言われた私は大パニックだ。
先輩の初恋の相手が私……?そんなの……信じられない。だって、先輩だよ。私なんかより色々できて、優しい先輩が……?人違いじゃないの?
「……初音。ずっと、……ずっと初音を探してたんだ。8年前のあの日から。諦めきれなくて……ずっと好きだったんだ。」
「……せ、んぱい……。」
ストレートな物言いに、私の顔はどんどん熱くなっていく。先輩のこれまでに見たことのない優しくも真剣な眼差しに、目を合わせるのも恥ずかしくなって、私はうろうろと視線をそこら中にさ迷わせた。
今まで考えたこともなかったことだ。頭もよくて、運動神経もよくて、優しくて、仕事だってできちゃう。先輩は万能超人なんだ。そんな人が、まさかこんな普通で、たいしてなんの取り柄もないような私のことを、8年前にたった一回だけ、ほんの少し会ったことがあっただけの私のことを、好きでいてくれてたなんて。夢なんじゃないかな。
言葉が出てこない。混乱してなにも考えられず、アタフタとしている私に、先輩は少し嬉しそうに目を細めて微笑んだ。
「よかった。間髪入れずに断られるって可能性も考えてたからね。大丈夫、今すぐ返事をしろなんて言わないよ。ただ、俺が初音を大切に思ってるって気持ちを知ってもらいたかっただけなんだ。初音の中で、俺に向ける気持ちが1つの形を取ったら、その時に言ってくれればいいよ。」
「そう、ですか……。」
「うん。まぁ、欲を言えば俺のこと、恋人として好きになってもらいたいけど、それは俺の努力次第。俺が頑張ればいいことだもんね。うん。初音は、今まで通りいてくれればいいよ。」
先輩のその言葉に、ホッとしたような少し残念なような心地で俯いた。
まだ私が先輩にどういう意味の気持ちを持ってるかは分からない。でも、嫌いではないのは確か、だと思う。だって、先輩の隣にいるのは安心できるし、一番に頼るべきは先輩だってちゃんと分かってる。
私は先輩のこと、どう思ってるのかな。
次話から景介視点になります