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やっぱりすごい人ってすごいんだなぁ

初音視点です


前話の前書きにも書きましたが、載せている論文に関しては、ネットでさらっと読んだ程度の知識で書いています。間違いがあった場合はご指摘ください。

「へぇ、駿弥くんからのお誘いかぁ。俺はいつでも空いてるよ。景介は?」

「俺は貴斗に合わせるよ。幸い、今は立て込んでる訳じゃないからね。」

「オッケー。初音、駿弥くんに、明日の放課後会おうって伝えて。俺が初音のクラスに行くから、そこで待ってて。」

「明日、ですか。分かりました。」


昼休み、私はさっそく先輩に駿弥くんのことを話した。思った通り、嬉しそうに駿弥くんの話を聞いた先輩は、すぐに会う予定を入れ込んだ。会長も楽しそうに笑っている。


「にしても……何の話だろうねー。」

「なんか、難しくて分かんなかったんですけど……集合、行為論?とかって……。外国の人の論文で、確か……オルソンさん……?って人の。」

「集合行為論のオルソンさん。マンサー・オルソンのことかな。政治経済学者の。」

「えっと……そんな名前だったと思います。」

「そっか。なるほどねー……。また変な論文知ってるよね。高校生が議論できるモンじゃないのに。」


よく分からないけど、先輩には何の論文か分かるみたいだ。相変わらずすごい。変な論文を知ってるのは先輩も変わらないのに。笑う先輩の言葉に会長も頷いているのを見ると、会長も知ってるみたいだ。

先輩も会長も駿弥くんも知ってる論文。理解できるとは思わないけど、どんな内容なのかは少し気になる。先輩なら、聞けば教えてくれるだろうか。

私がそっと先輩を窺い見ると、先輩はすぐに私の視線に気づいた。どうしたの、と聞かれた私は、慌てて目を逸らし、弁明した。


「た、大したことじゃ、ありません。……その論文って、どんな内容なのかなって……。」

「どんな内容、かぁ。そーだねー……。集合行為論てのは、簡単に説明すると、集団で何かするときには、小集団であること、非協調者に対して強制を加えること、協調者に対して報酬を与えること、この3つのいずれかを満たすことが達成に必要になるって考え方ね。」


先輩のたぶん噛み砕いてくれただろう話を、私はうんうん唸りながら考える。しかし、イマイチ要領が掴めない。結局どういうことだろう。

私が行き詰まったのを察したのか、先輩はさらに説明を重ねてくれた。


「具体的にいうと、税金で考えてみようか。俺たち日本国民は、集団で納税という行為をする。この時、大人数の内の1人だと、自分1人が払わずとも大して影響は出ないと考えて脱税する人が出てくるかもしれない。その集団の中での自分の貢献度が見えづらいと起こる問題ね。」

「それで最初の、小集団であるって条件が出てくるんだ。1つのグループの人数が少ないほど、貢献度が見えやすいからね。」

「あ、なるほど……。確かに、10個の作業を10人でやるより5人でやった方が仕事量が増える分、やった実感が出るのかもしれません。」


1つ目のイメージが何となく掴めた。誰だって、自分のやった仕事がみんなの役に立ってるって思いたいものだ。大勢の中で小さな仕事を任されるより、少人数の中で重要な仕事を任された方が、やる気が出るってことなんだろう。

自分なりの理解をすると、先輩は優しく微笑んだ。たぶん、それで合ってると言いたいんだと思う。私は少しだけ嬉しく思いながら、先輩たちの話の続きを聞いた。


「次の条件は、いわゆる罰則についてだね。納めるべき税金をちょろまかしたり、脱税したりした人たちに対して、罰則を設けることで無理矢理従わせる。それによって全員が税金を払わざるを得ないようにするんだ。」

「罰を受けたくなかったら払いなさいっていう強制、ってことですか?」

「そういうこと。最後の条件は、単純に、報酬を与えなさいってことなんだけど。人間は得てしてみんな損得勘定で動くものだからね。税金を払ったらこんないいことがありますよってしないと払わない人が出てくるってことなんだろうね。この場合の報酬ってのは公共サービスになるんだけど。どう?分かった?」


具体例を出してもらえば、とても分かりやすいことだ。私は、先輩の問いかけに頷いた。

やっぱり、先輩や会長くらい頭がいいと、人に教えるのも上手いみたいだ。どう説明したら理解できるのか、分かってるのかもしれない。


「難しいのは分かってたんですけど、やっぱり私は聞いただけで理解するのは時間がかかりそうですね。先輩も会長も駿弥くんも、どうしてその論文に興味を持ったんですか?高校生が知ってなくてもいいんですよね?」

「うん、これは大人でも詳細な内容を知ってる人は少数じゃないかな。駿弥くんは分からないけど、俺らのは完全に趣味だね。俺は組の運営に必要な知識を得ようと思ってジャンル問わず片っ端から色々調べてたら面白くなっちゃって。今じゃ、目についたら一通り読むようになってるんだ。」

「俺は貴斗に付き合って一緒に調べて読んでたから、かなぁ。そっから知識集めにすっかりハマっちゃって。」


2人の話に、私は絶句した。こんな難しそうなことを知るのが趣味だなんて、信じられない。しかも、普段からあんなに忙しそうにしてる2人がだ。いつそんな時間があるんだろう。やっぱりすごいなぁ……会長も、先輩も。

次話は貴斗視点が始まります

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