先輩と会長って幼馴染み……だよね?
初音視点です
「か、い……ちょう……?」
悠然と微笑み室内で待っていたのは、私たちの通う旗下高校の生徒会長だった。
意味が分からず呆然としていると、会長は静かに近寄ってきて室内へと誘った。その優美で余裕のある身のこなしと雰囲気が私の知る会長のものとはまったく違うものに感じられ、この人と会長がまるで別人なんだと、自分の中で理解させられたように感じた。
「……どう、いうこと……?か、会長……なんですか……?」
「今まで校内でお会いしていたのは、私で間違いございませんよ。」
「先輩の……、会わせたい人が……。」
「まぁまぁ、落ち着いて。とりあえず座ろうよ。」
先輩の言葉に、素早く会長が動くと、私の前に置かれていた椅子を引いてくれた。そつのないエスコートに、先輩との類似点を見てとれ、2人が幼馴染みだったことを、ふと思い出した。
幼い頃から一緒にいるから、似たのかもしれない。なら、側近っていうのも、大袈裟に言っているだけで、ちょっとだけ手伝ってるってだけかも。
頼りになる会長が先輩の仲間だなんて信じられなくて、信じたくなくて、私はそう考えた。
「若、今お飲み物をご用意いたします。」
「うん。初音、紅茶いける?ココアとかもあるけど。」
「……あ、だ、大丈夫です……。紅茶、飲めます。」
会長の出してくれた紅茶を一口飲み、気持ちを落ち着かせる。
元々、先輩と会長は仲がよかった。そんなに動揺することじゃない。
私は、改めて席に着いた会長を見た。雰囲気は学校にいるときとガラリと変わっているけど、中身は優しいままのはずだ。先輩よりは少なくとも安全なはず。先輩が何かしてきそうになったら、止めてくれるだろう。
「さて、話を始めさせていただきます。……若、彼女のことはなんとお呼びいたしましょう。」
「好きなように呼べば?初音が嫌がらないってのは絶対条件だけど、学校と家で弁えてれば縛りをつけるつもりはないし。」
「心得ております。……では、お嬢、と。よろしいでしょうか。」
「お、じょう……。……あ、かまいません!お、お好きに呼んでください。」
会長ににこりと笑みを向けられ、私は呆然としていた頭を慌てて動かし、咄嗟に頷いた。
にしても、お嬢って……。現実でそんな呼び方されることなんて、考えたこともなかったな。恥ずかしいというより、違和感が勝ってるよ。
会長は私の返事に満足そうに頷くと、姿勢を正し、話を始めた。
「ありがとうございます。では、お嬢。私は現在、若付きの補佐役を任されております。お嬢のことも、私が対応させていただくことが多々あるかと思います。何かございましたら、どうぞお声掛けください。」
「は、はい……。あ、あの……私にそんな、丁寧にしなくても……。いつも通りしてください、会長。」
会長に敬語を使われるなんて、落ち着かない。身の置き所に困ってしまう。
私がそう言うと、会長は少し困ったような笑みで首を振った。
「申し訳ございません、お嬢。若の縁者となったお嬢は、この組の中では既に私よりお立場は上になります。若の側近である私が、その序列を無視した振る舞いをするなど、許されるものではございません。どうかご容赦ください。」
「ごめんね、初音。特殊な慣習だけど、これがこの世界のルールなの。景介はちょーっとオーバーだけどね。」
「何をおっしゃいますか。私は一介の組員に過ぎません。上位者である若とその縁者に敬意を払い接することは当然のことです。決して、過ぎたことではございません。」
「まったく……。俺はいいけど、初音を困らせないでね。」
「もちろんです。」
先輩の呆れた声と会長の笑みに、早くも私は困惑した。
どう見ても会長が先輩のことを上に見ていて、手伝ってるだけって感じじゃない。もしかしたら、私の思ってるような関係じゃないの?
私は怖々した心境で二人のことを見つめた。