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やっぱ張り合いがなくちゃつまんないよね

貴斗視点です

「景介、準備はできてる?」

「はい、若。今日この日を待ち望んでおりましたからね。万全の状態ですよ。荷物はすでに車に積んでございます。いつでも出発可能です。」

「ありがとー。んー、じゃあちょっと早いけど、もう行こっか。景介も待ちきれないでしょ?俺ももうとっくに臨戦状態。早くしちゃお。」


今日はとうとう待ちに待った裏街監視。俺は朝からご機嫌だった。

全ての準備を終え、予定より少し早いものの、景介と共に裏街へ向かった。



「景介、あそこの住人のピックアップは最新のなんだよね。手応えありそうな奴はいる?」

「……こいつはどうでしょうか。ここ半年の新入りですが、腕っぷしがいいと。」

「ふーん。あはっ、経歴もいいね。んー、この人もよさげ。前回よりは期待できるかな。」


現在の裏街の様子についてまとめてある書類を2人で見ながら、今日の獲物に狙いを定めていく。

俺が裏街を掌握してから裏街の住人たちはずいぶん腑抜けたものになってしまった。俺のポリシーに従い、世間に悪影響が出ないように調整した結果、誰も俺たちに喧嘩を売ることもなければ、俺たちの満足のいく実力を持った奴が出てくることもなくなった。それでいいと思う反面、裏街で思う存分暴れられなくなった不満もある。中2の時に暇潰しで手なんて出すんじゃなかった。


「今日こそやりがいのある奴がいればいいなぁ。景介、よさそうな奴がいたら遠慮なく手出していいから。俺は俺で楽しんでるよ。」

「はい、お言葉に甘えさせていただきます。……あぁ、そろそろですね。柳田さん、終了し次第、電話します。着替えは持っていきます。」

「分かった。若、到着です。お気をつけて。」


車から下り、目の前の薄暗いエリアに俺も景介もつい口端が緩む。景介と2人、互いに見合い笑った。ボルテージはすでに最高潮だ。楽しみすぎて、目が爛々としているのが分かる。


「ふふっ、いいねぇ、ワクワクしちゃう。行こう。」

「はい。」


足を踏み入れると、もう空気が変わる。四方から飛んでくる鋭い視線に胸が高鳴る。とはいえ、俺たちの顔を知ってる奴もいるのか、物陰で様子を伺っている奴が多数だ。昔は足を踏み入れた瞬間、問答無用で襲われていたのに。


「んー、どこかなぁ……っと。あれじゃない?景介。あのビルの。」

「あれですか?……そうですね。行きますか。」

「うん。おにーさぁん、あーそーぼー。」


目当ての人物を見つけた俺は、満面の笑みを浮かべ、無邪気を装い呼び掛けながら軽やかに駆け寄り、男に殴りかかった。戯れに繰り出した拳はけして鈍くはない。男はぎょっとしたように目を開きながら後ろに飛び、ギリギリで回避した。


「な、何すんだてめぇ!」

「えー?暇だからおにーさんと遊びたいなーって。おにーさんそこそこ強そうだし。ね、いいでしょ?」


男は俺と景介の顔を睨み、何かに思い至ったように身構え叫んだ。


「お、お前ら……茶戸の……!?」

「あ、知っててくれたんだー。嬉しーなぁ。てわけで、おにーさん俺と遊ぼうよ。安心して、これ、家は関係ないからさ……っ!」


断られる前に再度飛びかかり、そのまま喧嘩へと雪崩れ込む。ちらりと目の端に入った景介も、獲物を決めたらしい。慇懃な風を装った笑みで誰かに近寄っている。これで互いに心置きなく自分の喧嘩に集中できる。


「あはっ……ねーねーおにーさんそれ本気?まだいけるでしょ。」

「……くっ……て、めぇ……おい!」


男の呼び声に、もう2人参加者が増えた。男の手下といったところだろう。

これは楽しくなってきた。一方的に嬲るのは趣味じゃない。防戦一方になっている男1人よりも、3人だろうが同程度の力で向かってきた奴に勝ってこそ、喧嘩は楽しいものだ。


「わぁお。いいねー、大歓迎だよ。みーんなで楽しく、喧嘩しよーね……!」


と、はりきったのも束の間。もうすでに3人とも地に伏せってしまった。楽しめる間も短かった。肩慣らしにもならなかった。つまらない。


「若。……おや、いつの間に2人も増えたんですか。」

「景介ー、やっぱ裏街張り合いなくなっちゃったよねー。ぜーんぜん楽しめなかったよ。景介は?」

「私も同感です。あぁ、若。お顔に血が。失礼いたします。……ところで若。先程の相手が、耳寄り情報をくださいまして。」

「耳寄り情報?へぇ、何?」


景介が俺の頬を軽く拭いながらもたらした情報に、俺は興味を示した。ここの奴がもたらす耳寄り情報なら、とても愉快なものだろう。


「ここから通り3つ過ぎたところに、ここらで一番強い奴がいると。」


その情報に、俺は目をきらめかせた。ここの人間が認めるここらで一番強い奴。興味がそそられる。これは、俺が相手しない理由はないだろう。少なくとも、あの3人よりは、楽しい喧嘩ができるかもしれない。

大人しく景介に顔を拭わせるも、先走った体はうずうずして仕方ない。俺は目をキョトキョトさせ、周りを見回した。


「……よし、景介、行こっか。じゃ、おにーさんたちありがとねー。また会えたら相手してね。」

「若、こちらです。」


景介の先導で裏街のさらに奥へ進んでいく。重暗い雰囲気が澱みのように立ち込めるエリア、この先に件の人物がいるらしい。

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