君だったのか、……見くびってたな
景介視点です。
チャレンジャーとして連れてこられたのは男子だった。眼鏡越しに静かな瞳で若と俺を見据え、落ち着いた様子で口を開いた。
はて、見覚えがあるような。
「……貴方方が問題の製作者ですか。」
「そーだよ。おめでとー、最高難度初のクリア。すごいねー、知ってたの?」
「1問目はフランスのことわざでしたね。マイナーな言い回しでしたが、知られていないものではなかったので。」
若の言葉に、変わらず落ち着いて答えている。どこか違和感のあるやりとりに内心首を傾げながら、2人の会話を聞いていく。
「マイナーな言い回しって知ってて覚えてるのがすごいよ。3問目は難しかったでしょ。化学の反応式。あれも知ってたの?」
「中学の頃に目に止まったので。先パイ方も、ご存じの方がいるとは思いませんでした。」
静かに若と俺の2人を見据える彼に、違和感の正体が分かった。あれだけのどよめきと歓声を受けたんだ。最高難度クリアがどれほどすごいことか分からないはずないだろう。でも、少しも喜んだ様子も得意気な様子もない。平然と、まるで解けるのが普通だと言わんばかりの態度だ。
「俺たちは半分趣味みたいなもんだしねー。学校でやることもみーんな知ってるから暇でさぁ。テキトーに色々手ぇ出してんの。ねー、景介。」
「あぁ。だからすごく驚いてるんだ。俺ら自身、自分達が持つ知識が高校生が持つものじゃないって分かってるから、同じ高校生で分かる人がいるなんて、思ってなかった。……あ、そうだ。この学校の代表として、この秀才くんに敬意を払おう。俺は湧洞景介。この学校の生徒会長をやってます。」
「あはっ、確かに。じゃー、俺も。俺は茶戸貴斗。よろしくね。で、何くん?」
「……藍峰駿弥、です。」
聞き覚えの名前に、目を瞬かせた。なんと件の転入生らしい。確かに、証明用写真で見た顔だ。眼鏡で印象は変わるもんだ。
「君が藍峰駿弥くんだったんだね。生徒会の方で把握はしてるよ。ようこそ、旗下高校へ。」
「歓迎のお言葉、感謝します。」
「あれー、駿弥くん、転校でもしてくるの?」
俺の言葉に、若は空っ惚けて聞いてきた。
これは、俺が生徒会で知り得た情報を流してるのを悟られないようにだ。俺が情報を流してると思われれば、今後の信用問題に繋がる。俺が生徒会長をやってる一番の理由である、学校での情報戦で、動きづらくなる理由を作るわけにはいかない。
「あぁ……、そうだよ。よく分かったな。そろそろ通達が来るかもしんないけど、オフレコな。」
「分かってるよ。ふーん。じゃあ、後輩くんになるわけだ。ふふっ、楽しみだなぁ、君みたいな子がうちの学校に来るなんて。」
「僕も、お2人のような先パイがいるなんて、とても楽しみです。この展示もとても楽しめましたし。僕の満足いくものがあるなんて、思ってませんでしたし。来てよかったです。では、僕はこれで。今後ともよろしくお願いします。」
「うん。転入直後の世話役は俺になると思うし、いつでも頼ってね。藍峰くん、うちの生徒になる日を楽しみにしてるよ。」
「またねー。」
藍峰駿弥を見送り、楽しそうに笑っている若を見た。とても機嫌がいいようで、俺も嬉しい。
きっと、俺以外にその類稀な頭脳で議論できる存在と巡り会えたことにご満足なさっているのだろう。
「……いやー。ほんとすごい子が来るもんだね。あはっ、頭いいって、あのレベルだったんだね。高校レベルの頭いいと思ってた。俺たちと同程度かぁ。初めて見たよね、そーいうの。」
「あぁ。畑本先生が末恐ろしいって言ってた意味が分かったよ。」
「末恐ろしいねー……。ま、いいんじゃない?規格外の高校生。上等だよ。それより景介。昼は時間空いてる?」
「昼食を貴斗と取れるくらいは空けれるよ。」
「よかった。じゃあ、初音のクラス行かない?気になってたし。初音の顔見ときたいし。」
「あぁ、もちろん。俺も気になってた。仕事終わったら行こう。」
「オッケー。俺ここらへんいるし、終わったら合流で。じゃ、お仕事頑張ってね、会長さん。」
若と別れ、生徒会長として各クラスの様子を見回る。どこも繁盛していて、忙しそうだ。俺も、若に問題が降りかからない内は文化祭を楽しめそうだ。
次話から貴斗視点になります




