え、マジで?すごいね
景介視点です
「貴斗、大盛況だな。」
「そだねー。にしても、チャレンジャーいないのかなぁ。最高難度は?」
「……ちらほらやってるのはいるけど、1問目で全員脱落だな。」
文化祭が始まり、俺は生徒会の仕事の合間を縫って、若の隣でクラスの様子を見に来ていた。少しでも若の側に侍る機会は逃せない。
若とともに考えた問題はうまい具合にレベルが分かれており、どんな人でも楽しめるものになっていると思う。しかし、渾身の作である最高難度は、もはや大学レベル、下手したら専門レベルともいえるもので、様々な分野から出題されているので、当然の如く解ける人は皆無だ。
「えー?そんな難しかったかなぁ。今日も外部はいるんでしょ?その中に1人くらい1問目解く人いるでしょ。」
「外部にも解放されてるけどなぁ……。貴斗、それは期待のしすぎだと思うぞ。」
「えぇ……。つまんないのー。」
「って言ってもなぁ。あんなの、貴斗くらいしか解けないだろ。」
「あはっ。まぁ、期待しないで待っとくよ。」
入ってくる客の流れをボーッと眺めつつ、もう一度頭の中で問題を思い浮かべた。1問目がフランス語の時点で大概だ。解かせる気がないのかもしれないな、若には。まぁ、若も俺も、組の仕事で使うから分からないことはないけれど、普通の学生はフランス語なんて使わない。この3日間で解ける人、現れるんだろうか。
「明日は直接見れないし、3日目はそれどころじゃないし。できれば今日解ける人出てきてほしいなー。」
「だなー。」
「明日の段取りは家で確認するとして……3日目はねー。あのデータ、もーちょい詳細があった方が安心だよねぇ。でも時間もないし、直前まで調べとかないと。」
「俺もやろうか?」
というか、やらせてほしい。若の仕事を増やすくらいなら、俺がやりたい。若のためならなんでもする所存なのだ。細かいことは下々のやつらに任せて、若がなさりたいことを優先にしてほしい。そう、例えば、初音ちゃんへのアプローチとか。
そう思い若に言ったが、あまり乗り気ではなさそうな表情をなさっている。
「……いや、俺がやるよ。知らない情報知るの、嬉しいし。知れることなら、全部俺のモノにしたいよね。」
「……そーいうことなら分かったよ。でも、いつでも言ってくれよ。手伝えることは手伝うからな。」
「分かってるー。」
若との会話を元に、今一度スケジュールを見直す。若が初音ちゃんの情報を洗うなら、あの件は俺が代わることもできそうだ。
そんなことを考えていると、教室の中から小さなどよめきが聞こえてきた。何かあったんだろうか。
「……なんだろね、今の。」
「今中にいるのは……あ、1人最高難度がいる。」
「え、本当に?あはっ、面白くなってきた。どんな人がやってるのかな。今の、もしかして1問目解けたってことかな。」
「かもな。1問解けただけでも、超高校級だ。」
「早く出てこないかなぁ。」
若と話している間にも、2度どよめきが聞こえた。徐々に大きくなってきているそれに、若も俺も期待が高まる。あと2問でクリアだ。まさか、本当に解ける人がいるなんて思ってもいなかった。
「あ、また聞こえた。次でラストだね。盛大にお祝いしないと。」
「どんな人かな。」
「あれを解けるってことは……大学生、じゃ不安かな?」
「あぁ、そうだろ。……あ、歓声があがった。これはもしかするな。」
再び聞こえた歓声は、今までのより一際大きいもので、端から聞いていてもクリアだと分かるほどだった。若は早速近くにいたクラスメイトに話しかけ、確認を取っていた。
「ね、最高難度解いた人いるの?」
「あぁ!茶戸、湧洞、あのチャレンジャーやべーよ!高校生だってよ!しかも年下!みーぃんな1人で解いちまった!」
「……高校生が1人で?ほんとに言ってる?ちょ、連れてきてよ。会ってみたいな。」
「おう!待ってろ。」
驚いた。まさか高校生、しかも年下。高校1年であれを解ける人がいるなんて。確実に高校までで触れることのない定理やら言語やら多用していたのに。若と顔を見合わせた。
「あれを高校1年で解けるなんて……。」
「ほんとだよねー。あははっ、トンデモ高校生だね。日本の未来は安泰だよ。俺みたいなアンダーグラウンドの日陰者より、よっぽどみんなの役に立つ。」
「おいおい、貴斗。俺は貴斗ほど他人のこと考えてる奴を他に知らないぞ。そっちの方がよっぽどだ。……それに、それを言うなら、俺もそっちの人間だ。」
むしろ、俺の方がアンダーグラウンドの日陰者、陰の濃い部類だろう。若のように清廉なお考えをお持ちの方と、拷問を趣味と公言し喜びを感じている、若に敵対する者を陥れることに一寸の躊躇いも良心の呵責も感じない俺とでは、どちらが日陰者かなんて、議論するまでもないことだ。
「んふふっ。景介は俺の一番の親友だもんねー。……あ、あれかな。お疲れさまー、君が噂のチャレンジャー君?」
若が俺から視線を外し、俺の背後に向かって声をかけた。




