バレンタイン後
今年活動報告にあげた小話です。本日番外編3本更新。
「ちゃんと渡してきたの?」
ママの質問にちょっと照れつつ頷いて肯定。
「それは良かった。誠司君もようやくうかばれて」
「?」
自己完結してるらしいママの言葉の意味がよくわからない。小首を傾げて見つめてたら、あたしに気付いたママがくすくす笑い出した。
「ほら、今は本命チョコに義理チョコに友チョコで普通しょう? 友チョコなんてママの時代には無かったのに」
そうなのかな? 友チョコってあたしの感覚では結構普通なんだけど。あたしが配る友チョコって毎年誠司が作ってくれたものだったし。あれ、結構評判良かったんだ。今年も作ってくれて、友達から絶賛されて、あたしがお菓子作り上手って思われてるのがちょっと心苦しいけど。
「恵美、昔誠司君が作ってくれた友チョコそのまま誠司君にあげちゃったことあったでしょ?」
「…そうだっけ?」
記憶にない…あ、あった、というか、たぶんこれ、なのかな? バレンタインに誠司にチョコあげたのって過去には1回しかないから。
あれ、でもなんで1回だけ?
「そうよ」
「1回だけ、あげた事ある気がする」
記憶を手繰って、なんだか不思議。
「なんで1回だけあげたんだろ?」
「1回あげたからでしょう」
「え、それはそうなんだろうけど、あたしが思ったのはそういう事じゃなくて」
1回だけあげた時、誠司がびっくりしてたのは記憶にあるんだ。自分の作ったものを貰うのか、ってびっくりしたんだと思う。
でも別に、「いらない」とか言われたわけじゃなかったのに、どうして次の年のバレンタインにはあげなかったんだろう? 1回あげたならよっぽどいじわるされない限りあげたと思うんだけどなぁ。
上手くまとめられなくて、その時の状況から考えまで長々と話すと、ママはなぜか呆れたって感じの表情に。
「誠司君にチョコを渡さなかった理由は簡単。翌年からは事前に確認して、恵美が交換する約束をした友達の分丁度しか誠司君友チョコ作らなくなったからよ。バレンタインにチョコレート菓子のおすそ分けもなくなっちゃったもの」
…それはそうだったかも。ラッピングまで終えた状態で受け取ってたし、友チョコってあたし味見したことも無いんだった。あたしの都合で作ってもらったもので、お姉ちゃんに渡す分じゃないから味見はないのかなって思ってたし。
でも味見はとにかく、数を丁度しか作らない理由は分からない。
「鈍いわねぇ」
「そんな事ないよ」
「鋭かったら今頃照れて真っ赤になるところよ。そうならない恵美は鈍いの」
「そんな事ないってば」
お互いちょっとムッとして、睨みあい。あたしが鈍いか鈍くないかっていう議題は平行線。鈍くないのに。
「誠司君がこれ詰問されるのはちょっと可哀相よね」
「小声で何言ったの?」
ボリュームが小さすぎて、なんて言ったのか聞き取れなかった。唇の動きも最小限で、読唇術もないあたしが読み取れるわけがない。
「良い? これ、ママが言ったって事は誠司君には内緒よ?」
「え? あ、うん?」
睨み合いがいつの間にか終了してて、ママが目の前に。あたしを見つめて、誠司はいないのに『内緒』だっていう内容に声を潜めた。
「本命チョコが欲しい相手から自分の作った友チョコ渡されてショックだったんでしょ。気を効かせて余分に渡したせいでそうなったんだから数だって丁度しか用意しなくなるわ」
あの後目に見えて落ちこんでたしねぇ、なんても言われたけど。
落ちこんだ、なんて知らない。
知らない内に傷つけた? 友チョコだったせいで傷ついた?
ママの言いたい事を何となく理解していくと、青ざめてから真っ赤になった。
「それで諦められなくて良かったわね」
何気なく取っただろう昔のあたしの行動はママから見ても誠司に脈なしだと判断下すに十分なものだったみたい。
何それっ!? 誤解だもんっ!!
とりあえずママを誤魔化して、誠司の所行かなくちゃ。
誤解を解かねばとワタワタ出ていったあたしは、ウチを出た途端にママがあたしの行動にこらえきれず噴き出してたなんて知らなかった。
閲覧ありがとうございました。