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 朱緒あけをがあの後、警察を待たずに帰ってしまったせいで、残された秋帆あきほ大雅たいがで口裏を合わせて、ふたりで見つけたことにした。

 通報した後も事情聴取やらでほぼ一日拘束されて、その日は大学に行くどころではなかった。

 だが、不自然なほどに秋帆も大雅もあまねを殺害した犯人だと疑いを掛けられることはなく、終わった後はすんなりと家に帰された。

 その後、警察から呼び出されることもなく、すでに一週間が過ぎている。


 廃団地の遺体は完全に炭化しており、身元の解明に時間が掛かるということであったが、ふたりの証言と、あまね少年の失踪のために彼の遺体とは明言されてはいないものの、そうと匂わせる言葉でニュースでは報道されていた。


 放火未遂の現場を目撃されたことに動揺し、所持していた灯油を用いての焼身自殺ということになっている。

 根拠はまったくないが、先に帰った朱緒が何かしたのだろうかと、疑わずにはいられない。


 事件の翌日には日常に戻された秋帆だったが、しばらくはその事件のニュースばかりをネットで検索していた。彼自身目撃者にも関わらず、まったく蚊帳の外のままで事態は終息していく。少年の死が日々の事件の中に埋もれていく無常さに、次第に検索の頻度も少なくなっていった。



 秋帆がフリースクール『ひなどりの森』の玄関口から出ると、すでに帰ったはずの大雅が外に立っていた。建物の影にいるとはいえ、外気温は三十度を超えている。


「大雅くん、どうしたの? こんな暑い中にいたら倒れちゃうよ」

「大丈夫です、ネッククーラーつけてるし。ずっと尾行してたんで、慣れました」


 彼なりの冗談なのだろうか、微かに笑っている。髪の毛も短く切り揃えられて、一週間前の彼とは見違えるばかりになっていた。


「歩きながら話そうか」


 じりじりと照り付ける日差しの中を、ぽつりぽつりと言葉を交わしながら歩いた。


「……あの、ミケ先生、どうしてるんですか」


 途中で消えた朱緒のことは、彼も気にはなっているようだった。


「今日も普通に大学に来てたよ」

「あのとき、いきなり帰ったんで吃驚しました」

「うーん…… あれはね、僕も正直驚いた」

「あの人、大丈夫な人なんですか?」


 大雅が眉をひそめて秋帆を見上げている。その目は猜疑心に充ちていた。


「きっと、ミケ先生にも事情があったんだよ」


 それは、大雅にも秋帆にも知りようのないことだ。


「……本当に、秋帆先生にはお世話になりました。警察でもいろいろ庇ってくれたって聞きました」

「大雅くんは何も悪くないんだから、当然だよ」

「でも、こんなに僕の主張がちゃんと受け入れられたのは、秋帆先生のお陰かなって……」

「それはどうかな……」


 断じて違う。秋帆の功績などでは決してない。

 だが、無邪気に秋帆を信じる大雅を、強く否定することができなかった。


「次からはどんな理由があっても犯罪を目撃したら見て見ぬふりはやめて、ちゃんと通報しなきゃダメだよ」

「はい、分かりました」


 大雅は驚くほど素直に頷いた。


「……ぼく、このフリースクール今日が最後で、来月には東海地方に引っ越すんです」

「それは遠いね」

「転校先が一学年二十人の学校らしいんですけど、次はいじめられないように、頑張ります」


 ここまで心を開いてくれるようになった彼と離れるのは少し寂しいが、転校や復学できるならばそれに越したことはない。


「……もしまた何かあっても、きっと助けてくれるところがあるから。何なら、うちに帰って来ればいいし」

「それはめちゃくちゃ遠くないですか?」


 ふっと笑った大雅の顔が、十四の少年らしい表情をしている。その笑顔を見ることができただけでも、秋帆は救われる思いがした。


 駅に着き、同じ方面の車輛に乗って、他愛のない話を続けた。

 ゲームのことや、勉強のこと、将来のこと――


「そうだ、ぼく。あの日から死んだミケの夢を視るようになったんです」


 ぞわりと、嫌な予感がした。


「夢の中で、ミケが燃えてるんですけど、燃えてないっていうか…… 表現が難しいんですけど」

「……」

「それで、あまねくんが焼け死んじゃったのは、ミケのお陰かなって、思っちゃったんです」


 彼がポケットの中に入れた手から、カキンと、小さく金属音が聞こえたような気がした。


「そんな訳ないよ」

「そうですよね」


 車内放送で、駅名が繰り返し繰り返し、呼ばれている。


「……あ、僕、次の駅で降りないと」


 秋帆は鞄を肩にかけた。

 座席に座る少年の足元にぴたりと寄り添う獣の死霊に視線を落とす。その毛皮の白い部分が、すこしづつ減っているような気がした。

 ――否、そんな訳はない。

 だがしかし、三毛猫の黒い毛皮が焼け広がって、真っ黒な猫になる嫌な想像をしてしまった。


「じゃあ、さよなら、秋帆先生」

「うん、新しい学校でも元気でね、大雅くん」


 秋帆は手を振りながら、電車を降りた。




終わり

ここまでお付き合いいただき、誠に有難うございます。


「群体のみづうみ」は、9/9より連載開始予定でございましたが

校正、推敲がまだ充分にできておらず、9/14より連載開始させて

いただきます。


もし、ご感想などいただけましたら大変、励みになりますので

どうぞよろしくお願いいたします。

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