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元人形少女は神様と行く!  作者: 餠丸
2章〜強欲〜
60/60

20th.熱


 ソフィアとエヴァより告白を受けた翌日に、彼女二人は冒険者としてギルドに登録をした。

 依頼について色々教えてほしいと言われ、最初は迷ったものの押しに押されて押し負け、登録を手伝い、三人としての組を結成した。

二人共に冒険者としての制度や規定を素直に聞き入れ、驕らず難易度の低い依頼紙を持ってきては、一緒に依頼を熟す作業をその日に行う――二人共呑み込みが早い。

 教えたことをすぐに実践するし、学院で学んだことを応用して行動に移す。

 自分が冒険者という職業を始めた初日など、二回三回とものを言われても失敗したりとボロボロだったのに、凄い成長だ。


(それに……動きも良い)


 意外に思ったのは二人の身体能力だ。

 ふとした時に現れた魔物の動きに即座に対処し、奴らを錯乱させるその動きには目を見張る。

 魔物を殺める手段については教えていない。まず武器を持っていないため、二人がしたのは主に魔物の体力を奪うという方法を用いていた。

 聞けば、運動することを日常の生活に取り入れているらしく、家の周りにある大きめの石など重量物を用いる体力向上運動もやっているらしい。

 もしかすると、魔法を使わなければ二人とも自分より膂力があるのではないだろうかと不安になる。実際、自分の腕は他の男子と比べてみても細いように見えるし、男らしいかと問われれば否だ。

 身体能力を素直に褒めた時、彼女たちは「そっちの方が素早く動ける」と言ってきた。


「そりゃ……雷の属性魔力を用いて身体能力を向上させて補っているから」


 学院でも何度も習う事だ。

 『勁』を例えに考えてみれば分かる。

 人間の動きは基本的に脳から送られた電気信号によるものであることは大昔に解明された。底から考えると『勁』と言った魔法によって身体能力が向上するのは当たり前と言えば当たり前なのだ。


「もっと、誇っても良いのに」


 ソフィアからそう言われた。

 

 レオは雷の属性魔力を難なく操ることが出来るが、二人はそう上手くいかないと話す。命の属性魔力と同じように自在にその動きを作れない、操作できない。

 レオの扱うその属性魔力は学院で習う通り「最も扱うのに鍛錬を要する」「慣れるまでに時間が掛かる」という評価がされている――自在に使えることをもっと自慢げに語っていいのだと、二人はレオに言った。


「うーん……もうちょっと、うまく扱えたら」

「強情だね」


 そんな会話をしながら、その日の依頼は完了した。


 相変わらず、貰った報酬を見る二人の目は煌々としており、何度も自分に「貰っていいの!?」と確認する様は何と言うか、微笑ましいを通り越して面白いまでもある。

 自分で達成した依頼なのだから貰っていいものなのに、何かしらの対価を払わなければいけないのでは? と問うのは何故なのだろう――今までの貧困生活がそうさせるのか?

 

(俺の時は……どうだったっけ)


 初めて報酬を貰った時、自分はどんな反応をしていただろう――確か、その日の晩御飯の事を考えていた気がする。

 家を出て、一人で暮らすと初等教育学生の身で考えて、食べ物に在りつくことに必死だったから、報酬額が多いとか少ないとかは考えていなかった。その日の食費分があればよかった、くらいの感覚だったと思い出せる。


「中難易度だから、この前のよりかは少ないけれど」

「いやいや、多い多い!」


 今回達成した依頼の難易度は中難易度――報酬は数万から十数万程度だったが、二人にとっては大金だと否定された。それもそうか、と反省する。

 高難易度の依頼ばかり達成していると金銭の多い少ないの感覚が狂い始めると確かに先達の冒険者たちは言っていた。こればかりは二人の感覚の方が正しい。

 何せ、学生の身だし、数万という金額は一般的な学生の月のお小遣いの数倍だと聞くし……。


「ねえ、レオ君は報酬ってどうしてるの?」


 貨幣を数え終えたソフィアがふとそんなことを聞いてきた。


「報酬か……生活費とか武器や服を新調したり、あとは貯金とか」

「貯金…………」

「今後の生活に困らないようにってこと?」

「そうそう。今後怪我した時とかに向けての備えみたいな」


 二人は自分の家庭の事情の事は知っている。だからこそそれ以上は何も言及してこなかった。

 それは兎も角、金銭で幾ら備えがあろうと困ることはない。


「別の国に赴くような時が来た時、テュワシーと物価が同じという訳じゃない。貨幣通貨が違えばその通貨の価値も全然違うって社会経済学で習った通り、どういう目的の為に貯蓄するかも別々……冒険者稼業は稼げる職業だ」


 稼げる職業を営んでいるうちに稼げるだけ稼いで、怪我をして辞めることになってもお金を稼いでおけば、比較的生活は安定する。

 時々散財はするけれど、正直なところ今の貯金は結構ある――金額を明かしたりはしないけれど、それなりには貯めているから、いつ怪我しても大丈夫だ。

 経済先進国は他国の貨幣通貨を為替して金を稼ぐ人もいると聞くが……難しそうだ。


「怪我と言えば」


 ふと、ソフィアが声を出す。

 彼女の視線が下へと行き、聞いた。


「レオ君、この前の怪我は大丈夫なの?」


 依頼進行中、足を庇うような動きは見られなかったことを言いつつも、彼女は心配してか聞いてきた。


「もしまだ治ってないなら……私が回復魔法を掛けるけど」


 エヴァがソフィアの顔にばっと視線を向けた。

 どさくざに紛れてレオの体に触れる気だ、とその意図に気付いてからはエヴァも同じ文言を繰り出す――自分だけいい思いはさせない、そんな意図をソフィアはエヴァから感じていた。

 だが、その企みは空振りに終わる。


「大丈夫。この前施術院で治療して貰ったから」


 左足で色々な動きをしながら、怪我がもう完治したことをレオが見せる。

 すると、自分が治療してお礼を言われたかっただとか、介抱やらでレオにべったりとくっつきたかったりと欲を持っていた二人は「そうなんだ……」と残念そうな声を出した。


「治療院だと完治までが長くなるからさ。より早く完治させてくれる施術院が冒険者にとっては最高って言う訳」

「治療院と施術院って違いがあるの?」

「治療院は、魔法は使うけど技術を主体として患者の治療を行う。施術院は魔法を主体とした治療を行う――特定の病気に対して魔術理論が確立されていない為に魔法での治療が困難な病気の人は主に治療院に行く。あとは魔法でいきなり治そうとすると身体に負荷が掛かったり身体的な障害が残ったりするとか」

「そうなんだ」

「本当は治療院に行きたかったけど、冒険者稼業があるし仕方がない……」

「え、なんで?」


 治療院の方が良かった、と漏らすレオにエヴァが疑問を口にした。

 そしてそれを答えようとして、レオが後先考えずに物を言う。


「治療院で働く女性は結構美人が多いんだよ。…………あ」


 不純、まさに不純な動機に、二人の顔が真顔へと変化していく。


「「ふーーーーーーーーーーーーーーーーーーん」」


 自分たちという者がいながら、他の美女やらに現を抜かす暇があるのかと、そう言いたげな「ふーん」だった。

 他に恋人を作りたいだとかそういう訳でもなく、ただ美人な職員を見に行きたいという理由で治療先を考えるとは、少し許し難い――反応を予想していなかったことに冷や汗をだらだら流しながら、レオは考え着く言葉をもってして言い訳を続けた。


「イヤホント……スミマセン」


 結局は、素直に謝罪し事なきを得た。


* * * 


 学院から連絡があり、ジベン以外の生徒の治療がようやく完了したことが三人の耳に入った。

 硝子に『着磁』を付与した張本人であるジベンは重症も重症、治療が難航しているらしく、治療院のお世話になっているらしい――意識の方は戻っているみたいで、それは良かったと言いたいものの、病室で当時の状況を聴取しに行った憲兵たちに「クソ陰キャのせい」だのと、自分の非を認めようとしないらしい。

 教師が語るジベンの今の状況に、魔法による被害を受けた生徒たちは嫌な顔をしていた。


(治療院の入院費……絶対に馬鹿にならんな……)


 生徒たちが小声でジベンへの悪口やらを口々に発している中で、レオはジベンに請求される治療院の入院費及び治療費の心配をしていた――心配と言うと少し違うが、そう思ってしまうくらいには治療院の入院費は金銭面的な意味でも重いのである。

 国民からの税金で、他国よりも安い費用で入院は可能だが、こう何日も入院していれば積もりに積もって莫大な金額に……余程の怪我をしない限り、施術院に行く人間の方が多いのは、そういう事だ。


(二ヶ月……長かったな)


 色々あって、初級生は二ヶ月と言う休学をしている。

 周りの学院の学生よりも勉学の進捗度でいえば遅れているだろうが、教師曰く「お前らは真面目だから、きっと予習は完璧なハズ――どんどんじゃんじゃん内容を進めていく」とちょっと他力本願。

 しっかりと真面目に予習をしていたというソフィアとエヴァは特に問題は無さそうだったものの、入院中も休学中も僥倖と思って遊び惚けていたであろう学生たちは口をぽかんと開けて固まっていた。

 自分はと言うと、ソフィアとエヴァに付き合わされて半強制的に予習をさせられた身だ。抜かりはないと言える。


 授業内容の進行速度が上がったように、ソフィアとエヴァという恋人が出来てから、異様に時間が経つのが早くなったように感じる。

 中級性、上級生――あっという間だった。

 ジベンはと言えば、両親に見捨てられてか今や学院を中退し、せっせと働いているらしい――文句を垂れながら作業をしていて親方らしき人物に殴られていたのを三人で買い物中に見た。やはりというべきか、その次に見た時には職場も変わっており、見る度見る度職業が変わっていた――中々反省しないものである。

 自分はと言うと、絶好調だった。

 中等教育の間、思春期真っ盛りというな時期に性的な接触を自粛させられたのだけはきつかったと言える。

 依頼中、汗ばんだ彼女の姿に何度下腹部がざわついたことか。運動して紅潮した頬、いきなり薄着になる美女二人、相手方の父親に性的な接触を「駄目だゾ」と念を押され続けて、我慢に我慢を重ねていた。

 目の前に高級肉があるというのにいつまでも「待て」をさせられている犬の気分だった――朝にはカチカチ、昼はガチガチ、夜会う時など革帯で挟み誤魔化す日々。

自慰、自慰自慰自慰、二人の若く健康的で官能的な躰に加え、好意に比例して距離も近いし接触も多い――全くもって治まらない。一日に十数回などざらだ。

 しかし、性的な接触がなかったかと言われるとそうではない。いや、これを性的な接触と言っていいのかは疑問が残るというよりか議論が必要だが――実はあったのだ。

 あの時の感触を、興奮を忘れることはないだろう。


 中等教育の上級生――季節は秋に差し掛かる、まだ暑さの残る日だった。

 例年と違いその年の夏は異様に暑く、第九の月であるモンスの月に入ったというのに、少し運動しただけで汗が滝のように流れ落ち、来ている衣服を絞れば汗が染み出てくるくらいには暑かった。

 学院の皆は高等教育に備えて、志望校に入る為の試験対策をし始める時期――もっと早くに始める生徒たちもいるが、それは話が別として……ソフィアとエヴァの二人と恋人になって約二年。

 二人の魔力操作の技術も目を見張るほどにまで成長、ただでさえ官能的で美しい躰も成長。


(明日はきっと眠い)


 その日の宵には性欲発散に体力を使い果たす予想をしながら、学院帰り三人で買い物をしていた。

 エヴァがお手洗いに行ってくると言って場を離れた後、ソフィアと二人きり――近くの長椅子に腰掛けていた時に、ソフィアの方からその言葉が発せられたのだ。


「レオ」


 まず、名前を呼ばれて顔を向けた。


「今日、レオの家に行っても良い?」


 家ではないけれど、なんて言葉が出るよりも先に動揺が内心を染める。


「え?」


 何を言っているのか自分でもわかっているのか、ソフィアの頬は紅く染まっていた。

 暑さのせいで火照っているから涼しい場所に移動しよう、など無粋なことは言わなかった。そこで誤魔化すほど、自分は男として情けないところまで落ちたわけじゃない――童貞ではあったけど。

 官能小説、淫本いんぽんで何度も読んでは右手に息子を任せ、履修した局面――「家に行っても良い?」という女性からの言い回し。了承の意。

 下腹部に血液が集中していくのを感じながら、生唾を呑む。


「あぁ……うん。も、勿論いいよ」

「………………やった」


 据え膳食わぬは男の恥とディセルも言っていたから、ばくばくと強くなった鼓動を感じながら、歓迎する。

 そして「やった」と小声で喜んだソフィアの声に、体の一部分は石のように硬く、天に顔を向けていた。


 ソフィアと、エヴァの父親から性行為を禁じられているのはレオもしっかりと理解していた。

 「早くに子供を作ると苦労するぞ」というのが言い分で、経験談だそう。言われてみれば確かに、双方の両親は異様に若く感じていたし、年齢を聞けば三十一と言うから、その言葉には説得力がある。


(女の子から誘われているのに、それを断るのは逆に失礼――相手の父親から禁止されているなど、女の子からのお誘いを無碍にする言い訳にはならない!!)


 深呼吸して落ち着きを取り戻そうにも、上手くいかない。

 初めての経験を控えた時と言うのは、こんな気持ちなのかと感じた。


「エヴァ、私たち用事が出来たから」

「え、何の?」

「ちょっと……用事」

「え~……? うーん、わかった」


 ソフィアが嘘を言うのが苦手であることも、ここで初めて知った。

 去り際にこちらをちらちらと振り返ってみるエヴァの姿は、どうにも怪しんでいる様子だったが、何も聞かなかったことを見るに、察してくれたのだろうか。


 ――徒歩で向かうこと五分ほど。

 ギルドよりレオの居住場所はその位置にある。居住地と言っても宿なのだが、宿主にひと月分の宿泊代を家賃として払うことで好き勝手に使わせてもらっているわけだ。

 父親からの暴行で傷だらけだったレオを、ディセルが「知り合いの営んでいる宿がある」と住処にさせてもらった経緯がある――宿主であり店主であるグレイと言う男性にはレオも頭が上がらないと言うが、レオに暴力集団から守ってもらっているグレイもレオに頭が上がらないと言っているのは別の話である。

 そんな事情でレオが借りている宿は三階建てで、部屋数は二十――二階と三階にそれぞれ八部屋、一階は片側グレイの居住場所で、その反対側に四部屋ある。

 レオが住んでいるのは一階の一番奥の部屋で、宿泊部屋の中では一番広く、風呂もあるし料理も出来る要人部屋だ。宿泊代金一泊三千コルタだが、一ヶ月二万五千コルタという破格の安さで借りさせてもらっている。

 「何して貰っても構わない」だの「女の子連れてきても全然」だとか言ってくれて、家賃と一緒に菓子折りを渡すのは毎月のレオのやり取りだ。


 興奮七割、不安が三割を内心を占めるが三割の不安が何故か大きく感じる。

 そんな調子の中で、宿の玄関口で掃除をしているグレイと目が合う。


「お」

「ただいま帰りました。グレイさん」


 白髪の混じった黒い髪の初老の男性グレイが「お帰り、レオ君」とにこやかに声を出し、ソフィアにも目を向けた。


「こ、こんばんは……」


 緊張した様子でありながら、頭を下げてソフィアが挨拶をする。


「ふむ…………隣の部屋は今空きだから、どれだけ声を出しても大丈夫だよ。まあ、君の住んでいる部屋は壁が厚いし、聞こえることはそうそうないけれど」


 いきなりのその発言に、ソフィアは何を言っているのか分からない様子だったが、レオは「ありがとうございます……それじゃ」と拳と拳をぶつけて男のやり取りをした後、奥の方へとソフィアを案内する


(一応……毎日片付けてはいるけど、それとは別に臭いとか言われたらどうしよう……)


 換気は日常的にしているが、どうなるかわからないまま鍵を開けた。


「ど、どうぞ……」


 緊張感漂う中、ソフィアを中に入れる。彼女が靴を脱ぐ仕草がいつもよりも色っぽく見えたのは恐らく気のせいだ。

 自分にとっては見慣れたいつも通りの内装――木造りで、外は暑くとも中は涼しい。

 窓はあるが、あくまで換気用として使っている。黒の窓掛けで中が見えないようにしているので、今回の情事が周り家屋の人たちに見られることはないはずだ。

 寝具近くの扉付き本棚を気に掛ける――中には十数冊の官能小説や淫本が入っているが、開けられないことを祈る。


「ここ、一人で使ってるの?」

「え、あぁ、うん」


 緊張して、碌な返事が出来なかった。官能小説を呼んで何度も予習を重ねた局面だと言うのに、現実に起こるとこうまで自分は無力なのかと痛感する――ここで童貞力が発動した訳である。


「ちゃんと、片付けてるんだ」

「あ、ああ……魔道具とか持ち帰った時、転んだりしたら危険だから、さ」


 心臓の鼓動が鳴りやまないまま、ソフィアに返答する。

 いつもは目を見て話せるのに、今回ばかりはどうにも、何故かわからないが目を合わせることが出来ない。

 掌にじんわりと汗が滲み、落ち着かない様子でいる中、ソフィアが寝具の方に向かった。

 そして彼女は、長い靴下に加え上着を一枚脱いで寝具に寝転がった――レオにとってはそれが「おいで」という合図にも見えたが、中々どうしてか体がぎこちない動きをするばかりで、ついには寝具の横に正座するに終わり、レオは苦しんだ。


(何やってんだ俺…………!!)


 そうやって一歩一歩踏み出すのに時間を掛けている中で、ソフィアが言った。


「お父さんにはちゃんとレオのおうちに泊まるって、言ってるから」


 淡い紅色に頬を染めたソフィアがそう言ったのだ。

 どういう意味で言っているのか考えずとも分かる――「今日、私をお召し上がれ」と言っているも同様だと、レオは思った。

 その言葉を聞いてから、ここでやらねば男が廃ると言わんばかりに愚息と同様に立ち上がる。


(いけ……いけ俺……! 抱けェーーッッ)


 深呼吸をして、同じく靴下を脱いだ後に寝具に手を付き「失礼します」といつも以上に紳士的な声音(自称)で言い、ソフィアの横――正確には彼女が向いている前に寝転がる。


「なっ――――――――――――――――――――――――――――――――」


 いつもは一定の距離が離れているソフィアの顔が、いつもよりも間近にある。

 隣に歩いていても、ある程度の距離と言うか、数十糎は離れているのに、今や十数糎目の前に整った顔があるのだ。

 ――こんなに睫毛が長かったのか……口紅もしていないのに血色の良い唇がより艶やかに見える。髪、触りたい。肌のきめ細やかさがもはや赤ん坊並みじゃないか。

 近くで見なければ気付かない細かな点が、レオの興奮状態をさらに加速させた。


(抱きたい……)


 自分の物にしたい、とはっきり感じた。


(あ…………風呂……)


 そこで、漸く自分がまだ入浴すらしていないことに気が付いて、汗臭いのではないかと心配になった。


「ちょっと……俺、風呂入ってくるから……――――っ!?」


 起き上がって入浴の準備をしようとした途端に、手を引かれる。

 それだけじゃない、ソフィアの顔が自分の首の辺りに埋められていた。

 あまりそれをされると、自分の汗の臭いが、と話そうとするも彼女は離れず、やはりと言うべきか膂力は情けないながらも自分よりも上で抵抗が出来ない。

 そこで、カリッと前歯で甘噛みされると同時に肌を吸われ、狼狽してしまった。

 早かった――気付けば吸われていたのだ。


(これは官能小説には書いていなかった、これはなんだ? 知らない! なんだこれ、履修してない! ディセルさん……これは何ですか!!)


痛くはない、が、くすぐったい。

だけども何故か興奮した。自分の知らない知識であるはずなのに、本能から遺伝子に至るまではこれを無意識化で認知しているのか、拒むべきものではないと体が教えてくれる。

視界が暗くなって、布団を被せられたのだと気付いて、ソフィアの体温を直に感じた。


「!?」


 首に回されていた手が頭の方に移動し、暗闇に目が慣れない間にぬるり、と口に何かが入ってきた。


 ――魔力というものは、甘い。味覚的な意味で。

 頭の先から足のつま先に至るまでの人間の表面から毛髪に至るまで、舌で触れると甘味を感じられる。

 ただ単に細胞に内包された魔力が高いだけの人間の肌は、舐めると水に大量の砂糖を入れただけの咽返むせかえるような甘味がする、というのも中等教育で習うちょっとした雑学だ。魔族なんかはそうらしい。

それが粘膜となるともっと甘味は強くなる上、もっと細かに魔力の味というものを感じることが出来る。習った時、組の女子が近くの女子とで手の甲を舐め合っては「ホントだ。仄かに甘~い」と言っていたから本当なのだろう。

 そして、魔力操作の扱い方がだんだんと上達していくにつれて、その甘味はガラリと感じ方が変わる。

 理由として魔力の味は、舌で感じると言うよりかは脳で感じるからだ、と。

 蜂蜜のような上品な甘み、高級砂糖菓子のような上品な等々表現は様々。卑猥な話、性的に触れ合っていたいかだとかそういうものは、体臭は別として、最初に粘膜接触した時から暫くしてから接触があった時にどれだけ魔力の味が好みの甘味に変わったかによるらしい。


 ――ということは、ソフィアは内包魔力が高いだけでなく、魔力操作も優れていると。

 そしてこの魔力の甘味はまさに、自分の好みのど真ん中。


 自分の頬に微かに感じる息遣い、口内で蠢く生暖かくぬるりと滑る何か。

 二の腕に耳を塞がれているせいか、口の中の音が直接頭に響く。


(これ……………………舌だ)


 何をされた? ――――接吻、接吻だ。それも性行為の直前にやるような、深い濃厚な……舌を使っての接吻。

 香水でも使っているのか、と聞きたくなるようないい香りが鼻腔内に広がる。エヴァは蜂蜜牛乳のような甘くてまろやかないい香りがするけども、ソフィアは花のようないい香りがするのだ。

 買い物だとかの時に近くに居るだけでも仄かに漂ってくるその匂いを強く感じる――脳細胞が歓喜に満ち溢れ、活性化するのを感じて、やがて体を離そうとするのを止めた。

 エヴァともこういう事をしたら、同じくあの匂いを強く感じるのだろうか。


 十秒、数十秒、何分経ったか分からない――――中々離そうとしない彼女、逃がさないと脚まで絡めてくる彼女をレオは、ただただ、受け入れた。


 ――数日前のことだ。

 エヴァの家で夕食を済ませることにしたソフィアは、エヴァの母親であるノエルに聞いた。


「ノエルさん。好きな人ともっと密接な関係になりたい時って……どうしたらいい?」


 とんとん、と野菜を切る音が、その質問を投げかけられた時に止まった。

 急にどうしてそんな話を? とはノエルは質問に質問で投げ返すことはなく、少し考えてから答えた。


「殿方のお家に、赴くか招く……とか、かなぁ……」


 ノエルはソフィアとエヴァがレオの事を好きだと知っている。

 その上、恋人関係であることも既知の事実――ソフィアの事も、エヴァの事も応援しているノエルは風紀的な交際よりも二人が自分のしたい交際をすることを彼女自身望んでいた。何より自分がそうだったからである。


「お家…………」


 ハリーは仕事、エヴァは入浴中――二人だけの空間で沈黙が続く。

 そして料理にひと段落が付いたところで、ノエルがソフィアの横に座り、聞いた。


「行きたい方なの? それとも自分のお家――お部屋に入ってほしいのか……」

「私の家は、ちょっと…………ボロボロ……この前も雨の時、酷い雨漏りが……」

「なら、行くしか選択肢は無いわね」


 ノエル、恋愛話に飢えており食いつく。


「どこまで行ったの?」

「…………頻繁に買い物には行っています。手を繋いだり、一緒に依頼を熟している時に三人でご飯とか……」

「ふむふむ?」

「でも……どこか物足りなくて、恋愛の話とかは良いとしてお父さんが「もっと大人になってから情事を知りなさい」なんて言ってきて……皆、恋人同士が何をしているのか詳しく知らなくて」


 つまりは、性的な情報を全く知らない箱入り娘のような……そんな状態である。

 純真無垢――だが、レオと手をどれだけ繋いでいても、話していてもそれだけでは得られない満足感がある事を、ソフィアは何となくながらも感じていたのだ。

 もっと密接になりたい――でも何をすればもっと距離を物理的に縮められるのかが分からない。


「そろそろ……私もエヴァに色々な熱愛の嗜みの教えようと思っていた所なの。私の子だし、そろそろ彼氏君を本能の赴くままに襲いそうだと思っていれば、そう……先にソフィアちゃんなのね……」


 ソフィアからすれば、ノエルが何を言っているのかはわからなかったが、きっと凄い事なのだとごくりと喉を鳴らす。


「でもそうね。カルト君に怒られるのも面倒臭いし、後半は端折るね?」


 こくん、とソフィアは真剣な面持ちで頷いた。


「私もソフィアちゃんみたいに、満足できない時があったの。それで……我慢の限界が来て、ハリーを襲って貪り尽くした十五歳のある日私が最初にしたのは――――――」


 聞いていくうち、顔を真っ赤にさせたソフィアが最後に聞く。


「あの、それってどのくらいの時間すれば……?」

「時間? そんなの気にしてたらいつまで経っても満足なんてできない。好きなんでしょ? 好きで好きでどうしようもないなら、満足するまでさっき教えた接吻の技術を行使して、魔力の味を堪能して堪能して、今まで抑えていた欲求をぶつけてやりなさいっ!」

「ノエルさん……そんな感じだったっけ……」

「ハリーがしっかりしないから、私がしっかりしないといけないけど、私元々こういう話が大好きなの。高揚してきたぁーーっっ!!」


 ――後に語るに、ソフィアにとってもレオの魔力の味は好みのど真ん中。それ故か、エヴァが事実を知るまで、ソフィアはレオの家に頻繁に出入りし、接吻のみで終わる日々にレオは「生殺しや……」と自慰の回数を増やした。


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