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勇者パーティーから追放された雑用係は全てを呪う復讐者に、なりません。  作者: 水無月 黒


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第五十八話 場末の怪しげな酒場にて

ブックマーク登録ありがとうございました。

 アレクの持ち帰った第九階層の情報に、冒険者ギルドは、国は震撼……しなかった。

 一般の冒険者には第九階層のまだまだ遠い話だった。第五階層で安定して採掘できるようになって、第六階層で漁をして、更に第七、第八階層も制覇しなければ第九階層までは届かない。

 大型モンスターのドロップアイテムは魅力的だけど、それはずっと先の話。冒険者ギルドは今は情報の蓄積に専念している状態だった。

 モンスターがダンジョンの外に溢れ出したら他人事ではなくなるのだけれど、その時は冒険者や冒険者ギルドではなくて対処は国の管轄になるからね。

 一方、国は国で第九階層の巨大モンスターが攻めてくる危険性を前々から認識していた。冒険者ギルドに集まる各階層のモンスターの情報から魔王の軍勢を想定し、対処方法の検討する。そのような研究を三百年間続けてきたらしい。

 アレクが今回第九階層のモンスターをダンジョンの外に出す仕掛けを探していたのも、そういった国からの要請があってのことだったそうだ。

 魔術的な仕掛けならばエレノアさんが解析することができる。巨大なモンスターでも出現位置が予め分かっていれば対処もしやすくなる。今回その当てが外れてしまったけれど、それもまた想定の範囲内ということらしい。

 まあ、想定内の情報と言っても探索の成果は大きい。それなりの広さの地図(マップ)に結構な数の摩核とドロップアイテム。そして多数の新発見のモンスターの情報。

 第九階層では冒険者はモンスターを避けて動くから、モンスターの詳細な情報は少なかった。目撃情報にしても遠目で見た曖昧なものばかりだった。

 今回は間近で見たからね。反撃を受ける前に瞬殺したから戦い方とかは分からないけど、モンスターの外見の特徴は可能な限りメモしておいた。元になった魔物が特定できれば、モンスターの能力なども推定できるだろう。

 第九階層のモンスターについては国も危険視していて、目撃情報に対しても報奨金を用意していた。

 そんなわけで今回も報酬をいっぱい貰いました。当然、大宴会が開かれました。


 王都の片隅、いつもの怪しい酒場に僕は来ていた。

 「王都は少々治安が悪化しているが、勇者パーティーに手を出す気配はない。俺が言うことでもないのだが、この依頼そろそろ終わりにしても良いのではないか?」

 ダンジョンから戻る度にジャックと会って報告を聞いているけれど、確かに勇者アレクとその仲間の安全という点ではそろそろ問題ない状況だった。

 貴族の動向についてはレオンハート殿下が頑張りまくった上にローフォード公爵まで睨みを利かせているので、アレクにちょっかいをかける者はまずいないだろうとのことだ。

 裏社会の方も勇者関係者には手を出さない方針で、むしろ迂闊に手を出そうとする者を抑える方向で活動しているらしい。

 冒険者に関しても、毎回の宴会が功を奏したのか、アレクを悪く言う声は聞こえてこない。

 それに、前世の小説でも、書籍版ではアレクへの復讐を果たして終わりだった。運命(シナリオ)の強制力も既に出番がなかった。しかし――

 「もうしばらく頼むよ。王都の治安の悪化というのも裏社会は関係ないものなんだろう?」

 「ああ、裏社会はむしろ暴走気味な末端を抑えようとしている。しかし、それが何か関係あるのか?」

 この辺りのことは説明しないと分からないだろう。

 僕はしばらく前から運命(シナリオ)の強制力に付いて考えていた。

 僕が復讐者にならなくても小説と同じようなイベントが発生した。だから何らかの強制力は働いているのだと思う。

 けれどもそれは絶対的なものではない。僕が生還したところからそうだし、カレンさん、エレノアさん、アリシアさん、アレクと全員が復讐イベントを生き延びた。

 少なくとも全能の神が天上から偶然や人心を操って運命(シナリオ)の通りに話を進めたという感じではない。

 全知でも全能でもない何らかの意思が、知る限りの情報とできる限りの能力を駆使して、不死之王(ノーライフキング)の復讐者にならなかった僕に代わって、勇者パーティーのメンバーに害をなそうと動いていたのだ。

 そして、小説のストーリーを再現しようとしているのでなければ、勇者パーティーに敵意を持つ最有力候補は魔王エグバートだ。

 迷宮核(ダンジョンコア)は僕が破壊してしまったから、アレク達に倒された魔王エグバートが復活することはないだろう。けれど、魔王の支配下にあったダンジョンはまだ残っている。

 肉体を失った悪霊状態でも配下のモンスターに指示を出せるのか、アレクに倒される間際にでもこっそりと命令を下したのか。

 「つまり、ダンジョンのモンスターが王都で暗躍して勇者の仲間を襲わせるように仕向けたということか。」

 僕の考えをかいつまんでジャックに説明した。前世の記憶とか、運命(シナリオ)の強制力とかは省いて。

 「その可能性が高いと思う。魔王が王都を攻めるつもりならば、事前に王都で諜報活動を行っていても不思議はないだろう?」

 魔王が本気で王都を攻め落とすつもりならば、王都内部の情報収集をしていないはずがない。そしておそらくそれは可能だ。

 ダンジョンのモンスターはその全容が知れない。小説の主人公(グレッグ)がやったように上位のアンデッドはパッと見人間と区別がつかないし、第八階層のウォッチャークロウのように普通の鳥と大差無い外見のモンスターもいる。

 ネズミのような小動物や、小さな昆虫型のモンスターがいたら、王都への侵入を防ぐのはまず無理だろう。

 「諜報用のモンスターはたいした戦力を持たないだろうし、王都攻略まで派手な動きはできないから人を扇動してアレクの仲間を襲わせたのだと思う。」

 そうとでも考えないと色々不自然なんだよね。カレンさんの襲撃は黒幕の貴族がバカだっただけとしても、エレノアさんの事件でプロの調薬師が途中経過も確認せずに薬の副作用で患者が危なくなるまで放置していたのは明らかにおかしい。

 アリシアさんのストーカー二名についても、まああの二人は最初から狂っていたのだとしても、どう見ても相容れない二人が一緒に行動していたり、変なところで合理的だったりと不自然極まりなかった。

 「王都の治安の悪化もその活動の一環なのだと思う。でも情報収集だけならともかく、人を操ったり破壊工作を行えるモンスターは数が限られているだろうから……」

 「不審な事件を追って行けば、そのモンスターを見つけられるかもしれないわけか。」

 「そう言うこと。僕も勇者パーティーの一員になったからね。こういったところでも貢献しなくちゃね。」

 まあ、この依頼はだめもとだけどね。諜報用のモンスターが王都に入り込んでいる可能性についてはアレクにも話してある。いずれ国も調査を始めるだろう。

 ただ、人心を操るモンスターについては確証のまるで無い推測の話なので、まともに調査されるかも分からない。それに、裏社会の事情にも通じているジャックだったら国とはまた違った角度から成果を出せるかもしれない。

 それに、僕にはもう一つ気になるがあった。

 前世で読んだ小説は、書籍版ではアレクに復讐を果たして終わりだったけれど、ネット版ではまだその先まで続いている。

 勇者アレクへの復讐を果たした主人公(グレッグ)は、それでもなお復讐心が収まらず、アレクを勇者と讃えた王都の一般市民へ、そしてアレスター王家へと矛先を向けて行く。

 幸い、と言うべきか、小説では一般市民に対する無差別テロは失敗している。けれども必ずしも小説の通りにならないことは証明済みだ。楽観はできない。

 それに、今小説のイベントを起こそうとしているのは不死之王(ノーライフキング)になった復讐者ではない。魔王の遺志で動いているダンジョンのモンスターならば、王都で起こした騒動に合わせてダンジョンからモンスター軍団が攻めてくる恐れすらあった。

 それにしても……。

 ジャックと別れ、僕は一人考えてしまう。

 この世界の未来を予言したかのような、あの小説は一体何だったのだろう。

 ゲームや物語の世界に転生する話の場合、よくあるのがそのゲームや物語を知った神様がそっくりな世界を創るというものだ。

 今の状況を作り上げるために何千年もの歴史を操作してきたのだろうか。それとも世界五分前創造説?

 でも、小説そっくりに創ったにしては細部が違い過ぎる。特にアレクやアリシアさんの性格が正反対だ。世界設定や人の名前まで同じなのに、肝心なところが違っている。これでは僕が前世の記憶を思い出さなくても不死之王(ノーライフキング)にはならなかっただろう。

 逆に、変な電波か何かを受信してこの世界のことを知った作者が妄想を織り交ぜてあの小説を書いたのだろうか?

 世界の背景とか、人名とか変化しない部分は正確に伝わって、細かい出来事はぼんやりとしか分からなかったから想像で補って物語にしたとか。うん、なんかありそうな気がしてきた。その場合僕は過去に遡って転生したことになるけど、異世界転生している時点で今更だよね。

 でもね、この世界で起こった出来事は、小説のイベントを再現しようとするかのような不自然さを感じるんだよね。うーん。

 本当に、あの小説は一体何だったのだろう?

 この世界は、一体何なのだろう?

 どうして僕は、前世の記憶なんか持っているのだろう?

 一体僕は、何者なのだろう?


グレッグの疑問に答えはありません。

というか、グレッグ自身も実はあまり気にしていません。

前世の記憶があろうとグレッグはグレッグであり、それ以外の何者でもありません。

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