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勇者パーティーから追放された雑用係は全てを呪う復讐者に、なりません。  作者: 水無月 黒


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第五十七話 第九階層を探索します

 ついに第九階層にやって来た。ここまではまあ順調な方だろう。

 第九階層は迷宮型の階層だった。見た感じは洞窟のような通路が続ている。しかし、同じ洞窟のような通路でも、第三階層までのものとはまるで様相が異なっていた。

 第九階層の通路は、異様に幅が広いのだ。軽く十メートルを超えるくらいはある。高さの方も二十メートルくらいはある。

 第八階層の飛竜(ワイバーン)を連れてきても、割と普通に飛べるんじゃないかな。大きく旋回とかは無理としても。

 「それでは、第九階層の探索を始める。十分に注意して進むように。」

 これまでも気を抜いて探索をしたことはない。それでも、アレクが改めて注意を促すくらいにこの階層のモンスターはヤバかった。

 僕たちはいつにも増して慎重に探索を開始した。


 「その先を曲がったところに、モンスターがいます。たぶん一体。」

 ジェシカさんが声を潜めて報告する。この階層のモンスターはまだ見たことがないせいか、ちょっぴり自信なさげだった。

 こっそりと曲がり角に近付いてその先を覗いてみると、……いたいた、モンスターが一体。

 特徴的な長い鼻、鋭く大きな牙とやはり大きな耳、そして毛深く巨大ない体。ファーエレファントと呼ばれるそのモンスターは、前世の僕が見たらこう言っただろう、「マンモス」と。

 体高五メートルに及ぶ巨体を誇るファーエレファントだけど、この階層では特別に巨大なモンスターというわけではない。

 第九階層の通称は『巨獣エリア』。巨大なモンスターばかりが出現する階層なのだ。


 「バオーン!!」

 僕たちが通路に姿を現すと、ファーエレファントは即座にこちらに向き、戦闘態勢を取った。大きな図体で、ずいぶんと神経質なこと。

 当然戦闘準備を整えて姿を現した僕たちは、即座に行動を開始する。

 最初に飛び出したのは、僕とジェシカさんだ。さすがに正面からは当たれないので、僕は右から、ジェシカさんは左から同時に近付いてその太い脚に斬りかかる。

 「バオ?」

 ファーエレファントは左右どちらに対処しようか一瞬迷って迎撃しそこなったみたいだ。ラッキー。ファーエレファントの攻撃が向かってきたら全力で逃げなければならないところだった。

 僕とジェシカさんは防具を強化しているけれど、これは第九階層の巨大なモンスターの攻撃を避け損ねても、一回くらいならば即死せずに耐えきることを目標にしていた。

 即死さえしなければ、魔法薬(ポーション)かアリシアさんの魔術で助かるからね。それでも一撃喰らったら戦闘不能になるから、必死になって避けるしかない。

 幸いすぐには攻撃されなかったので、そのまま後ろ脚にも切り付けて、後方へ離脱する。

 でも、ほとんどダメージはなかったみたい。十センチくらいは刺さったと思うけど。まあ僕とジェシカさんは注意を引き付けるための囮だから問題ないけどね。

 本命は、後を追って接近しているアレクとカレンさん。その背後ではエレノアさんが強力な攻撃魔術の準備をしている。必勝の布陣だ。

 まずはアレクが一撃入れる。

 「弧月斬(ルナティックスラッシュ)!」

 って、いきなりゼロ距離での弧月斬(ルナティックスラッシュ)!?

 いや、こちらの方が本来の使い方なのかもしれない。ファーエレファントに深く食い込んだ聖剣から斬撃が飛び出し、その巨体を内部から破壊しつつ進んで行った。

 これは、巨獣殺しの技だ。空の上のモンスターを撃ち落としたのはその応用に過ぎなかった。

 摩核と立派な二本の象牙を残してファーエレファントが消滅する。

 あれ? アレクの一撃だけで倒しちゃったの?

 前回来たときは、アレクとカレンさんが前足を一本ずつ切り落とす感じでダメージを与えつつ動きを止めて、そこをエレノアさんの強力な魔術で止めを刺していた。

 それを、何やら必殺技を覚えたからと言って一撃で倒してしまうなんて。どこまで強くなったんだよ、アレク。

 この分だとカレンさんも同じくらい強くなっているのかな。


 第九階層のモンスターに関しては知られていることは少ない。

 そもそも第九階層までやって来る冒険者が少ないこともあるのだけれど、第九階層までやって来ても戦闘を避ける傾向があった。

 過去にここまでやって来た冒険者の目的は、だいたいが魔王討伐だ。第九階層で消耗するのは得策ではない。それに巨大なモンスターは攻撃力も高く、下手に戦えば魔法職など防御力の低いメンバーは一撃で即死の危険性もあった。

 なかにはモンスターとの遭遇を避けながら迷走を続け、偶然帰還用の『ポーター』見つけたので即座に帰還したという例もあるそうだ。

 だから、第九階層のモンスターの摩核やドロップアイテムが持ち帰られたことは少なく、ただやたらと巨大なモンスターばかりだったという目撃情報だけが集まっていた。

 アレクも前回は避けられるモンスターは全て避け、この階層での戦闘は三回しか行っていなかった。

 幸い、第九階層の通路を徘徊するモンスターは単体で、遭遇する頻度も多くない。巨大で強力なモンスターだけに簡単に量産はできないのだろう。

 おかげでモンスターを避けながら移動したり、戦闘になってもどうにか勝利することもできていたのだけれど、やはりモンスターを避け続けていたらまともな探索はできない。

 第九階層を探索する上での最大の障害が、この巨大なモンスターにどう立ち向かうかだった。単体相手ならば割と楽勝だった勇者パーティーでも、複数一度に出てきたり、何度も連戦するようだとどうなるか分からない。

 そのはずだったんだけど……。

 アレクが一撃で屠れるようになったので、この階層のモンスターも雑魚になりました。

 まあ、そうは言っても高い攻撃力を持ったモンスターなのだから油断はできない。不意打ちで攻撃を食らったりすると危険なことに変わりなかった。

 だから僕たちは慎重に、けれどもモンスターがいようと躊躇なく、探索を続けて行った。

 単体の徘徊モンスターならば、不意打ちで先制攻撃が決まるとアレクの一撃で終わっちゃうからね。


 探索を続けていると小部屋を見つけた。

 小部屋と言っても、それはこの階層の基準でのことだ。第九階層では十メートル四方の空間でも部屋には見えない。

 三十メートル四方のその空間は、他の階層ならば大部屋と呼ばれただろう。けれども、通路の幅が十メートル以上ある第九階層では、ちょっと通路が膨らんだだけの小部屋にしか見えなかった。

 実際、第三階層のゾンビやスケルトンを百体くらい入れても問題ない広さなのだけど、第九階層のモンスターでは十体も入れるとかなり手狭になる。

 そのためか、小部屋の中にはモンスターが三体しかいなかった。

 ここも本来は三体()いると言わなければならないところだ。ただでさえ強い大型モンスターが複数体、同時に相手にすれば脅威度は跳ね上がる。

 一体だけなら巨大なモンスターも倒せるパーティーでも、この小部屋の前は避けて通らないか、通路の反対側を見つからないようにコソコソと通り抜けるところだ。

 しかし――

 「弧月斬(ルナティックスラッシュ)!」

 アレクが向かって右側の恐竜のようなモンスターを粉砕した。

 「衝破撃(ソニックストライク)!」

 カレンさんの放った衝撃波が、左側の巨大な蛇のようなモンスターの頭から尻尾まで駆け抜けた。

 「『落雷(サンダーボルト)』!」

 エレノアさんの魔術が、後方にいた巨大なカメのようなモンスターを黒焦げにした。

 巨大モンスターを三体纏めて瞬殺だよ。まあ、下手に反撃を食らうと危険だから、これが一番安全な戦い方なんだけどね。


 「やはり、単体の戦闘力で言えば第九階層のモンスターが一番強いな。」

 それを瞬殺しまくったアレクがそんなことを言い出した。

 「魔王軍としては切り札のはずだが、あの巨体では『ポーター』を通れない。」

 言われてみれば、そうなんだよね。第九階層のモンスターは王都を守る城壁に対する攻城兵器として使えるくらいの力はある。対策を考えておかないと、軍が当たっても蹴散らされるだろう。

 けれども、大き過ぎて『ポーター』に乗れない。

 魔王エグバートがモンスターの軍団で王都に攻め入るつもりなら、この戦力を遊ばせておくのは惜しいはず。

 「この階層のモンスターをダンジョンの外に連れ出す仕組みがあるのかと思ったのだが、今のところそれらしきものは見つからないな。」

 巨大なモンスターを外に連れ出す仕組みならば、それなりに大きくて目立つものになるだろう。それに、この階層だけに大きな『ポーター』を作っても第八階層の『ポーター』を通れない。

 つまり、第九階層からモンスターを直接ダンジョンの外に出すためのショートカットがあるかもしれないのだ。そうなると、一度外に出たモンスターを二度とダンジョンに戻せないというのも変なので、外部から直接第九階層に入る方法もあるかもしれない。

 「魔術で直接召喚するつものだったのかも。」

 エレノアさんがまた別の見解を示す。

 この世界には、契約した魔物を使役する従魔師というかなりレアな職業がある。この従魔師が使用する魔術の中に、離れた場所から自分の従魔を呼び寄せる召喚術というものがあるそうだ。

 魔物と契約するためには複雑な手順があり、特に自分より強い魔物との契約は失敗すれば命にかかわるらしい。また、そもそもダンジョンのモンスターは契約不可能と云われており、従魔師が第九階層の巨大モンスターを召喚することはできない。

 しかし、ダンジョンマスターでもある魔王エグバートならば第九階層のモンスターを従えることも可能だろう。エグバートは元宮廷魔導士だったのだから、召喚術が使えても不思議ではない。

 魔王エグバートが直接召喚して王都に攻め入るつもりだったのならば、魔王亡き今、第九階層のモンスターがダンジョンの外で暴れる心配は無くなったと見てよい。

 けれども、第九階層の巨大なモンスターをダンジョンの外に送り出す仕組みがあるか、もしくは魔王に代ってモンスターを召喚するモンスターが存在した場合、巨大モンスターの脅威が残ることになる。

 アレクは今回の探索で、その辺りの懸念事項を確認したかったのだと思う。


 今回も期限いっぱいまで粘って、第九階層を探索した。

 作った地図(マップ)が小さく見えるのはそれだけ通路が幅広いからです。実際に歩くと無茶苦茶広いです。

 実際に巨大モンスターも何十体も倒したし、『ポーター』も昇り降り両方見つけている。

 ただし、第九階層のモンスターを外部に運び出す仕掛けは見つからなかった。

 今回探索した範囲は第九階層の極一部なわけだけれど、それでも歩いて数日かかる範囲だ。そんなに遠くまで移動しなければ外に出られないとすれば、巨大モンスターを王都に送り込むには物凄く時間がかかることになる。

 そうなると、巨大モンスターは召喚されて出てくる可能性が高くなった。

 召喚術を使うのは既に倒した魔王エグバートで巨大モンスターが外に出てくる心配はもうないのか、それともモンスターを召喚するモンスターが存在するのか。残る問題はそこだった。

 召喚術のような魔術を使いこなすモンスターが存在するとすれば、第十階層以外には考えられなかった。

 疑問は、次回以降の探索に持ち越された。


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