第三十三話 剣聖カレンの最期
・2002年10月6日 表現を修正
誤字報告ありがとうございます。
書き損じではないのですが、分かり難い文章になっていたので修正しました。
ただ、誤字報告の内容だけだと書こうとしたニュアンスが変わって来るので、もう少し広い範囲で見直しました。
ブックマーク登録ありがとうございます。
「何でこないなことに……」
燃え盛る館を見ながら呆然とするカレン。そこへ背後から声が掛けられた。
「剣聖カレン、あの人数相手に逃げ延びるとは、さすがだな。」
そこにいたのは、フードを深くかぶって顔を隠したいかにも怪しげな人物。しかし、フードの下から出てきた顔を見てカレンは驚愕した。
「グレッグ! 生きとったんか!?」
「いいや死んださ、ダンジョンの奥底で。だが、お前たちを地獄に引きずり込むために戻って来たのだ!」
言葉と共にあふれ出る膨大な魔力を感じ、再び驚くカレン。かつての雑用係とは別次元の存在であると理解せざるを得なかった。
「しかし、如何に剣聖カレンと言えども既に満身創痍、満足に剣も握れないだろう。お前はここで死ぬ。」
「くっ……」
ならず者の群れからは脱出したものの、グレッグの言う通りカレンは満身創痍だった。毒と呪いに侵され弱体化し、両手の腱を断たれ剣も握れなくなった今、強大な力を手に入れたグレッグに抗う術はなかった。
「だが安心するがいい、これが何かわかるか?」
グレッグは一枚の紙を取り出した。
「……なんや?」
訝しむカレンに、グレッグは言葉を続ける。
「これはお前の遺言だ。お前が長年溜め込んだ財産は全て『金欠のダレン』に譲ると書いてある。奴ならばお前の隠した財産を銅貨一枚まで探し出してくれるだろう。」
心身ともにボロボロになるまで痛めつけ、最後に本人の最も大切にしていたものを奪い去る。ここにグレッグの復讐は一つ完遂したかに思えた。しかし――
「はん、うちの大切な宝もんは、ダレンの如き小者の手に負えるもんやないで!」
カレンの顔は絶望に染まっておらず、その目には強い意志が宿っていた。カレンは踵を返すと、燃え盛る炎の中に自ら飛び込んで行ったのだった。
確か、こんな感じだった。敵ながらあまりにも潔い最期に、読者の間では評価の高い話だった。まあ、カレンさんに対して、「かっこいい」とか「男らしい」と言った高評価なのでとても本人には言えないのだけれどね。
しっかし、改めて思い返すと、この小説の主人公ってあくどいよね。物語を通してみると、普通なら絶対に勝てない強敵を完膚なきまでに叩きのめすために努力して、知恵を絞って、念入りに準備して、と物凄く頑張っているのだけど、仕上げの部分だけ見るとただ卑怯で悪辣なんだよね。
それから、話中に出てきた『金欠のダレン』と言う人物もこの世界では実在する。
金に意地汚く、常に儲け話を探し歩いている所から、『金欠のダレン』と呼ばれるようになったらしい。裏社会ともつながりのあると言われているチンピラで、孤児院では近寄ってはいけない人物と教えられている。
金に意地汚く儲け話に即座に飛び付くけれども、金儲けそのものはあまり上手くないらしい。目先の利益ばかりに囚われる視野の狭い人物であり、結局最後には騙されて損をするので、本来の意味の金欠でも合っているのだそうだ。この世界でも小説と同様に小悪党なのである。
しかし、実際にはカレンさんは貯えたお金を孤児院に寄付してしまっているから、ダレン氏がいくら執念深く探しても出て来ることはない。カレンさんの本当の宝物は孤児院の孤児たちの笑顔となれば、確かに小悪党の手に負えるものではないよね……あれ?
いや、孤児院に寄付しているのはこの世界のカレンさんで、小説のカレンはただの守銭奴だったわけで……
ああ、前世の記憶のせいで、なんか混乱する~
翌日、アレクは冒険者ギルドに向かい、第四階層の空白地帯――砂漠エリアの探索結果を報告した。
国としてはさして問題視しなかった情報――アレクも言ったようにダンジョンから出てきそうもないモンスターばかりだったからね――だけれども、冒険者ギルドにしてみれば非常に重要な情報だった。
まず、これまで未発見のモンスターの情報の持つ意味は大きい。冒険者の生存率に関わるのだ。
砂漠エリアにわざわざ行こうとする冒険者はまずいないけど、草原エリアで多数のモンスターに追われて砂漠エリアに逃げ込むことならばあり得る。冒険者を見つけたモンスターは、基本的に戦って倒すか冒険者を見失うまではしつこく追いかけて来る。しかし、第四階層ではエリアを越えてまで追いかけてこないことが知られていた。まあ、交戦中のモンスターはエリアを越えても戦い続けるけど。
これまで、砂漠エリアに逃げ込みながら砂漠のモンスターに殺されてしまった冒険者も存在するのだろうと思われた。砂漠のモンスターが砂の中で待ち伏せているという情報だけでも生存率を上げることができるだろう。
また、砂漠の中にオアシスがあるという発見も重要だった。今回作った砂漠エリアの地図も合わせれば、これまで完全に対象外だった砂漠エリアに対する探索の道が開けるのである。
更には砂漠のモンスターから得られたドロップアイテムにも注目が集まっていた。ドロップアイテムはモンスターからしか得られない希少な素材だ。中にはゾンビやスケルトンように何の役にも立たないドロップアイテムしか残さない場合もあるけど、逆に非常に高価で取引されるものもある。
ドロップアイテムは冒険者及び冒険者ギルドにとって大きな収入源なのだ。スコーピオンの毒腺とか、タランチュラの糸なんかがどのような役に立つか、今後の研究が期待されるところだ。
まあ、そんなわけで今回も報告と査定で夕方までかかってしまった。
今回の探索も大成功と言えよう。それでも多くの冒険者によって第四階層の探索が進むのはもっと先になるだろうけどね。
さすがに金貨百枚超えとはいかないけど、毎回金貨で報酬をもらうアレクは既に冒険者ギルドの名物だ。まだ三回目だというのに、冒険者たちは順応が早い。
そして今回も当然のように始まる宴会。アレクの奢りを期待して、冒険者ギルドにはいつもの三割増しで冒険者がたむろしていた。みんな現金だよね。
三度目ともなるとさすがに慣れたもので、アレクも特に問題なく冒険者達との飲み会を乗り切った。相変わらずべろんべろんに酔っぱらったけど。




