第三十四話 カレンさんとデートします
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さて、王都に戻って必要なイベントは一通り熟したので、次の探索に向けての準備を始める。次は最前線と呼ばれる第五階層、ここから先は未踏領域の方が多い階層になる。
幸い皆の武器も防具も破損していないし、鍛冶屋でのメンテナンスが必要なほどに消耗もしていない。また消耗品の補充だけで大丈夫そうだ。
しかし、アレクもカレンさんも展示用の武器のままあれだけのモンスターを倒しておいて刃毀れ一つしていない。一体どんな腕をしているのだろう。
探索の準備は割とすぐに終わったので、あとはアレクの決めた休養期間、体を休めたらダンジョンに出発。のはずだったのだけれど、またアレクがレオンハート殿下に呼ばれてアリシアさんと出かけて行ったのでちょっとだけ延期。
予定外に休日になったので、カレンさんとデートすることにした。
……すみません、見栄張りました。孤児院に顔を出そうと思い、カレンさんを誘っただけです。カレンさんも、孤児院の子供たちとまた来ると約束していたので、快く応じてくれました。
本当はエレノアさんもとジェシカさんも誘ったのだけど、二人とも忙しそうだったので断念しました。
ジェシカさんは、王族の付き人になるための勉強と言うのをやっていた。冒険者を辞めた後もアレクに付いて行く気満々です。
エレノアさんは、貰った屋敷に研究室を作ると言って機材などを運び込んでいた。国から借りた屋敷を勝手に改造していいのかとも思うのだけど、使用人の方々も文句を言わないので大丈夫なのでしょう。
僕とカレンさんは、屋敷の方は使用人の方々に達にお任せして、しばらくはパーティーホームの方で暮らすつもりです。
そんなわけで、僕とカレンさんは差し入れを買って孤児院に向かった。
孤児院の子供たちは、差し入れを持ってくる人を拒まない。子供にモテたかったら、甘いお菓子でも買い込んでて孤児院へGo! 悪用はしないでね。
カレンさんはやっぱり子供にモテモテでした。カレンさんの場合差し入れとか関係なくモテている気がする。
孤児院からの帰り道だった。
「なんや、あんたら!?」
カレンさんが低い声で誰何する。
気が付くと周囲は人相の悪い男達で埋め尽くされていた。
確かに貧民街は治安が悪い。食い詰めて盗みを働く者もいる。しかし、貧しい分助け合って生きているのだ。意外と貧民街の中での暴力事件は少ない。
この連中は貧民街の住人ではない。王都の裏社会の人間でもないだろう。おそらくは王都の外からやって来た盗賊の類。
「へっ、最強の傭兵と言うからどんな大女かと思えば、存外可愛いじゃねえか。どうだ、全財産差し出して俺のオンナになるなら命だけは助けてやってもいいぜ。」
野卑な言葉を吐き出す男が、この集団の頭目なのだろう。ずいぶんとカレンさんを舐め切った態度だ。
今のカレンさんはどこのお嬢様だというワンピース姿。子供に威圧感を与えないようにと、武器を持たない丸腰だった。多人数で襲えば簡単に組み伏せられるとでも思っているのだろう。
僕はこの場面を知っている。
これは小説において剣聖カレンが最期を迎えるイベントの始まり。
連中は、守銭奴と噂された傭兵カレンの財産を狙う『金欠のダレン』が王都の外から招き入れた野盗の一団。その実、主人公が裏で操って呼び寄せた捨て駒と言うのが小説の設定だ。
これまで小説と同じような出来事が起こり、剣聖カレンの最期の地となるファインズ騎士爵邸まで現れてもしやと思っていたけれども、本当にカレンさんの襲撃イベントが起こるなんて!
小説ではここから剣聖カレンの最期まで一気に話が進む。けれども、結末まで小説と同じになるだろうか?
小説では、ファインズ騎士爵邸の使用人を術で操って遅効性の毒を盛り、また不死之王の術で呪いをかけて剣聖カレンを弱体化させた。
しかし、この世界のカレンさんはパーティーホームに寝泊まりしてファインズ騎士爵邸では食事を取っていないし、不死之王の復讐者もいない。
「カレンさん、使って!」
「グレッグ?」
僕は隠し持っていた短剣を押し付けるようにしてカレンさんに渡した。アレクのパーティーで一番弱いのは僕だ。万一の用意は怠っていない。
「遠慮なく使わせてもらうで。」
カレンさんが短剣を抜き放つ。カレンさんが構えると、短剣でも長剣以上に迫力がある。
カレンさんの気迫に呑まれて思わず動きを止める野盗たち。そのまま睨み合いになる。
しかし、この戦いの最初の一撃はカレンさんでも野盗でもない。
「ゲフッ!」
「「お頭!」」
突然崩れ落ちる頭目に慌てる野盗たち。カレンさんに注目が集まったところで潜伏の魔術を発動した僕が背後から殴り倒したのだ。
混乱する野盗たちにすかさず突っ込むカレンさん。一人二人とたちまちのうちに倒して行く。強い。
いきなり乱戦になったことで、少し離れた場所から弓で狙っていた野盗が射ることができずに戸惑っていた。
カレンさんの近くにいるとむしろ邪魔になりそうなので、僕は周囲から削って行くことにする。
途中で野盗から失敬したナイフを手に、屋根の上で弓を手にしていた一人をサクッと倒す。ついでにその弓矢で周囲の野盗を適当に射って即移動。
これを何度か繰り返すと野盗の射手はいなくなった。カレンさん一人を大勢で取り囲むつもりならば味方に当てかねない弓は有効ではない。あまり数を用意していなかったのだろう。弓は弦を切っておいたから、距離を取っても狙撃される心配は無くなった。
元傭兵のカレンさんも、暗殺者スタイルの僕も対人戦闘はかなり強い。僕の場合は正面から戦うと弱いのだけど、カレンさんに注意が集まっているので不意打ちし放題だった。
ただ、数の優位と言うのは大きい。相当大きな盗賊団だったのだろう、二人で倒しまくっているのになかなか数が減らない。
「なんや? 力が抜ける!」
いつの間にか野盗から奪った長剣を振るっていたカレンさんの動きが突然鈍った。
まあ、動きが鈍った上で、それでもカレンさんが野盗を圧倒しているのだけれど。と言うか、手加減する余裕が無くなった分、あっさり斬り殺される野盗が増えたような。
何だろう? 小説では事前に仕込んだ毒と不死之王の呪いで弱体化するのだけれど、現状そのどちらもない。
すると、あとは……デバフかな?
僕は周囲の魔力の流れを調べてみる。こういうのはエレノアさんの方が巧いのだけれど、野盗もカレンさんも魔術で戦っているわけではないからどうにかなるだろう。
……いた! 他の野盗と同じ格好をしているけれど、魔術師だ。しかもその周囲に護衛らしい男が二人付いている。この三人はどう考えても野盗ではない。実力が飛び抜けている。
あの護衛二人は厄介だ。背後からの不意打ちで一人は倒せても、二人目に気付かれてしまう。僕の実力では正面からは倒せない。魔術師の方も凄腕だ。補助魔術とはいえ、本人に気付かれずに魔術をかけるのはかなりの技術が必要なはず。とりあえず、魔術師に向けてナイフを投擲し、即座にその場を移動する。
「ぐっ!」
よし、当たった。致命傷ではなくても、集中を阻害できれば高度な魔術は使えなくなる。これでしばらく新しい魔術の攻撃は来ないだろう。
しかし、ちょっとまずいかもしれない。魔術師の近くにいたような手練れは他にも何人か紛れ込んでいるとみるべきだろう。一人一人はカレンさんよりも格下だ。しかし、今はカレンさんに不利な条件がそろっている。
術者を倒してもデバフの効果はしばらく続く。そしてカレンさんは丸腰だったのだ。野盗から奪った武器は粗末で防具は無い。
おそらく連中はカレンさんが野盗相手に疲弊するのを待っている。疲労がたまった状態で、格下とはいえそれなりの手練れが捨て身で襲ってくれば、カレンさんと言えども危ないかもしれない。
僕は慎重に戦況を見極める。僕の不意打ちが通用するのはおそらく一度だけだ。さっきやったナイフを投げる攻撃も、相手が魔術に集中していたからこそ手傷を負わせられた。次は通用しないだろう。
そうこうするうちに野盗の数が減り、生き残っている野盗も及び腰になる。ここまで来ると見分けるのも容易だ。野盗に紛れ込んだ手練れは五名。魔術師は下がって自分で手当てをしている。
そして、五人の手練れが勝負をかけてきた。カレンさんに向かって次々と攻撃を仕掛けてくる。
対してカレンさんは冷静に対処する。一人目二人目と素早く切り伏せ、しかしその二人への対応でできた一瞬の隙を突いて三人目が突っ込む。三人目は斬られながらもカレンさんの剣をその身で抑え込み、そこへ四人目が――
ここだ!
僕はカレンさんに斬りかかる四人目の男を背後から不意打ち、急所を一撃で仕留める。その間にカレンさんは持っていた剣を放し、代わりに三人目の男から剣を奪う。
五人目の男は……僕が不意打ちで現れたくらいじゃ慌てないか。仕方がない、僕はさっさと引っ込んで――!
咄嗟に横に跳んだ僕とカレンさんの間を、魔術の攻撃が通過した。後方に下がった手負いの魔術師が、根性で放った攻撃魔術の一撃だった。
魔術師の援護射撃に、五人目の男は、え? 僕の方へ突っ込んで来たー!?
まずい、避けきれない!
――チィィィィーーー!
金属がこすれる音を立てて、剣が逸れる。持ってきてよかった、円形盾。これがなければギリギリで避けきれなかった。最初に使うのがダンジョンの外、対人戦になるとは思わなかったよ。
でも危機は去っていない。と言うか、詰んだ。今ので体勢が崩れた。次の一撃は躱せない!
男は容赦なく剣を振りかぶり――
「ぐわぁ!!」
あれ?
「そこまでだ、全員動くな!」
「「アレク!?」」
さすがは勇者、見事に美味しい場面で登場したよ。
グレッグは対人戦では結構強いです。
野盗の雑魚相手ならば正面から戦っても余裕で勝てます。
手練れ相手でもある程度は粘れる実力はあるのですが、不意打ち専門でやって来たので正面から戦うことに苦手意識があります。
最後の一人がカレンではなくグレッグを狙ってきたのは、カレンと戦闘中にグレッグに不意打ちされると確実に倒されるからです。




